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第二章 幕間3.森王ザリガニと運び屋たち①

「絶対、仲間を募集した方がいいですよ!」


 新人ちゃんは、真剣な面持ちでオレに告げる。


 この冒険者ギルド、会員の稼ぎに応じて担当職員にインセンティブがあるらしく、特にこの新人ちゃんは張り切っているのだ。


「……うーん」


 確かに仲間がいた方が効率がいいんだよな。

 だが、そうは言っても人型擬態昆虫の一件で、現在オレの人間不信が止まらなく加速していたりする。


 何か……断るいい手は無いものか?


「例えばですね。……こちらの条件を指定して仲間を集めることは出来るのでしょうか?」

「……そうですねぇ。普通の新人では難しいですが、ハルトさんは大マシュラを倒した実績がお有りですので、多少融通は利くかと……」


 なるほど、いい案を思いついたぞ。

 これは言ってみる価値があるかもしれない。


「ではですね。ビキニアーマーの巨乳女戦士と、マシュマロボディーのどじっ子女僧侶、そして普段はツンデレのくせに心配性な貧乳女魔法使いでお願いします」


 ――けっしてイヤらしい意味は無いんですけどね。と付け加える。


 あくまで紳士的に、そう、紳士的にな。


 これなら誰も募集に引っかからないだろう。

 あわよくば募集に引っかかったとしてもオレ得でしかない。


 そうだ、何も手を出すだけが全てでは無い。

 愛でるだけでいいのだよ!


「そうですか……」


 そう言って少し黙る新人ちゃん。


 あれ?怒らせちゃったのかな?


 このくらい冗談で行けると思ったんだが。

 「セクハラです!」なんて言われたらどうしよう?


 しっかり冒険者の規定を聞いていなかった事が、今となっては悔やまれる。


「……そちらの条件の方をお探しする事は出来るのですが、その場合、ある条件を呑んで頂かなくてはならないようです」


 え?行けるの?

 なら期待しちゃうぜ。


 いやはや、言ってみるもんだぜ。


「その条件とは――金髪碧眼で王子という身分を隠して冒険者をする心優しき剣士様、俺様系イジワル最強魔法使い様、眼鏡をかけたクールで腹黒な神官様――を私に紹介することです。もちろん全員イケメンで私の事が大好きなことが前提ですが。……お心あたりございませんか?」


 そう言って新人ちゃんはニコッと笑った。

 だが、目は笑ってはいない。


 ――この女やりおるわ。


 いつまでも新人ちゃんは新人ちゃんだと思っていたが、成長したもんである。

 おじさん、感無量だよ。


 さてと、上手い事ごまかしたぜ!


 新人ちゃんをからかった後は今度の獲物を探そうかね。

 何か稼ぎの良い依頼なんか無いものか?

 

 ちなみに、先ほどの一連の会話が営業時代の得意技の一つ『秘儀・うやむやにするのだ。の術』である。


 口での言い合いで相手に負けてしまえば、相手は気持ちよくなってしまうのである。

 そんで、うやむやにする……人間性を消費する大技の一つだな! 


 最近借金は、怒涛の勢いで返済しているので大分減って来たのだが、金はいくらあっても足りない。

 これからの旅の資金も貯めなければいけないしな。


 そして何より、魔道書が高いのだ!


 ウチのネムたんはあまり着るものには頓着ないのだが、魔道書は大好きなのだ。

 どうやら、大マシュラにやられた時に火が付いたらしく、日々夜遅くまで勉強をし、朝遅く起きるという……健康的な生活を送っている。


 ……自分を持っているヤツって、カッコいいと思う。


 この魔道書、実は店にあるものをネムが触れれば『何でも分かる帽子』に登録可能なのだが、何となく悪い事しているような気がして、そんな事出来ないでいるんだ。


 何か稼ぎの良い……簡単な依頼は無いもんかな。


 そうそう、冒険者ギルドでは『依頼』も受ける事が出来る。

 これは、簡単なものは部屋掃除や木こりから、WANTEDモンスターの討伐まで様々だ。


 受けられる依頼はランクによって制限があり、一般的に見てランクが高い方が難易度は高い。


 まあ、当たり前の話しなんだけどね。


 依頼者と直接話さなければいけなかったり、めんどくさいものが多かったため、オレたちは常時討伐依頼モンスターの狩猟をメインで活動していたりする。


 ちなみにWANTEDモンスターの討伐に関しては、依頼を受けなくても討伐してしまえば報酬はもらえる。

 だが、他の冒険者が依頼を受けたWANTEDモンスターを倒してしまうとあまりいい顔をされない……らしい。


 まだ、そのような事態には陥ってはいないが、なにやらローカルルール的な物があるようだ。


「なにか、オススメの依頼とか無いですかね?」


 オレは探すのを諦め、新人ちゃんに聞いてみる事にした。


 依頼って、Cランクにもなると、もの凄い膨大な数があったりするんだよね。


 もうおじさん、目がしばしばしてきたよ。


「そうですね。……この時期ですと……あぁ、そうだ!面白い物がありますよ」


 そう言って一枚の手配書を取り出す。


「……『森王ザリガニ』の捕獲?」


「そう、です。……この時期にしか取れない森の珍味・森王ザリガニの捕獲です!その身は甘くプリップリで、噛めば肉汁がしたたり落ちるという。……まさに王の名にふさわしい究極の食材です。……ああ、想像しただけでよだれが止まりませんっ!」


 お?目がトリップしてるぞ。

 ……大丈夫か、この娘さん。


 オレはしばらく新人ちゃんをそっとしておく為、依頼書を読んでみる事にした。


 なになに、森王ザリガニとは、深い森林の土の中に生息するザリガニで、成体の体長は、だいたいオレの居た世界でいう150㎝~200㎝って所か……。


 デカいな。

 それにしても陸地に住むザリガニってグロいんじゃなかろうか?

 だって、大きさは違うが、海老なんか陸地にいたらダンゴ虫と変わらないと思うんだ……。


 だが、報酬を見てオレは驚愕する事となる。


 なにっ!

 成体を捕まえてくれば、一匹金貨20枚からの買い取りだと!


 かなり報酬が美味しいんじゃないだろうか?


 ……まさか、凶悪な魔物なのか?


「このザリガニは強いのでしょうか?」

「いえ、実はこの森王ザリガニ、毎年この時期に数匹しか発見されない貴重な食材でして、Fランクなのですが夜行性で……ご存知の通り夜の森は大変危険です。ですので、非常にギャンブル性が高いと言われています」


 なるほどな。

 夜の森を闇雲に探すなんて、普通の冒険者には出来ないよな。


 だが、オレには『何でも分かる帽子』を持つ、ネム隊長がついている!


《……ハルト、ハルト!ボク、そのザリガニ食べたいっ!》


 横を見ると目をきらめかせ、よだれをたらしたネムがオレに念話を送ってきた。


 念話、これに気付いたのはつい先日だ。

 MPを消費するが、これなら内緒でネムとお話し出来るのだ!


 何故今まで気付かなかったのだろう?


 それにしても、興奮したネムは可愛い。

 まさに究極であり至高である。


 ああ、ネムたん、よだれをフキフキしまちょうね。


 オレはハンカチを取り出し、ネムのよだれを拭いてあげる。


《よし、この依頼受けるぞ。索敵は出来そうか?》


 夜の森は危険だが、愛しのネムの為である。

 頑張っちゃうぞ!


《うん!もちろんだよっ。……実はボクに考えがあるんだ。夜さがしに行かなくても、ボクの能力で昼間寝てるところをつかまえれば、簡単なんじゃないかな?》


 ……ああ、そういえば、そうだね。


 まったく思いつかなかった。

 我らがネム隊長は、知略にも秀でていらっしゃる!


「あの……どうかされました?」


 いけない。

 新人ちゃんを忘れて、ネムと二人だけの世界に浸ってしまう所だったぜ。


 オレは念話でネムを褒めちぎった後、新人ちゃんに向き直った。


「……この依頼、引き受けましょう」


 クールに決めたつもりだったのだが、何故だか新人ちゃんの顔は引きつっていた。




「本当に獲れるんでしょうねー、ランドルの旦那?」

「これ、レイ!……ハルト君の目に狂いはあるまいよ」

「まあ、依頼料は前金で貰ってるんで、別にとれなくてもイイんですがねぇ」


 さっきから失礼な事を言ってる金髪ウルフのチャライ男はレイ……本名ベンだ。

 こいつは、偽名で冒険者登録をした口だろうな。


 何故オレがこいつの本名を知っているかと言えば、彼女とイチャイチャしている所を目撃したからだ。

 ヘソだしルックのけっこう可愛い彼女だったので、オレはこいつを敵だと決めている。


 オレの実年齢と同じ26歳の若さにして元Dランク冒険者で、今は彼女と結婚するとかで危険な冒険者を引退した。……いわゆるリア充野郎だ。


 確かにイケメンなんだが、レイなんて名前は名前負けしている。

 ベンも悪い名前じゃないと思うんだがな。


 わんちゃんぽくていいじゃないか!


 隣に居るのはマライじいさんと言って、こちらも元Dランク冒険者の斥候担当だったそうだ。

 Bランクのパーティに在籍していた事もあるらしい。

 優しそうなじいさんだが眼光は鋭い、現役時代は相当のやり手だったのが伺える。


 この二人は運び屋のコンビで、引退し借金で困っていたマライじいさんにランドルのおっさんがお金を貸して運び屋を始めたんだとか。


 ちなみに、このレイくんは冒険者をやめて『守り屋』をやっていた時に、マライじいさんに拾って貰ったらしい。


 守り屋とは……野営地で馬車を守る役目を商売にしてるやつらの事だな。

 色々な隙間産業があるもんである。


 そもそも、運び屋を一人で営む者の方が少ないそうだ。

 おっさんが特殊なんだね。


「おい、ベン。文句ばっか言うなら依頼料返せ。そして帰れよ?」

「ガキが!誰がベンだ?オメェ速攻ボコッちまうぞコラ!?」


 おい、本名に何かトラウマがあるのか?

 さすがにそこまでナイーブだとオレでも気付かんぞ。


 それにしてもこのレイくん、依頼者に対してなんて口を聞くんだよ。

 この国の教育機関は無力なのか。


「お前だよ。偽名負け野郎」

「テメェ、ランドルの旦那のお気に入りだからって、調子乗ってんじゃねぇぞ!?」


 どうもこいつとオレは相性が悪いんだよな。

 この身の程知らずを少しからかってやるか。


「おいレイ。あっちも光の速さなのかい?」

「……クソ、テメェ。表出ろや!ぶっ殺してやんよ!!」


 あらヤダ、コワい。

 どうやら、図星を突いてしまったらしい。


 こいつは俺以上に語彙が少なく、単細胞でからかいがいのある愉快なヤツなのだ。


 今日も美味い酒が飲めそうだぜ!


「二人共、もうその辺にしないか?」


 先ほどまで黙っていたランドルのおっさんがそう言って、自分の肩にトントンと山刀を乗せる。

 おっさんの姿は、山賊の大親分なんじゃないかと思うくらいサマになっている。


 その雰囲気にビビッてかレイくんが黙ってしまった。


 オ、オレ悪くないしっ!

 悪いのはレイくんだしっ!




 オレたちは、森王ザリガニがいる狩場に向かっていた。

 普段は狩場付近の野営地で馬車を止め、おっさんには待機してもらっているのだが、今回おっさんにはオレたちに付いてきてもらい、荷物持ちをしてもらう予定だ。


 沢山捕まえる予定だしね。


 で、馬車に待機要員を置いておく為、この二人を雇った訳だ。


 野営地には石碑のようなものがあり、その周りを囲むように結界が張られている。

 その結界のお蔭で、魔物は近づけないらしい。


 他の狩場の野営地も、石碑がある場所が多いんだよな。


 以前、石碑に結界の効果があるのかと思い聞いてみたのだが、どうやらこの石碑、かなり古い物で、目印にと石碑のある場所を切り開き、後から結界を張ったとの事だった。


 魔物が近づかないのなら、人員を待機させておく必要は無いのではと思うかも知れないが、ここには魔物より厄介な山賊がいる。

 また、同業者の冒険者だって魔が差して盗みを働く事もあるだろう。


 悲しいかな、馬車の守り手は必要要員のなのだ。


 それに、待機中にも色々やる事があるらしい。

 オレたちの場合、ネムがすぐに獲物を見つけてしまう為、獲物の処理――主に血抜きだな――が大変なんだとか。


 まあ、その辺はおっさんのうれしい悲鳴のようだが。


 他の冒険者は知らないが、オレとおっさんは、馬車代を含め一日につき銀貨1枚で契約している。

 そして、獲物や報酬が多かった場合は、だいたい20%くらいをボーナス支給している。


 これはおっさんが言うにはかなり多いそうで、初めは怒られてしまった。

 だが結局、お互い儲かっているうちはこれでいいだろ?という事になった。

 ……と言うか、そうした。


 その分無理も沢山聞いてもらってるし、色々知識も分けてもらってるしね。


 ちなみに、今回のレイくんとマライさんの料金も銀貨一枚から出ている。

 この国の人件費はどれだけ安いの?と言いたい。


 おっさんによれば、今回も獲物が見つかれば20%を運び屋たちで山分けするそうだ。


「二人とも腹が減っているんじゃないのかい?――ほら、これでも食っていなさい。ネムちゃんも食べるかい?」


 そう言って、マライじいさんがオレたちに手製のサンドイッチを振る舞ってくれる。

 このじいさんとは何度か一緒に仕事したが、いつもどこかに食べ物を隠していてオレたちにくれるんだよな。


 ネムはレイくんの事は「うるさいから嫌い」と言っていたが、このじいさんは好きな様だった。


 ちなみに、このじいさんが振る舞ってくれる食べ物は素朴ながら中々おいしい。

 運び屋をやめて、ランドルのおっさんと屋台でも開けばいいのにな……いやだめか。おっさんが強面すぎて客が来ないか。


「静かになった所悪いが、もう直ぐ到着だ。用意をしてくれ」


 オレはサンドイッチを水で流し込み、装備の最終点検を始めたのだった。



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