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第二章 幕間2.擬態

「最近、大怪我をする方が多いみたいなの」


 そう言えば、モニカ先生も同じような事言ってたな。


 なんでも人間に擬態をして旅人や冒険者を襲うWONTEDモンスター、その名も『人型擬態甲虫モドキムシ』が頻繁に出現しているらしい。


 こいつら、あまり強くは無いそうだが、何しろ仲間だと思い安心しきった所に不意打ちを仕掛ける汚い奴らだ。

 生き残るのは奇跡だと言ってよい。


 ちなみに名前に『人』と付いているが、知能はあまり高くないらしい。


 擬態型モンスター……昔そんな映画あったような気がするな。


 確かに、ここは森が多い。

 宝箱に擬態するよりも効率はいいかもしれないな。


「――しかも、街にも出没したそうよ。灰色のローブで全身を隠していたけど、コインを空中に浮かせて、人間を誘きよせようとしていたみたい。あなた達も気を付けてね」


 あっ、それ間違いなくオレたちだよ!


 道理で人がぶつかってこなかった訳である。


 ちなみに、今オレたちが居るのは『光と闇のハーフェル』の教会の食堂だ。

 孤児院の子供たちや僧侶のみなさんも集まっての夕食会だな。

 話しているのは、カトリオーナ司祭である。


 このおばちゃん、週に一度ほどのペースでオレたちを夕食に誘ってくれる。

 ランドルのおっさんも一緒だ。

 オレもおっさんも最近じゃあまり悪い気もしなくなってしまった。


 むしろ楽しみの一つだな。


 飯は大勢で食べた方が美味い。

 野菜炒めを作らずに済むしな!


 ただし、寄付は受け取ってくれない。

 ここまで受け取ってもらえないと、オレも意地になってしまう。

 なので、オレはこのおばさんに食事に誘われると必ず、食べられる獲物を狩って持ってくる事にしていた。


 これなら受け取ってくれるしね。


 今日の獲物は、突撃角鹿と大牙猪である。

 少し多すぎたみたいだが、育ちざかりが沢山いるんだ。

 大丈夫だよな?


 突撃角鹿は少し臭みのある野性味あふれる味わいのヤツ……じゃなくて肉で、大牙猪は臭みが少ないオレ好みの味だ。


 こいつらは名前通り目標に向けて突進をしてくる厄介な魔物だが、最近ではネムの索敵からの風魔法攻撃で一発である。


 ……オレだって、遠距離用に弓を買ったのにまったく使っていない。


 ランドルのおっさん曰く「突進してくる奴は大抵美味い」だそうである。


 なんともワイルドなこって。


 ちなみに、ネムは気付けば『風魔法レベル3』になっていた。

 レベル3は、この世界では中位から工夫次第で上位くらいの魔法が使えるようだ。


 すでに四属性の魔法使いになっていたりする。

 この世界では、得意な属性魔法に相性があるらしく、四属性使える魔法使いは稀だそうだ。

 風魔法に関しては魔道書で自力で覚えたらしい。


 うちの子、マジで天才でした!


 オレは言うと、回復魔法の勉強をしているのだが……レベル4への道は険しそうだ。


 ……だんだんオレ、いらない子になりそうでコワい。


「――でね、言いづらいのだけれど……」


 このおばちゃんが何を言いたいのかと言うと、オレたちに護衛を依頼したいようなのだ。

 なんでも、また洞窟捜索隊の回復役メンバーに欠員が出たらしく、衛生班として参加を頼まれたんだとか。


 で、前回大マシュラに襲われた恐怖を拭いきれない僧侶さんたちは、オレたちに護衛を頼みたいらしい。


 期間は欠員補充までの4日間だそうだ。


 別に知らない仲じゃないんだから、遠慮しなくてもいいのにね。

 何だか遠慮がちに言われてしまった。


「もちろん引き受けます。……ただし、強い魔物が出て来ても戦う気はありません。なるべく時間は稼ぎますので、みんなで潔く逃げますよ!」


 ここは「戦います」と言うよりも、そう言った方がみんな気を遣わなくて済むだろう。


 オレが快諾すると夕食の雰囲気も明るくなる。


 そうそう、この雰囲気を楽しみに食事をしに来てるんだからね!


「くろねこのお兄ちゃん、ありがとう!」


 子供たちも心配していたみたいだ。

 うれしいお礼の言葉をもらったら、頑張るしかないよね。


 ちなみにミィーカは今回参加しないらしい。

 回復魔法をまだ覚えていないみたいだしね。

 朝の鍛錬は三日に一度欠かさず来るのだが、彼女は最近、オレの腰の辺りばかり見ている気がする。


 まさか、オレの息子が行方不明なのに気づいたんじゃないだろうな。

 女の感ってあるからな……おそろしい。




 ――そして、時間は流れて場所は山中、今日は護衛の最終日。


 しかし何だか空気が重たい……。

 後は僧侶さんたちを教会まで送り届けるだけである。


 もちろん、護衛任務は順調だ。


 四日間はオレも暇だったので、回復魔法を使い治療を行った。

 みんなからは腕がいいと褒められたりしたんだが、これはエドワードさんの努力の成果なんだよな。


 複雑な心境だった。


 ごく一部、何やら嫌な目つきでオレを睨んでくる冒険者が居たが、いきなりCランクに上がったんだ。

 やっかみもあるだろうと気にはしなかった。


 そうそう、衛生班にはモニカ先生も同行してくれていた。

 何でもめずらしい毒蜘蛛が見つかりサンプルがほしいんだとか。


 仕事熱心である。


 ふと気になったんだが、ランドルのおっさんとモニカ先生の会話が無いんだよな。


 おっさんがどうも避けてるようなんだが……いつも目では追っている。

 今もそのせいか、馬車の中では気まずい雰囲気が流れているんだ。


 これって、おっさん、モニカ先生を意識しているんじゃないだろうか?


 つまりは……うむ。

 今度聞いてみるか?


 おっさんは、あまりオレたちの過去を聞いてこない。

 それが冒険者の流儀だとか何とか言っていた気がするが、関係ないぜ。


 我ながらゲスい感じもするが、こっちとら娯楽が少ないんだ。

 他人の恋路ぐらい知っても問題ないだろう?


 なんたって、冒険者はみんなモニカ先生に恋をするんだったけ?

 おっさんもその中の一人だったという事だろう。


 そんな事を考えていた時だ。

 ネムの耳がピョコッと動いた。


「ハルト、この先のかどを曲がったさらに先……敵だよっ」

「了解ネム。敵は何だ?」

「山賊……だと思う。ただ、なにかおかしいよ」

「何かがおかしい……か。数は?」

「10人。正面に1、左右に7、斥候2だよ」


 最近では、ネムに索敵能力がある事はおっさんには話している。

 ごく初期の頃に怪しまれたからだ。


 ちなみに「嗅覚と聴覚が鋭いから分かる」という事にしておいた。


「斥候はオレたちに気付いているか?」

「特に動きはないみたい。まだだよっ」


 よし、取りあえずはまだ安全だな。


「おっさん馬車を止めてくれ。おかしな山賊が出たようだ」

「……分かった」


 馬車を止め、オレは状況をみんなに説明する事にした。




「へー、ホントに優秀なのねぇ」


 モニカ先生は、何故か嬉しそうだ。


 オレも得意げ……と言いたいところだが、ネムが優秀なんだよな。

 本当はネム自慢をしたい所だが、そんな雰囲気でもない。


「10人か、少し多いな。囲まれると皆を守りきれない。……引き返すか?」

「ああ、今回はそれがいいかもな」

「……まって」

「ネム、何か分かったのか?」

「それがやっぱりおかしいんだ。近くに昨日までいっしょだった冒険者がいるのに、戦っている気配がないんだよね」

「なんだって!?」


 ネムに名前を確認すると、確かに昨日まで一緒に居たキースとかいうやつだった。

 嫌な目つきでオレを睨んで来た冒険者の内の一人だな。


「山賊と裏で繋がっている冒険者もいると噂があったが、まさか……」


 おっさんは驚いているようだが、オレはそうでも無かった。


 元々山賊だって冒険者崩れだ。

 あり得るだろうさ。


「どうするの?……やっぱりここは、やっつけちゃうのよね?」


 真剣な顔で、腰の入っていないパンチを空に繰り出すモニカ先生。


 殴られたひ……じゃない、可愛い。


「……いやしかし、今回は護衛の任務だ。……護衛対象を危険に合わせる訳には……」


 なにやら、しどろもどろのおっさん。

 威厳ゼロだな。


 しかしな……オレは考える。

 来た道を戻っても、キースは捕まえられない。


 ネムの証言は証拠にはならないだろうしな。


 山賊はたまたまオレたちの進路に居ただけで、オレたちを狙ったという確証は無い。


 無いのだが……嫌な予感はぬぐいきれない。


 こちらには金目の物は無いが、この馬車には女性も多い。

 穢れを知らぬシスターと、冒険者のマドンナ(ちと表現が古いか)、めずらしいハーフエルフのモニカ先生だ。


 ……それに、おっさんも山賊からしたら狙い目かもしれない。


 怪我をして引退したとはいえ、元Aクラス冒険者だ。

 倒せばハクも付くだろう。

 そして、それらを守るはずのオレたちは、Cランクとはいえ弱そうな知名度の低いやつらだ。


 総合的に考えて、いいカモだと見られていてもおかしくはないだろう。


 さて、山賊の戦力だが、ネムの『何でも分かる帽子』の『情報通信能力』で情報を送ってらい確認した所、最高でもレベル12と大した事は無い様だ。

 この『情報通信能力』は、送る情報量によってMPの消費量が違うので、オレたちはなるべく会話での情報交換にしている。


 だが、今回はみんなの前で敵の強さの相談なんか出来ない。

 致し方無しってやつだな。


「ここは、オレたちが奴らを捕まえてきますよ。みなさんはここでランドルのおっさんと待機していて下さい。……そうですね。一時間以上たっても戻ってこなければ、来た道を引き返し、今日の事を証言して下さい。――ネム、この辺りに危険な魔物はいるか?」

「今のところだいじょうぶだよ」

「……だそうです。ですが、絶対に油断はしないで下さい」


 まあ、殺られる気はないんだけどね。

 いざとなったら『何でも切れる剣』で遠くから一撃である。


「大丈夫なの?」


 モニカ先生は、さっきまでの強気の発言とはうってかわって心配そうだ。

 さっきのあれは、場の雰囲気を和ます冗談と言った所か。


「問題ありません。……みなさんも馬車の中にいればおっさんが守ってくれます。――美人を守って死ねれば満足だろー?おっさん?」

「馬鹿を言うな。……そうであるが……馬鹿を言うな。……だが、お前たちがそう判断したのなら、それに従おう」


 おお、おっさんが照れているぞ。

 これはおっさんの弱点発見である。


 おっさんはオレに雇われた身だ。

 初めから文句なんか無いだろう。


 口うるさい事を言わない所を見ると、これでも信用されているという事か。


 話しはまとまったな。


「よし。ネム、行こうか」

「おっけー!」


 ネムはオレの肩に飛び乗った。


 さて、行くかね。


「綺麗に、な」

「いや、残さず殺るさ」


 おっさんと、この地方の冒険者が狩りに行く時の挨拶をかわし、馬車を降りる。


 綺麗に倒さないと報酬が減っちゃうぞ。

 でも、モタモタしてると獲物が逃げちゃうぞって意味らしいよ。


 初めの頃に「ヴァルハラで会おう」と返したら怪訝な顔をされたのはいい思い出だ。




 目標の山賊に向かい、オレたちは森を直進する。

 森の中から奇襲を仕掛ける予定だ。


 黒皮の鎧は森に溶け込み、ブーツも物音ひとつ立てず目標へと向かう。

 さすが、隠密性の高い装備だ。


「……ストップ」


 ネムから声が掛かった。


「気付かれたか?」

「ううん、ちがう。『たいしょう』が魔物と交戦中。……一人、また一人、きえた」


 ふむ。魔物と戦い数が減るか。

 これは好都合だな。


 だが、この辺りに強い魔物なんて居たかね?


「ネム、強い魔物か?」

「そこまで強くないと思う。話に出た『人型擬態昆虫モドキムシ』だよ」


 ああ、なんか近々出会う気がしてたんだよね。

 話を聞いてた時、フラグをビンビンに感じてたもの。


「……これが『ふらぐ』だね?」


 ネムも何だか笑っている。

 さすがのオレも苦笑いだ。




「ヘイ、ブギーマン。ここにはいい子しかいないぜ?」


 ――悪い奴はもう、お前が殺しちゃったからな。


 オレは軽口をたたきながら目の前を確認する。

 そこには、大マシュラと戦った時のような凄惨な光景が広がっていた。


 生存者はゼロ、キースくんは半分こいつの腹の中のようだ。


「ギィイイイ?」


 こうやって見ると確かに人間に見えない事もない。

 ボロボロのローブで身を隠し、背中には袋を背負っているように見える。


 ムシは首を傾げた後、オレたちに手を振る。


 ……バレバレだっつーの。

 この状況で手を振ってくる奴なんか、異常者かお前くらいだよ。


 本当に知能は低いらしい。


 さすがにビビりのオレでも、リアルで体験しすぎたからか、モンスターパニックアクションは慣れてしまったようだ。


 今回の作戦は正面からの撃破。

 大マシュラの時には油断していたが、もうオレは油断はしない。


 だからこそ試したいのだ。

 こいつはCランクの魔物――つまりランク的には同格、自分の実力を試すのにうってつけだろ?


 オレは曲刀を抜き放ち、腕を広げて「敵意は無いんだよ」というポーズを取りながらムシに近づいていく。


 ――まあ、普通は剣を抜いた時点で、敵意はバレバレなんだがな。


 相手の間合いを確認しながら慎重に一歩、一歩、歩みを進める。


「いやー、大変だったみたいだねぇ。……あれれ?お腹いっぱいでもう動けないんでちゅか?……おバカさんなんでちゅか?……なあ、どうなんだ――よっと!!」


 ――今だ!


 オレは全身をバネのように使い、跳躍しながら胴を薙ぎ払う!


 まるで、段ボールを引き裂いた時のような感触が腕に伝わった。


 ……だが、浅かったようだ。

 どうやら、ローブに余った脚を隠していたらしく、剣が胴体まで届か無かったらしい。


 チッ、おしい。

 出来れば、一撃で決めたかったな。


 ムシは体液をまき散らしながら次の動作に移ろうとする。


 ……コイツに、恐怖心とかの感情は無いんだな。


 ムシは振っていた前脚をオレの方へ向け、肩を掴もうとする。


 捕まったらアウトだな。


 ――だが、甘い。


 オレは前脚を剣で切り払う。

 そして――


「……風刃エアカッター!」


 ムシの死角から、圧縮された風の刃が、ネムにより解き放たれる!


 ああ、オレの出番が!

 ああ、ネムたんは、いい所をいつもオレから奪っていくのね。


 そんなネムたん、素敵である!


 今やこの魔法が、ネムの最大の攻撃力を誇る魔法である。

 ネムの魔力によって高密度に圧縮された風の刃は、オレの剣さえも易々と斬り裂くだろう。


 ……もったいないから、試さないけれどね。


 身体を真っ二つにされたムシが体液をまき散らせ、逃げようとする。


 さすがにここまで来ると逃げる訳ね。


「そうはいかないよん!」


 オレは曲刀で、キョロキョロと動く複眼の乗った頭を切り落とすのだった。

 

「ネム、オレはここを片付けておくから、おっさんたちを呼んできてもらえないか?」

「わかった!今回のれんけいはバッチリだったねっ!」


 オレが囮で、ネムが仕留める。


 うむ。

 バッチリだぜ!

 

 

 

 その後、おっさんたちと合流したオレたちは事の顛末を告げた。


 できればキースを捕まえて、山賊と繋がっている奴らを一網打尽にしたかったんだが……しょうが無いよね。


 今回はおっさんと話し合い、人間の死体はその場で弔う事にした。

 山賊にも賞金はかかっているのだが、あまりシスターやモニカ先生たちに見せたくなかったからだ。


 それが、かなりぐちゃぐちゃでさ……。


 オレはと言えば、慣れた。……という言い方は変だが、平気になっていた。


 ちなみに、グロい部分は見ないようにしている。


 ネムは人間は同族では無いし、平気なようだ。

 山賊など、モンスターと変わらないのだろう。


 食べたら困るので「食べちゃダメだよ」とは言ってある。

 「食べる訳ないよっ!」と怒られてしまったがね。


 ちなみに、人型擬態昆虫は何匹かいるようで、今回倒した個体はメスだったそうだ。

 言われてみれば、仕草が女っぽかったような気が……しないな。


 報酬は素材引き取り含め金貨25枚とちょっとだった。

 こいつが少ないのか、大マシュラが破格だったのかは分からない。


 今回は、山賊たちを人型擬態昆虫が倒してくれたから良かったが、本当に危険なのは仲間のフリをする『裏切ってくる人間』なんだよな。……と、そんな事を考えたりした。


 ああ、オレの人間不信が加速するぜ!




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