第二章 幕間4.ポンポンちゃん③
「何があったの?」
現場である畑に到着し、オレたちはしばらく別行動する事になった。
オリヴィアは、依頼人の話を聞くとかでいなくなってしまった。
おっさんは、農作物を街まで届けるそうだ。
空は曇り空、オレたちはとりあえず畑の見回りをしている。
そんな時、ネムに言われた一言だ。
「……ボクがお話しできるようになっても、ハルトはお話してくれないの?」
オレは話せなかった。
何故だか分からないが、今回の出来事はネムに見せてはいけない、自分の汚い部分をさらけ出す事になりそうでこわかったのだ。
「ハルトがむかしに何があったのかは聞かないよ。でも、ボクが話せるようになってからのことは……ボクに話してほしいな」
首をかしげながら「ダメかな?」と聞いてくる。
そういえば、この世界に来た頃「何でも相談しよう」とか言っていたんだよな。
しばらく考え、少しこわいがネムに話す事にした。
「――なるほど、ポンポンちゃんとそんなことがあったんだね。……よく相談できたね。えらいよっ!」
そう言ってネムは、オレのおでこに肉球を乗せ、優しく触れた。
なでてくれたつもりなのかな?
それにしてもこの言葉、以前オレがネムに言った言葉だ。
こう返されると、うれしいような恥ずかしいような複雑な気持ちになる。
でも、ま、褒められるって悪い気はしないよな。
「なあ、謝った方がいいのかな?」
謝るのは簡単なんだが、相手はオレの言動でやる気になっているんだよな。
しかも本人は「覚悟した」と言っている。
覚悟って……死ぬ覚悟の事だよな。
それに女を捨てるとまで言わせてしまったんだ。
それを「やり過ぎてごめん」なんて言ったら、バカにされていると感じるんじゃないだろうか?
「ハルトは仲直りしたいの?」
「仲直りというか……やり過ぎてしまって申し訳ない気持ちはあるんだが、どうしたらいいか分からない……感じだな?」
「じゃあ、かんたんだよ!ポンポンちゃんを『認め』ればいいんだよっ」
ニコッと笑いネムは言う。
なにやら神秘的な雰囲気が瞳に宿る。
その雰囲気に、オレは思わず聞き返してしまった。
「……認める?」
「そうだよっ!『認め』てあげればいいんだ。……世界はね、誰かと誰かが認め合ってできるんだよ。ハルトがポンポンちゃんを認めれば、きっと世界は広がるよ。――ボクたちが出会った時もそうでしょ?……もう、忘れちゃったの?」
なんだか普段のネムらしくない、難しい事を言っている気がする。
いや、オレが難しく考えすぎているのか?
確かに、あの時オレはネムに出会って、認めてもらえた。――必要とされたって思えて嬉しかったんだよな。
オリヴィアも、こんなオレなんかの言動を真に受けて考えて……悩んだろう。
ひょっとして今回同行したのは、オレなんかに「認められたい」と感じたからだろうか?
だとしたら、もうオレはオリヴィアを……
「その顔は、もうだいじゅぶって顔だねっ」
ネムが嬉しそうにオレを見る。
オレってば、そんなに顔に出やすいんだろうか?
「オレは難しく考えすぎていたのかもしれない。……オリヴィア、こんな状況で一緒に来るなんて凄いやつだよな!」
「そうだね!ポンポンちゃんはすごいよ!」
ネムの言う通りかもしれない。
謝るにしても何にしてもまず、相手を『認める』事が大事なんだよな。
オレたちは畑の周辺を一通り見てまわり、オリヴィアと合流する事にした。
「……それが、どうもここ何日かで……その、ゴブリンが……」
オリヴィアは気まずそうだ。
「オリヴィア、お互い色々あったが、取りあえずこの依頼に集中しないか?依頼を完璧にこなしてこそ冒険者だろ?」
ちょっと言い方が、偉そうだっただろうか?
取りあえず、この娘とは何度か依頼を一緒に片付けて、それとなく謝ろうと思ったのだが……。
運び屋が一緒なんだ。
同乗する事もこれから増えるだろう。
いきなり謝るのも気まずいしね。
かなりチキンだが、難しく考えない。……オレらしく行く事にする。
「あの……その、申し訳ございません」
オリヴィアはうつむいてしまった。
ああ、完全に叱られたと思っちゃったみたい。
どうしようか……これ?
《ハルト、ボクもポンポンちゃんとお話ししたい!……ダメかな?》
どうやら、この雰囲気にネムが気を使ってくれているらしい。
ダメなやつでゴメンネ。
《ああ、いいぞ。……ありがとう、助かるよ》
《えへへっ、ボクがハルトのお兄ちゃんだからねっ》
お兄ちゃん?
お兄ちゃんってお前……?
確か前にもどこかで聞いた発言だが……ネムよ、そんなにオレって頼りないのか、グスン……。
「ポンポンちゃん、こんにちは!」
「えっ?何ですの?」
「ボクは、ハルトの『相棒』で『魔獣』で『お兄ちゃん』のネムだよっ!よろしくね!」
いつものネムお気に入りワードの『相棒』と『魔獣』に加え、今日は新たに『お兄ちゃん』も追加しているぞ。
いきなり言っても、相手は意味分からないだろ。
「あの……私はオリヴィア・ポンポンヌと申します。――オリヴィアとお呼び下さい」
「分かったよ。ポンポンちゃん!あのね!あのねっ――」
当たり障りのない世間話を始めるネム。
実はすんごく気を使うやつなんだよな。
あれれ?オリヴィアの顔が多少引きつってるぞ。
「ポンポンちゃん」ってあだ名が気に入らないのかな?
そこには気を使わないあたりネムらしいけどさ。
まあ、でも少し場が和んだかな?
これなら話せそうだ。
「言葉を話す魔獣は珍しかったかな?」
「……ええ、このような賢き魔獣、私拝見した事がございません。爵位をお持ちの方ですら所有されている方は珍しいんじゃないかしら」
そんなに珍しいのか?
今後はもっと慎重にいかないとダメかもな。
ネムは言葉を話す上に、四属性魔法使いだもんな。
それにしても、「所有」って嫌だな。
うん、出来ればオレがネムに所有されたい!
「ムムッ、ボクは物じゃないよ!」
「ごめんなさい。そのような意味で言った訳ではありませんわ。……私、昔から……その、口が悪いと……」
なにやらシドロモドロになるオリヴィア。
何となく悪意はない事は分かったが、ひょっとして、出会った時の高圧的な態度は無意識だったのか?
これは勘違いされるぞ!
「うんっ、悪気がないならいいよっ。……あのね、ポンポンちゃん。ボク、ゴブリンのことが知りたくてお話ししたんだ。ボクにお話ししてくれないかな?」
その後ネムとオリヴィアは、今の状況について話し合った。
オレ?
オレはもちろん蚊帳の外だ。
いいんだ、オレなんか。
オレが話さないで円滑に進むんなら、オレは黙して貝(使い方あってるよな?)になるよ。
オリヴィアの話をまとめると、依頼者は「ここ何日かでゴブリンが現れなくなったので、念のため周辺の森を見てまわってほしい」と言ってきたんだとか。
こんな簡単な事が報告が出来ないなんて、よっぽどオレはこわいやつだと思われていたのか?
ひょっとして、獲物がいなくて怒ると思われたのだろうか?
オレ、そんなに血に飢えた男では無いのだが……ちょっとショックだ。
それはともかくとして……ゴブリンは森の奥深くに戻ったと考えていいのだろうか?
報酬は減るが、これはこれで好都合だ。
おっさんが戻ってくるまで多少時間はあるが、後は念のため森の中を調べるフリをして、ネムの索敵で周囲の状況を確認し、異常がなければ万事解決である。
世の中平和が一番である。
たまには、こんな日があってもいい。
「ネム、周囲のにおいを『嗅いで』もらえないか?」
「おっけー!」
これはネムとオレの索敵を使う際の合図である。
これなら、ネムの嗅覚で敵を探しているように感じるだろう。
オレたちは森の辺りまで移動していた。
オリヴィアはオレたちの前を、少し重たい足取りで歩いている。
やっぱり女の子にはこの防具は重いのではないだろうか?
防具的に見ても、基礎能力的に見ても、オレの方が防御力が高いのだが、どうも大盾を持つ者は最前列を歩くというのが彼女のポリシーのようだ。
「私にお任せください」
そう言って、オリヴィアは前列に出てしまった。
まあ、ネムの索敵で警戒していれば不意打ちはないし、安全だから良しとした。
女の子が最前列に立つと、それだけでこっちも「頑張らねば」という気にさせられる。
これはすごい事だよな!
そういえば、冒険者になってからパーティを組んで連携を取るのは初めてである。
おっさんは、基本的に運び屋に徹しているので、魔物が襲ってきても手出しして来ないんだよな。
こういう場合、MMOなんかの連携が参考になりそうな気がするが……オレ、やった事無いんだよね。
理由は二つあって、ネットの世界だとどうにも人見知りが働いて緊張してしまった事と、長時間パソコンの前にいると、ネムがキーボードの上に乗ってくる事だな。
役割のあるRPGを参考にすると、オリヴィアが敵を引きつけオレたちが撃破する……って感じだろうか。
まあ、そうなる前に発見次第、ネムの魔法かオレの弓で撃破していけばいいか。
そんな事を考えていると、ネムから念話があった。
《ハルト、やっぱり、ゴブリンはいないよ。ただ、気になる事があるんだ》
《……気になる事?》
《念のため、この辺りをマッピングして他の魔物がいないか確認してるんだけど、この先の洞穴に食人鬼と人間の反応があるんだ》
――食人鬼。
それは名前の通り人間を食べる鬼だ。
体長は5mから10mほど。
夜行性で、あまり知能は高くなく、何故だか昼間に活動すると日光で石化してしまうらしい。
オレたちの世界で言うと、まんまトロールみたいな奴だな。
ランクはCだが、自己回復力が高く厄介な相手だ。
人間は食事の為捕えられているのだろう。
時刻はもうすぐ夕方……奴らの活動時刻だ。
《何匹いる?》
《……5匹だよ。人間は3人》
《数が多いな。取りあえず、うまくオリヴィアに相談してみよう》
「……不味いですわね」
オリヴィアが言うには、最近農奴が何人か脱走して困っていると依頼主が言っていたとか。
明らかに捕まっている人間だよな。
まず、脱走を疑う辺り、この依頼主も大概だと思う。
「多分だが、オレたちの探していたゴブリンも奴らの腹の中だな」
ネムが調べた所、オリヴィアのレベルは16だ。
新人冒険者にしてはかなり高い。
前回の自信は、自分のレベルが高い事を知っていたからなんだろうな、と予測できる。
ちなみに、一般人のレベルは1~5くらい。新人冒険者は1~10くらいだとネムが言っていた。
だが、Cランクの魔物の討伐目安はレベル20以上、しかも相手は五体だ。
今回は相手が悪すぎる。
オリヴィアは連れていけないな。
「オリヴィア、依頼主に事情を説明し、馬を借りてギルドに報告に行ってくれ。応援を呼んでくる間に、オレたちは捕まった人間の救出を試みる」
オレたちだけなら、寝ている所をサクッと『何でも切れる剣』で攻撃すればよいだけだ。
捕まった人間は、生きているのが分かっているのなら助けてやらないとな。
「……一人では危険ですわ」
「大丈夫だよ、ポンポンちゃん。ボクもいるから心配いらないよっ」
「ごめんなさい、ネム様。でも今は、一人でも戦える者が必要なはず。……依頼主にギルドに報告しに行ってもらえばよいのですわ」
「――あのな、もうすぐ夕方だ。事態は一刻を争うんだよ。オレたちが事情を説明しに戻ってる余裕はないの」
「でしたら、私も連れて行って頂けませんか?……覚悟は出来ています。足でまといには、絶対になりませんわ!」
君がいると『何でも切れる剣』が使いづらいから帰ってもらうんだよ。
確かに危険だが、君の覚悟を疑っている訳ではないんだよ。と言ってやりたい。
オレが黙っていると、オリヴィアは顔を悔しそうに歪ませる。
「……私が女だからですの?私は女である事を捨てたと申したはず。――もう死ぬ覚悟は出来ております。もう二度とあのような失態は犯しませんわ!」
失態……失態を仕出かしたのはオレの方なんだが、その事を言われると弱いんだよな。
オリヴィアの大きな瞳は涙をため、涙は今にもこぼれ落ちそうだ。
ああ、たまに居るんだよな。
「私、女捨ててますから」とか言いつつ、本人の仕草はすごく女の子っぽいという……職場のおじさんたちのアイドル的存在。
本人的には仕事で評価されたいのに、周りからは仕事の評価抜きで可愛がられると言う謎生物。
……この娘、絶対女友達少ないぞ。
取り巻きに男が多い訳だな。
本人はその気は無いのに男が集まってきて、それを「自分は戦士として評価されている」と勘違いしちゃった口かな。
「分かったよ。そのかわり、お前は洞窟の外で待機していろ。捕まっている人間を誘導する役だ」
「分かりましたわ!命に代えても必ず、任務を果たしてみせます」
オリヴィアは少女のようにはしゃいでいる。
色々突っ込みどころが多い発言だが、この際スルーだ。
かく言うオレも、この手のタイプに弱いんだよな。




