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第二章 20.営業遊戯②

 唖然とする3人に、オレはこの作戦の概要を説明する。


 その概要は簡単。

 既存の鎧に手を加え、新しいデザインで売り出すと言う企画だ。

 その目玉の一つが、洋画でお馴染み『腹筋鎧ふっきんアーマー』である。


 今や、古代の戦士から近未来のスーパーヒーローまで、みんな腹筋鎧だ。

 人気が出ない訳があるまい?


 性能なんて同じ素材を使えば出来の良し悪しはあれこそすれ、そんなに変わらないんだ。

 ――ならば、大事なのはデザインである。


 リリィが言っていた「従来の古い考え方に囚われない、自由な発想の防具」というやつである。


 まぁ、オレの場合、元の世界にあった物のただのパクリなんだけどね。


 鎧は身を守るもの。

 騎士ではないのだ。

 見栄を張る必要も無いし、オシャレである必要は無い。


 だが、そこにあえて訴えかけるのだ。


 オシャレで男(もしくは女)らしい防具。

 性能は同じだが古臭い防具。


 ――あなたはどちらを選びますか?


 意見は別れるかもしれないが、その結果は、ゲームや漫画なんかで脈々と受け継がれたオタク文化が証明してくれていると思う。




 なんだか説明している内に熱が入ってしまったようだ。

 こんなに真剣にプレゼンできるなら、会社でもっと出世出来たのかもしれない。

 

 オレは石灰の石で黒板のようなものに腹筋鎧の簡単な絵を描いていく。

 ものすごく下手くそな絵なんだが、それを元にしてリリィがデザインに起こしていく。


 どうやら、彼女も乗り気になって来た様だ。


 親父やリリィが言うには、この世界には過去に腹筋鎧は存在したらしい。

 案外、オレの住んでいた世界でも存在していたのかもしれないな。


 元々あったのなら、今回は今まであった鎧をリリィのデザインの元、オシャレにリヴァイヴァルさせていくという話にシフトさせた。


 残念ながら、そうそう新しい形の物なんで浮かんでこないという事だな。


 だが、安心していい!

 実は今回の作戦の肝は腹筋鎧では無いのだよ。


 ちなみに、女性向けの鎧も作る予定だ。

 この世界では女性向けの鎧は存在するが、女性らしさを強調する鎧は存在しないそうだ。


 オレはアニメの知識なんかを元にリリィと相談する。

 ビキニアーマーはやりすぎだが、胸と腰のラインを強調するようなセクシーな鎧は作れそうだ。


 とりあえずは、セクシー鎧(腹筋鎧含む)ライン・クール鎧ライン・プリティ鎧ラインの3ラインに絞る事になった。


 すべて日本のサブカル風味を入れてある。

 元々あったようなガチなデザインもオレ的にはカッコイイんだが、その方が人目を惹きそうだからだ。


 ジャポニズム旋風?というヤツである。


 何枚か見せてもらい、その中で良いものを細分化させていく。

 安価モデルと、標準モデルと、高価格モデルだな。


 さらにそこから、フルオーダーメイドの最高級モデルを展開する予定だ。


 そして、ここからが肝心だ。

 まず、この鎧に価値を付けなくてはいけない。

 ドワーフの制作した鎧と言うだけで価値はあるのだが、さらにそこから『ブランド』を創造して行く。


 日本ではよくある手だよね。


 そう、ブランド戦略こそ今回の肝なのだ。


 まず、この製品の完全修理保証をうたう。

 そして、丁寧な取扱説明書と共に保証書をつける。


 ちなみに別に保障は無料とは言っていない。

 そんなのどこの防具屋でも行っている事だろうが、あえて高らかに宣伝し、文字に起こす事に意味があるのだ。


 そして価格だな。

 標準モデルを通常の2倍と、高価格モデルを通常の3倍、最高級モデルを通常の4倍に設定する予定だ。


 ゆくゆくは半期に一度のモデルチェンジを行い、すべての商品を通常の3~5倍の価格に設定する事が狙いだ。


 ちなみに、モデルチェンジには消費者の購買意欲をあおる目的もある。

 売れ残った物は、バーゲンセールにかければいいのだよ。


 そうだな。

 半額で売ろう。

 半額でも通常料金だしな。


 ここは冒険者の街だ。

 防具の素材は比較的安く手に入るのだ。

 作りすぎて売れ残っても他の街へ運べばよい。


 初めの内は生産数に気を配る必要があるだろうが、何年かすれば、データなんかも取れて行くだろう。


 そして、宣伝だ。

 初め、初期モデルを有名な冒険者に着けてもらうのもいいだろう。


 人を雇って街中で着けて練り歩いてもらうの手だな。

 その時は美男美女がいいよね。


 街の一等地にシックな大人の雰囲気のお店を作り、そこでセクシー鎧を女性店員に着させれば完璧だ。


 ゆくゆくは、鎧だけでなく武器やアパレルとして展開していくのもいいだろう。

 はじめは、鎧のインナーからはじまり、普段着、最終的にはドレスなんかだな。


 さらに、鎧に付加価値をつけたい。

 それは加護だ。


 別に魔法的な加護でなくても良い。

 お守り効果、気持ち的なもので良いのだ。


 これは孤児院を営む教会に頼もうと思う。


 あそこも経営難のようだ。

 うまくいけば、労働力の確保にもなるだろう。


 この加護は騎士の鎧などに施される場合があるそうだが、別に冒険者に施してはいけないという物でもないようだ。


 売れた鎧の原価の何%かを寄付、という形で毎月支払う事にすればいいだろう。

 この交渉には、オレが行く予定である。


 後はブランドの名前や装備の名前だな。

 標準モデルからはブランド名の他にシリアル№を入れる事になった。

 偽造防止というよりも、買った本人の満足感の為だな。


 大事なのは『特別で良い物』を買ったと思わせる事なのだよ。


 名前をつける才能はオレには無い事が最近判明したので、適当に考えてもらう事になった。

 ちなみにマークは『月と黒猫の影』だそうだ。


 月は『光と闇のハーフェル』の象徴だからいいが、……黒猫ってネムだろうか?


 ここは、使用権を主張しちゃうぞ!




 ここまで話した後、みんなでこの企画の甘い部分の洗い出しを行い、足りない部分を補てんして行った。


 初めは、ただ単に腹筋鎧を売るだけの企画だったのだが、話している内に熱が入り大層な計画になってしまった。


 うん、一通り話して、オレだけ冷静になってしまったよ。


 親父は大層この計画が気にいったようで「これなら我らが王国の再興の夢も叶うかも知れない」「ドワーフ技術の保護につながる」と息巻いていた。


 なんでも、ここまで徹底されたブランド戦略を使ったビジネスモデルは、この世界には無いそうだ。


 リリィは顔を赤らめてオレの方を見ながら「天才ね……」なんて呟いている。

 ヒゲが無ければ、ロリコンじゃなくても連れ去りたくなるくらい可愛いんだがな。


 オレは「元々これはオレの国にあった商売のやり方の一つであり、これはオレが考案した事ではない」事と「成功するかは分からない」事を伝えたのだが、二人は「絶対成功する。いや、させる」と言って聞かない。


 ……ネム、オレは異世界に来て詐欺師になってしまったみたいだよ。


 ネムは、オレが職場でこんな感じだったのではないかと想像し大はしゃぎだ。

 残念ながら、職場ではもっと植物のような男だったと思うよ。


 期せずして、異世界で現代の知識を使って商売チートごっこをする事になってしまったが、ここから先は丸投げでいいよね?


 ちなみに最大のネックは資金なのだが、親父によると「隠れ住む王族達に資金の融資を求める」と言っていた。


 どうも口振りからして、なにかの原因でこの親父たちのドワーフの王国は滅んでしまったらしい。


 詐欺が原因……とかじゃないよね?


 まあ、金があればうまく行くかもしれない。

 オレの話しは半分にして、堅実に今ある鎧をリヴァイヴァルさせて販売をするのが一番いいと思うのだが……。


 言い訳がましくオレがそんな事を言っても、もはや誰もそんな事聞いてはくれなかった。


「取り合えず、1週間で近くのドワーフや同業の知り合いに融資を頼もうと思う。それまでリリィは、各ラインの試作を頼む。……忙しくなるぜ!」


 親父はリリィのデッサンを受け取り、男らしい顔で笑うと颯爽と店を飛び出したのだった。


 親父、お前ってそんなキャラだったっけ?

 それよりも、オレのファールカップ忘れてないか?




 その後、オレはリリィに言われて防具を装備する事になった。


 そうだった。

 オレは防具を作ってもらいに来たのだった。


「私の防具……忘れないで」


 うむ。忘れていたことはすっかりバレているな。


 さてさて、装備してみた。


 リリィは、この鎧を『黒皮の鎧』と呼んでいたので、これからはそう呼ぶ事とする。


 とあるドロドロなサスペンスを思い出したのは内緒だ。


 うん。サイズもぴったりで動きやすい。

 しかも、かなり軽いんじゃないか?


 リリィは、オレがつけ方を知らなかった剣帯なんかの位置を調節しながらつけてくれている。


 装備はもちろんファルカタだ。

 そして見覚えの無い短剣が帯につけてある。


「これは?」

「……私が作った物なの。お守りよ?」


 抜いてみると、ウネウネと刀身が波打つ形のした、独特な形状のダガーだった。


 昆布と言ったら失礼だよな。……フランベルジュをダガーにした感じ。と言うと分かりやすいだろうか。


「盾を持たないようだから、念のために、ね?……受け流しやすいはずよ」


 なるほど、相手が剣を使ってきたらこれで受け流せと言う事か?


 だがそんなテクニック、オレには無いぞ。

 練習……した方がいいよな。


「剣にはすべて、硬化と柔化の鍛冶添付魔法を掛け直したわ。これでかなり耐久度が上がったはずよ?」


 そう言って、オレにショルダーバックを渡してくる。

 バックには解体用のナイフが備え付けてあった。


「このバックには空間拡張を行っているわ?中にはまだ、とりあえず用意した剣のお手入れセットしか入っていないけどね。手入れの仕方は――」


 リリィは手入れの方法をレクチャーしてくれた後「違和感があったら、必ず私に見せに来なさい」と付け足した。


 さて、あらかた説明も終わり、後はマントととんがり帽子を被るだけだ。


 全て装備をし、姿見の前に立つ。


 装備はカッコいいんだが、モデルがダメでした。

 なんて言われそうだから、あまり鏡は見たくないんだよね。


「ハルト、かっこいいよ!」


 そう言ってネムがピョンとジャンプしてオレの肩に乗る。


「うわ、肩の乗り心地もばっちりだよ!」


 リリィは、それを見て軽く頷く。


 計算通り。と言う顔である。

 言われて姿見を覗くと……何だか少し、なで肩が直っているように見えるな。


 鏡を見ると、そこには見違えるような美男子が……

 なんて口が裂けても言えないが、うん、かなり似合っていると思う。


 馬子にも衣装ってヤツだな。


 オレはとんがりん帽子で顔を隠しているし、これなら一流の冒険者に見える。

 いや、何だかバンパイアハンターっぽいかもしれない。


 そして、マントと赤い羽根飾りがとてもグッドだ。

 中二病万歳だな。


 この際、容姿は置いておくとして、後足りないのは、実力だけ……だな。


 オレの満足そうな姿に、リリィは「素材がいいから、楽な仕事だったわ」と言った。


 まぁ、あれだけ好き勝手に作ればそうなるよな。


 一通り装備を確認し、リリィに改めてお礼を言うと神妙な顔で「私も色々学ばせてもらったわ」と言った。


 そうだぞ。もう無茶なもん作るんじゃねぇぞ!……と、言ってやりたかったが止めておいた。


 まあ本人も反省してるみたいだし、いいもの作ってもらったしね。

 あまり責める気はない。


「……ハルト・ガトー。『剣の巫女』たるリリィジャ・ウルヴァル・スヴァルトルが、貴方に祝福を与えましょう」


 そう言って、なにやら呪文みたいのをオレに掛け出す。


 『剣の巫女』ねぇ。

 よく分からないけど、それであの親父はこの子に頭が上がらなかったのかな?


 それにしても、服飾に憧れる『剣の巫女』か。

 今後しばらくは好きな事がやれそうだし、良かったじゃないか。


 その代りに、オレは借金を背負ってしまったのだがな。


 ……そう言えばと、疑問に思った事を聞いてみる事にした。


「この帽子のエンブレムは、何か意味があるのか?」

「思いついたの。……意味は秘密よ?」


 こういうのが思いつきで出てくるあたり、オレと脳みその構造が違うのかねェ。


「秘密って……やばいマークじゃないだろうな?」

「そのうち分かるわ。……楽しみね?」


 ミステリアスな笑みを浮かべるリリィ。


 そういう表情は、色っぽいねーちゃんがするもんだぞ!


 その後、なにやら神妙な面持ちで言われてしまった。


「……私、ヒゲが生えていなかったらどう思う?」


 だそうだ。

 オレは素直に答える事にする。


「可愛いと思うぞ。ここまで可愛い子は見た事がないな。……自信もっていいぞ?」


 この子もやっぱり、自分の容姿には自信が無いんだな。

 まぁヒゲはドワーフの文化らしいし、もう何もする気はないのだが……不憫だよな。


 リリィはポッと顔を赤らめながら


「ありがと……嬉しい」


 と言って黙ってしまった。


 なんとなく、気まずい雰囲気が流れたのでオレはお暇させて頂くことにした。

 もちろん『黒皮の鎧』は装備したままだ。



 帰りがけに、「また来てね。……絶対よ?」と言われた。


 借金もあるし、また来なくてはいけないのだが……その事を言ってるんだよね。


 そういえば、支払いの話しを親父としていなかったが、良かったのだろうか?


 このまま、逃亡……って訳にもいかないよな。

 しばらくしたらまた来る事にしよう。


「またすぐに来るよ。借金もあるしな」


 そう言ってオレは店を出たのだった。

 


 

 こうして、オレとネムの異世界での冒険者生活は始まった。


 ――そして二ヵ月後、オレたちは、ある少女と出会う事になる。





唐突ですが、ここで第二章終了です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第三章からは、ある少女と主人公たちの話がメインになります。

すぐに第三章……と言いたい所ですが、幕間として冒険者生活編をはさみたいと思います。

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