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第二章 19.営業遊戯①

 二日経った。

 ちなみに昨日は一日、ネムと二人だけの時間を過ごした。


 ムフッ!

 充電完了である!


 今日は、待ちに待ったオレの装備の完成の日だ。


 オレは、ネムと共に速足で『やまびこ』に向かった。

 どうでもいいが、『やまびこ』って喫茶店みたいな名前だよな。


 店に着くと親父が声を掛けて来た。


「よう、待ってたぜ」


 なんだか、不機嫌そうだ。

 前回は途中から割と親しげな関係になったと思ったんだがな。


 この親父、一日以上間を置くと、好感度が下がるキャラなのだろうか?


 めんどくさいギャルゲーヒロインみたいである。

 オレ、おっさんと仲良くなるため毎日通い詰めるのはさすがに嫌だぞ!?


「とりあえず、こっちに来てくんな」


 そういえば、こいつにファールカップの製造を依頼していたんだった。

 それを渡して来ないと言う事は……


「まさか親父。ファールカップ、作れなかったんじゃないだろうな?」

「それに関しては問題ねぇよ」


 なんか、嫌な予感がするな。


「じゃあまさか、防具に何か問題でも出たのか?」

「それに関しては……まあ、実物を見てくんな」


 意味深な言葉を発し、その後親父は黙ってしまった。




「待っていたわ」


 まるで、お遊戯会が始まる前のように顔を赤らめて、緊張からかソワソワしている幼女――リリィが居た。


 相変わらず、その顔には真っ黒いヒゲが生えているのが残念だ。


 今日はラズベリー色のベレー帽を斜めにかぶっているな。

 美大生気取りか?


 そのリリィの少し後ろ、一段上の台座に白い布に覆われた物体が置かれていた。


 多分、これがオレの防具だ。


 徹夜で製作したのだろう。

 クマが出来ているが、リリィのその表情は自信に満ち溢れている。


 なんだよ、親父のやつ、脅かしやがって。

 完成しているじゃないか!


「リリィ、それがオレの防具か?」

「……そうよ。どんな防具か気になるでしょうが、まずは素材を説明させてちょうだい」


 素材なんて、聞いても分からないんだがな。

 実は営業時代から、商品に何の素材が使われているかなんて、ちっとも覚えられなかったんだよね。


 彼女は、今度は緊張した面持ちで語り出す。


 まるで商品説明、プレゼンみたいだな。


「……まず全体の素材として、黒双頭蛇竜の皮を使用したわ。これは毒耐性、打撃耐性、斬撃耐性、火炎耐性が備わっています。黒双頭蛇竜の皮は触ると柔らかいけど、強い衝撃に対しては硬化する特性があるの。さらに皮鎧の胸部分には、補強として魔法銀のプレートを取り付けてあります。外見から分からないようにね。これで魔法の武器で攻撃されても心臓は守ってくれるはずよ。そして、ブーツの裏側には悪路に対応する為に妖樹王の樹脂を使いました。この妖樹王の樹脂は、雷を逃がす効果があるわ。これを靴底に使用する事によって、軽度ですが、雷耐性を得る事に成功しました。これにより、黒双頭蛇竜の皮の弱点の克服にもつながったわ。ちなみに防具やブーツの留め金類はすべて魔法銀を使用しており、その魔力増幅効果と、鍛冶添付魔法と、黒双頭蛇竜の三重の効果で、この防具の傷の修復を可能にしました――」


 えっと……嫌がらせか?


 その後も、延々と防具の説明を続けるリリィ。


 ズボンなどの布部分には、なんちゃらスパイダーの糸を黒く染め上げたものを使ったとか。

 剣帯のベルトには、攻撃をスムーズにする工夫がなんとか。

 手袋には、通気性をよくするため何とかの素材を組み合わせて……とかだな。


 半分ぐらいしか、聞いていなかったりする。


 あ、うん。

 耐性がすごくいい。


 そのくらいしか言葉が出てこない。


 聞いた限り……分かった限りでは、かなり豪華な鎧のようだな。

 何気に通気性をよくし、蒸れ防止や防臭機能がついているのが、女の子の目線で考えられた装備だなと思った。


「ちなみに、帽子も黒双頭蛇竜の皮と黒影狼の毛皮を短く刈りそろえたものに張り替えたわ。もちろん傷の修復機能はついているわよ。――それとそうそう、貴方のリクエストにあった赤い羽根飾りだけど、苦労したわ。本当は不死鳥の羽を用意したかったのだけれど、あまりマーケットに出回る品物じゃないので、今回は、悪食鳥の尾羽を使わせてもらったわ。これにより、幻覚や混乱への耐性も追加できた。あなたはこの帽子は未完成だと言った。この事を言っていたのね。……私の視野が少し広がった気がするわ。感謝しておくと言っておきましょう」


 あっ、いや適当に言っただけです、すいません。

 ……なんて言えない。


 それにしても、この子、こんなに話す子だっけ?

 オレは眠れる獅子を起こしてしまったのだろうか?


 その後も一方的にまくし立てるリリィ。


 だんだん、興奮してきてない?


「――そうね。最後にだけど、今回のテーマは、あえて素材を隠し、防具らしさを抑えたデザイン。……とでも言おうかしら?まあ、見る人が見れば超一流の素材を使用したゴージャスな防具だと分かってしまうかも知れないけれどね。ただ、それにより隠密性を向上させ、防具の持つ動きの窮屈さを極限まで減らす事に成功したわ。……従来の古い考え方に囚われない、自由な発想の防具が完成したのよ!あなたは回避を重視した剣士でしょ?きっと、いえ、必ず気に入ると思うわ!」


 ハァハァと息を切らせるリリィ。

 親父が気を利かせてお茶を持ってきた。


 ふと、親父を目があった。

 親父は首を横に振る。


 ……苦労したんだな。


「ああ、えっと……お疲れさま」


 興奮した人っておっかないよな。

 なんだか狂気を感じぞ?


 オレはちらりとネムを見る。


「……たまにハルトも、こんな時あるよ?」


 げ、オレもこんな時があるのか。

 注意しよう!


 そんなオレたちを知ってか知らずか、息を整えたリリィは防具にかけられた布を手に持つ。


「それでは、御開帳よ!」


 声高らかにそう宣言し、布を下げる。


 この子の脳内では、さぞや高らかにファンファーレが鳴り響いている事だろう。


 おっと、変な想像している場合ではないな。


 オレ、は彼女の作ったという防具を確認する。


「……おお、カッコイイ!」


 黒いスタイリッシュな鎧がそこにあった。

 とんがり帽子と合わせて、黒い軽量魔法剣士という感じだ。


 確かに知らなければ鎧には見えないぐらいスマートな作りだ。

 素材の凄さはよく分からなかったが、この鎧のカッコ良さはオレにもわかる。


 まさに中二病垂涎の品だ!


 確かにこんなのを作れるんじゃ、これだけ自慢げに語るのも分かると言うものだ。


「……どうかしら?」

「素晴らしいよリリィ!君は、防具職人としても服飾デザイナーとしても超一流のようだ」

「……あなたの見る目もね?」


 ご満悦のようだな。

 クールなセリフの割に、彼女の顔は高揚しているようだ。


 ヒゲが無ければさぞや可愛らしい事だろう。


「――だが」


 オレは言葉を続ける。

 ……そう、オレはこの鎧の欠点を挙げなければならない。


 でなければ、この子の成長はここでストップしてしまう。


 実はこれが、ここの店の親父との約束。

 この子がさらに上を目指せるように「パーフェクトな仕事なんて無いんだと分からせてほしい」とお願いされてしまったんだ。


 確かにこの子は天才だ。

 興味がある事に真っ直ぐ突き進み、努力をしたと感じたこともないだろう。


 それ故に、何でもすぐに出来てしまう。


 ――故に、すぐに興味を失ってしまうらしいのだ。


「これでは満点はあげられないな」


 この一言でリリィの表情が凍り付く。


「な?どこに……欠点があると言うの?」


 いや、本当は欠点なんて見つけられないんだよ。

 この年ですげーやつだよ。


 そう言ってやりたい。


 だが、オレは心を鬼にする。


「分からないか?それはだな――」


 ヤバい!

 本気で見つからない。

 ああ、どうしよう?


 ……もう適当でいいよね?

 

「――それは、マントだよ」

「……マント?」

「まだ、分からないのか?それをヒントに自分で考えてみるんだな。羽飾りの時のように……」


 全部適当である。

 オレは、適当に丸め込む事にしたのだ!


「マント……羽飾り……そうか!!」


 そう言って、リリィは奥に引っ込んでしまった。


 何とかうまく丸め込むことに成功したみたいだな。


 そんな事を考えていると、奥から何やら黒い布のロールをこちらに持ってきた。

 リリィはその布のロールを手早く切り取り、マントを作成し始めたようだ。


「……そ、それは黒銀絹……ぐぅぅ」


 親父が青ざめながら呟く。


 なんだ親父、高い布なのか?


 質問しようと思ったのだが、なんとなくこわくて聞けない。


「そうよ、黒銀絹よ!この絹は高い魔法耐性はもちろん。温度調整にも優れているの。……何故私はこんな簡単な事に気が付かなかったのかしら?冒険者は、野外や暗い洞窟の中の活動が多い。すべてに対応してこそ完璧な防具。温度管理は体調の維持において重大な問題のはずなのに……私はまだまだだわ」


 なんだか勝手に勘違いしてくれたみたいだ。

 これにて、めでたしめでたしである。


 それにしても、先ほどから親父がプルプル震えているな。

 見た目はもう瀕死状態だ。


 オレは先ほどの疑問を口にすることに決めた。


「なあ、親父。ひょっとしてこれは、高い素材なのか?」


 コクンとうなずく親父。


「なあ、リリィ。予算よりオーバーするなら、そのマントはいらないぞ」

「……安心して?もうオーバーしているから」


 オレはまた親父の方を見る。

 親父は静かに瞳を閉じてうなずいた。


 ひょっとして、この店に来たときに不機嫌だったのは……これのせい?


「なあ、どのくらいオーバーしているんだ?」


 ちょっとくらいならしょうがない。

 いい物を作ってくれたんだもんな。


 この世界にローンなんてあるのかな?


「黒銀絹合わせて大体金貨400枚程度よ。……原価でね?」


 おーい!

 原価ってなんだよ?


 しかも、予算の倍じゃねーか!


 この世界の流通はよく分からないが、大体売り値の30%が原価だとして、この鎧の売り値は――


 軽く、金貨1000枚超えてるじゃねーか!?……通りで高性能な防具だと思ったぜ。


「おい、こんな防具、オレは頼んでないぞ。大体、与えられた金額で儲けを出すように設計するのも、デザイナーとして必要な能力じゃないのかよ!」


 彼女は愕然とする。


 おい!

 夢中で作成して気付かなかったのかよ。


「……いいのよ。私が今持てる能力で、最高の物が作りたかったの。……足りない分は、身体を売って私が工面するわ」


 おーい。

 オレがこの子を罠にはめて、少女買春の道に進ませたみたいな展開になってない?

 だが、ヒゲの少女の需要ってあるのか?


 いやまあ、ニッチな方が高かったりするけどさ……。


 あ、いやそんなこと考えている時ではないな。


「ボウズもらってやってくれ。この国の大貴族様でも持ってねぇ最高の防具だ。なぁに、リリィには身体を売るような真似させねぇさ。いざとなったら夜逃げでも何でもすらぁな。……気がかりはもうすぐ生まれる俺の子供だが。なぁに、お前さんの心配する事じゃねぇ」


 めちゃめちゃ気にするよ、それ!?

 絶対受け取れないじゃんかよ、そんなの!


 心の病気になるよ!

 もはや、呪われた鎧だよ!


「そんな顔するな、ボウズ。オーダーメイドのお前だけの鎧なんだぜ。他に売れるわけないだろ?」


 うーん、言われてみれば確かにそうだ。

 一度作った物はバラしても意味がないだろう。


「なんとかならないかな。助けてあげようよ」


 ネムも心配そうだ。


 オレたちが魔物を狩ってお金を貯めるという手もあるが……そもそも、オレ悪くないよね?


 確かに若干焚き付けた記憶はある。

 だが……なんで暴走をこの店の親父が止めないんだよ?


 だけどこのまま鎧をもらって「オレは知りませんよ」なんて、確かに寝覚めが悪いよな?


 何か良い手はないものか……。


「で、親父よ。本当の所はどのくらいヤバいんだ?」


 念のため聞いておこう。

 リリィが黒銀絹を持って来るまで、親父はまだ冷静だったはずだ。


「あ?使用した素材は、全てお前の用意した金で仕入れたものか、工房にあった物だ。長年かけて集めた素材もあるしな。今すぐ倒産って事はねぇが……それにしたって大赤字だぜ」


 リリィはそれを聞いてしょんぼりしている。


 うん。

 お前は反省した方がいいぞ!


 だが、この防具カッコいいんだよな。

 オレの中の中二病が、借金をしてでも買えと言っているんだよな……。


 ゲーム序盤で超優秀装備を手に入れたと思えば悪くないのか?

 

「なあ親父、この店の売り上げはどうなんだ?」

「よくねぇよ。150年前は迷宮発見でかなり羽振りが良かったが、最近じゃこのイーブスも不景気だ。武器防具なんて、手入れしながら使えばそうそう買い替えるもんでもねぇしな。中古も多く出回っている」


 なるほど。

 言われてみればそうだよな。


 それにしても、売り上げが悪いのにこの店は客を選んで商売してたのかよ。

 ドワーフのプライドか?


「なあ、親父。この前のファールカップは商品化できそうか?」

「あ?確かにあれはいいもんだが、あんなもん多少売れた所でたいした儲けにならねぇぞ」

「そうか。……今あるもの、例えば防具なんかを改良して売る事は出来るか?」

「ああ、多少は出来るが、そんなんで売れたら苦労しねーわな」


 ……ふむ。

 しばしオレは考え込む。


 客を選んで商売か……。


 ある考えが頭に浮かんだ。

 これは、うまくすればイケるかもしれない。


「――それなら多少賭けになるが、いい『企画』があるんだが乗るかい?うまくいけば大儲けなんだがな。……この鎧の原価分は必ずオレが払う。その代わり、そっちの儲け分はその企画料でどうだろう?」


 金貨1000枚なんて借金背負いたくはない。

 だが、原価分だけ払って「後はお前らの責任だろ?」とは言えない。


 せめて、儲けぐらい出させてやりたいじゃないか。


 オレはリリィを見た。

 リリィは責任を感じているのだろう、とっても暗い表情だ。


「おい、リリィ。暗い顔するなよ。今回の企画は、お前のデザイン力が頼りなんだぜ?」


 彼女の肩を叩いてやる。

  

 こういう時は自信満々に、そして大声で告げるのが大事だ。


「……名付けて!『腹筋鎧ふっきんアーマー大作戦』だ!!」



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