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第一章 2.SOS

「ほわーぁ」


 大あくびをするオレ。

 その横では、まだネムが眠っている。


 今日は久しぶりに良く寝た気がする。

 思えばこの所、残業続きだったからな。

 何か嫌な夢を見た気がするが……良く思い出せない。


 しばしオレは、ボケーとしながらネムの頭をなでる。


「うーん、何か忘れてる気がするんだが、な……?」


 ……そういえば、今何時だっけ?今日会社は?


 急激に頭がさえだし、目覚まし時計を確認する。


 11時か。……やべっ!会社始まってるよ!

 今日は確かデザインサンプルが届くから、それをデザイナーと確認して、取引先へ見せに行かないと。


 あそこのSV、時間にうるさいから早めに準備して昼前に出かける予定だったのに!


 後悔しても遅いな。

 取りあえず会社に電話して怒られた後、先方にも謝りの電話をしないといけない。

 ハルト様、生まれてはじめて(では無いけど)の大失態だぜ。


 こういう時は、電話前土下座大作戦だ!

 三十六計謝るにしかずってな。


 作戦も決まり、オレは慌てて携帯電話を取り出し、事務所に電話をかける。


「……あれ?繋がらないぞ?」


 しばし考え、もう一度電話をかける。


 そして思い出した。


「ああ、そういえばオレ、妙なもんに巻き込まれてるんだった!」




 その後のオレは行動が早かった。

 友人や知り合い一同に電話をし、繋がらない事を確認した後、電気・ガス・水道が使えるのかを確認した。


 結果、全滅だった。


 街の外に誰かいるかもしれないと、ベランダから大声を張り上げてみるも、返事は返ってこなかった。


 不気味なことに、風の音以外何もしない。

 まるで、オレとネム以外、誰も居ないかの様に。


 もしかしたら、俺たちは異次元に閉じ込められたのかもしれない。

 もしくは、なんらかの力が働いて世界が滅んだのかもしれない。


 ふと、寝ているネムを見た。


 もし、ネムもこのまま目覚めなかったら……。


 不安になり起こしてみる。


 幸せそうに伸びをして起きるネム。

 「なにかあったの?」と言いたげに首をかしげる。


 うん、大丈夫だ。

 ここは、オレがしっかりしなきゃな。

 この子は何があってもワシが守るぜお!


 とりあえず外に出て、当面の水と食料の確保だ。

 そして、他に人・もしくは生物がいないか確認しよう。


 こういう場合、映画なんかだと凶悪なクリーチャーが出てくるのが当たり前なので木刀を持っていこう。


 木刀なんかで大丈夫かって?

 うん、大丈夫だ。問題ない!


 さっきから震えてるのは怖いからじゃない。寒いからだ。

 厚着は……ウン、今からするんだよ。


 ……そうだ、冷蔵庫のソーセージを持っていこう。

 いざとなったら、クリーチャーに投げてそのスキに逃げるんだ!

 そう、木刀はなるべく使わない方向でいこうよ。ガクガク、ブルブル。


 そんなこんなで自分の準備をし、キャットフードを大量に皿の上に準備した。

 水もミネラルウォーターがあったので皿に注いでおく。

 これで万が一オレが戻ってこれなくても、しばらくはネムも持つだろう。


 オレはネムをギュッと抱き寄せた。


「必ず、生きて戻ってきまちゅからね!」


 そう言い残し、颯爽と玄関のドアを開け部屋の外に躍り出る。


 まだ、アパートの中なんだけど、雰囲気って大事だよね?




「おーい!誰かいませんかー?」


 木刀を構えながら慎重に歩く。


 確かこの部屋は、夜のお仕事のお姉さんが住んでいたはずだ。


 念入りにノックをするが、返事は無い。


 こんな時にピッキングが使えたら……。


 いや、別にやましい気持ちがある訳じゃないんだよ。

 中でお姉さんが倒れているかもしれないだろ?


 正義の心と、親切心なのだよ!


 ちなみに、お姉さんと呼んではいるが、多分オレより年下だ。

 いくつになっても、水商売のお姉さんはお姉さんなのだ。

 それがロマンというものである。


 しばらくノックし続けた後、オレは諦めてその場を後にした。

 その後、エレベーターが使えないので階段を下って外に出た。


 オートロックが心配だったが、鍵で開けることが出来た。


 最悪、開かなくなったら階段から侵入すればいい。


 そして、オレはいよいよクリーチャー蠢く(かもしれない)野外に出るのだった。




 ――結果から言うと、クリーチャーは出てこなかった。


 よく考えると、そう簡単に化け物なんかに出てこられてはたまった物ではない。


 ヤツらはあれだ!

 色々と生物の法則に反しているもの!


 初めはガクガクブルブルしながら歩くオレだったが、途中で飽きてソーセージを食べながら歩いた。

 朝ごはんを食べていなかったのでお腹が減っていたのだ。


 良い子のみんなは、調理前のソーセージは食べてはいけないよ!


 大声で人が居ないか呼びかけながら、近所のスーパーを目指す。

 途中、思いついて、公園に『SOS』の文字をデカデカと木刀で書いた。


 地面を掘ったので、多少の風ぐらいじゃ消えないはずだ。


 民家も何件か覗いてみたが、誰も居なかった。

 人々の生活の痕跡を見つけ、寂しさのあまり持ち帰ろうと(主に女性の下着類を)考えたのだが、やめておいた。


 自分がやられて嫌な事は、他人にしてはいけないからね!


 スーパーで当面の食料と水、カセットコンロ、ろうそくなどを集め、レジに置手紙をしておく。

 その紙にはもらっていった物、自分の氏名・住所・連絡先を記入し「元の生活に戻れたら必ずお金をお支払致します」としたためた。


 そのまま黙って持って帰ろうかとも考えたが、なんとなく居心地が悪かったからだ。


 そんな感じで帰路について、一日目は終了した。




 その後、何日か周辺に生き物が居ないか捜索した。


 結果は、やはりまったく見つからなかった。

 石の下のダンゴ虫もGすら居ない。


 本当に、オレとネムしか居ないようだ。


 少し危険かとも思ったが、地面がギリギリある所まで行ってみた。

 自分が落ちないように注意しながら、身を乗り出して下を覗いてみたのだが何も無い。

 ふと気になり空を見てみたが、地面がある場所には雲がかかっており、地面のない場所には何もなく真っ暗なだけだった。


 ただ、不思議な事に夜は来るのだ。


 夜に人が居れば、焚火の光で居場所が分かるんじゃないかとも考えたが、アパートから見渡したかぎり見つけることは出来なかった。


 オレは途方に暮れ、人を探す気力を失った。

 部屋の中にこもって救助を待つ事にしたのだ。


 多分、ネムがいなければ狂っていたと思う。


 何としても、ネムを守る。


 そう改めて誓った。




 ――そしてまた、何日か経過した。


 そんなある日、オレたちは『夢』を見たのだ。



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