第二章 18.貸家探し
朝、オレとランドルのおっさんでトレーニングをする事になった。
何故か、ミィーカちゃんも一緒だ。
実は昨日の夕食後、教会に泊めてもらう事になったのだ。
……いや、なってしまった。
カトリオーナ司祭に酒を勧められ、あれよあれよと言う内に宿泊の支度を整えられてしまったのだ。
本当にこのおばさん、やり手である。
「住む場所が無いなら、この教会に下宿なさいな」
そんなことを言われたが、それはさすがに断った。
ネムはと言えば、食事の途中から会話を解禁したので大はしゃぎであった。
夜中まで子供たちと運動会である。
「ボクは子供が苦手だよっ」
とか言いながらも楽しそうだった。
本音を言えば、オレも混ざりたかったよ。
ちなみにミィーカちゃん、動きやすい服装になって初めて気が付いたが、巨乳ちゃんである。
ジョギングでワッサワッサと乳が揺れている。
どうでもいいが、それだけ揺れて痛くないのかニャ?
一通り準備運動を終え、ミィーカちゃんが用意してくれた木剣で素振りなんかをする。
この木剣、ミィーカちゃんの手作りなのだろうか?
借りておいてなんだが作りが荒い。
重くするためか、先端に砂袋が括り付けれてあったり工夫の後は見られるのだが、この子オレと同じレベルで工作が下手なようだ。
いんや、これならむしろ、オレの方が上手いかもしれない。
……本気で振ると折れそうだから、今日はこのくらいにしておくかな。
トレーニングを終えると、ミィーカちゃんが駆け寄って来た。
「なあ、私もお前のパーティーに入れてくれよ」
いやぁ……なんだかフレンドリーな感じになりましたな。
「頼むよ。……もっと強くなりたいんだよ。何でもするから、な?頼むよ!」
女の子が何でもするとか言ってはいけませんよ!
この子、砕けた話し方をするが、こちらが本来の話し方なんだろう。
無理をしている感じがしない。
昨日は猫をかぶっていたんだろうな。
可愛い女の子とパーティを組む。
ゲームなんかだとよく見かけるが、実際オレは無理そうだ。
大マシュラとの戦いの悲惨な光景がフラッシュバックする。
「弱い奴とは組みたくないんだよ。大マシュラを見ただろ。あんなのとお前は戦えるのか?」
話を聞いてみると、どうやら大マシュラに襲われた時、この子は自分から飛び出していったらしい。
それを守ろうとして、司祭長が大マシュラの元へ出て行ったとの事だ。
それは、気にするだろうけどさ。
勇敢……ではないな。
愚かな死にたがりだ。
「なっ!アンタなら司祭さまも納得するかもしれねーじゃん、たのむよ!」
「無理だな。オレはそんなに強くない」
「だってアンタは、剣技であの大マシュラを倒したんだろ?弟子にしてくれよ!私こう見えて子供の頃から鍛えてるんだぜ?」
「あれは剣技じゃない。魔法みたいなものだよ。大体、回復魔法もろくに覚えられない根性なしのお守はご免だね」
「……それは言うんじゃねぇよ」
頬をプクッと膨らませる。
これ、この子の癖だろうな。
子供っぽく見えるから、やめた方がいいぞ?
まあ、可愛いんだけどさ。
「こんだけ言ってもダメなのかよ?な、頼むよ?」
そう言って土下座をしてくる。
この世界にも土下座ってあったんだな。
ミィーカちゃん……いや、もう呼び捨てでいいや。
ミィーカ、この子、初め清楚な子かと思ったけど、話し方……ヤンキー入ってね?
「こほっ、こほっこほっ!――ごほっ!……あー、ちょっと待って!」
そのうちミィーカはセキをし出したかと思うと、キセルを取り出した。
そして、手慣れた手つきで葉っぱを詰めた後、なにやら吹かし始めた。
「……おい!ヤニ切れか?」
学生の頃、オレにも喫煙経験はある。
だからと言うわけじゃないが、女の子が吸ってたって別にイヤではない。
身体には良くないと思うけどね。
だが、この状況で吸うか?
大人を舐めるなと言ってやりたい。
「ちげーよ。私は肺が弱くて、運動した後セキが止まらなくなるんだよ。これは薬草を吹かしてんの。――あー、ごほっ!」
唖然とするオレ。
ランドルのおっさんも固まっている。
いや、オレが言うのも何だけど、冒険者舐めすぎてない?
その後も、亡くなった両親が冒険者で憧れているとかなんとか言っていたが、もう聞く耳を持つ気はない。
大体にして、なんでオレに言ってくるんだろう?
本当に冒険者になりたかったら、もっと上のランクの冒険者に弟子入りすればいいんだ。
「冒険者になりたいのなら、司祭殿に許可を取り、毎朝の鍛錬に顔を出せ。……自己を見つめ直す機会にもなるだろう」
おっさんが、見るに見かねたのかそう言ってくれた。
「……『大虎殺し』のランドル様に、ご指導頂けるとは光栄です!私、頑張らせていただきます!」
なぜこの子は、おっさんには敬語なんだよ?
今気が付いたが、この子とは話が合わないようだ。
大体、おじさんは若い子とは話が合わんのだよ。
うん、考えるのはもうやめにしました。
その後はミィーカの話しを完全スルーしてやった。
この世界に来て初の仲間フラグだったが、へし折ってやったぜ!
朝食を教会で頂き、オレたちは貸家探しを始めた。
冒険者ギルドで貸家の紹介をしてくれるらしいので、行ってみる事にしたのだ。
オレ的には街が好きになるように願をかけて、パン屋の裏側がいいのだが、どうもランドルのおっさんは自分の家の隣をオススメしたいらしい。
……当てとはその事だったのか。
さすがにオレでも、これ以上このおっさんと親密になる気はない。
縁側(あるかは分からないが)でゴロゴロしていると、おっさんの下着が落ちてきて……。
そんな、ラッキースケベ身体に悪すぎるだろ!?
それにしても、この人はそこまでネムと一緒にいたいのだろうか?
オレは、その貸家には風呂が無いことを理由に他の家を探してもらう事にした。
風呂、大事だろ?
オレは飯にはあまりこだわり(嫌いなものは多い)はないが、風呂に関しては譲れない物があるのだ。
大体、この世界に来てから風呂に入っていない。
いい加減限界であった。
聞くと、この街には風呂屋が何件かあるそうだが、今の状態の下半身は絶対に見られたくない。
食事は別に外食でいいが、今は下半身の秘密の死守が大事。
一にも二にも風呂が大事である。
何件か見てまわり、おっさんの家から5分ほどの場所に、3LDK庭付きの貸家があった為そこに決めた。
ここの貸家は家具付きで、食器なんかの生活雑貨を揃えればすぐにでも住めそうだった。
それで月々銀貨2枚である。
念のため、掃除なんかの手配をしてもらう。
3LDKにした理由は、それ以下の部屋数だと風呂がある貸家が極端に少ないためだ。
何件か見た中にもあったのだが、オレの好みに合わなかったり立地条件が悪かったりした。
おっさんの家から5分の場所なのは……運命じゃないよな?
本当にたまたまである。
まあ、近い方が、馬車で送ってもらえたり都合がいいんだけどね。
欠点と言えば井戸が共用な事なのだが、この際そこはネムの水魔法に頼る事にする。
こういう貸家って前にどんな人が住んでいたのか気になるよな。
不慮の死を遂げた冒険者とかだったどうしよう。
オレ、ホラーなのは苦手なんだよね。
ギルドの不動産担当に聞いてみると「ここは、男4人女1人のパーティの住んでいた貸家だが、メンバー同士で女を取り合い解散し、手放したんだよ」との事。
よくありそうな話だが、別の意味で不吉な場所であった。
そうして割と簡単に住処を決めたオレたちは、掃除をしてもらっている間ランドルのおっさんに馬車を出してもらい、薪や生活雑貨、食料を購入に向かった。
食料は日持ちのしそうな物メインで購入だ。
おっさんの紹介で割と良心的な価格で購入できたようだ。
ただ、実際の所、適正価格で購入できたのか分かっていない。
砂糖や香辛料、紙なんかが予想より高かった気がする。
ネムの『何でも分かる帽子』で適正価格や原価を調べれば分かるのだろうが、一つ一つ調べるのはめんどくさい。
なにより、オレは値切りが苦手なのだ。
日本ではいざしらず、パッと出の新参者に親密価格では売ってもらえないだろう。
オレに生活があるように、売る側にも生活があるんだからな。
大体にして、良い商品を適正価格で販売し、その利益を元に、店側はさらに良い商品を作り出す。
それが商売の基本だ。
安く買い叩けばいいという物でも無い。
特にオレは自分じゃほとんど何も作れない。
料理なんか、野菜炒めくらいか?
そういう人間にとっては、物を購入する事が、他者との繋がりだったりするのだ。
――と、ここまで偉そうな事を言うのには訳があってだな、オズオズ。
実は、営業時代にバイヤーに買い叩かれた痛い経験から、自分が強く言えないだけだったりする。
まあ、高いかなと感じたら「ちょっと高いから、オマケに何か付けてよ」と言えばいいんだ。
そうすればお互いウインウインだよね?
足元を見てくるヤツがいたら……そこではもう、買ってあげないんだからね!
コップや皿は旅でも使えそうな金属製の物をメインで選んだ。
アウトドア用品のお店に行った時のように心躍ったぜ。
キャンプなんて子供の頃以来した事ないんだけどね。
薪はかなり安かった。
タダ同然と言っていい。
おっさんが言うには、この領内は毎日家庭でお風呂に入る事を推奨しているらしく、薪は束いくつで幾らと、保証があるらしい。
なんでも、早くこのファージ周辺の森を開拓させたいが為の政策であるとか。
なるほど、「毎日薪を沢山使って、森林破壊を加速して下さいよ」という事か。
薪ではなく、環境保護団体に喧嘩を売っている。
中々大胆な事をする領主さまである。
それだけこの森の開拓は、儲かるという事なのかね。
貸家の掃除は夕方前には済んだ様なので、購入した物を運び込んだ。
なんと、地下に貯蔵庫を発見した。
地下室って憧れるよね。
棺桶を用意してここで寝ようかしら。
「この狭い棺桶が、我の最後の安息の地である」
なんて、バンパイアごっこしてみたいじゃないか。
掃除された家を改めて見ると、かなり広い家だ。
暖炉にゆったり三人掛けのソファーも置いてある。
安月給のサラリーマンからすると、かなりブルジョワなお家に感じるな。
肝心のお風呂は、日本の一般家庭用の風呂ぐらいの大きさだな。
おっさんが何故か不満げだったが、この世界の住人からしたら小さいのかもしれないなと思った。
ベッドは一部屋に二つ置いてある。
一番広い部屋は一台だけだった。
これがパーティを崩壊させた悪女のベッドか……。
なんだかこの部屋で寝ると、悪夢を見そうなので来客用の部屋にするか。
オレは一番日当たりが良い部屋を自分の部屋にすることに決めた。
そして二つのベッドの足を紐できつく結び、ダブルサイズのベッドにしてみた。
広いベッドに憧れてたんだよね。
そして、最後にネムと重大な約束をした。
「お家の中で爪研ぎは禁止だぞ。薪かお外に大きな木があるから、そこでするように!」
「……うう、ちょっとでもダメかな?」
「ダメです。……そうすると追い出されちゃうんだぞ?お金も無くなって、ご飯食べれなくなっちゃうぞ」
「……分かった。ハルトがご飯食べれなくなるのはかわいそうだもんね。約束するよっ!」
決意に満ちた瞳でネムはオレを見る。
あのネムさん、自分がご飯を食べられなくなる事は考えてないよね?
そんなやり取りがありつつ、夕食はランドルのおっさんの行きつけのお店で食事を取る事にした。
なんだか毎日おっさんと食事をしているが、この際気にしない。
ちなみに今日はお酒は飲まなかった。
何故かって?
それは夜――
何日かぶりに風呂に入り、きれいになった身体で、オレはベットで待つネムの元へ向かう。
「――やっと二人きりになれたね」
「乱暴な事は、イヤ……だよ?」
オレたちは心行くまでイチャラブし続けたのだった。
それは種族を超えた、モフモフと言う名のプラトニックラブなのだ!
次の日の朝、おっさんとの朝練(なぜか習慣になった)に行くと、ミィーカが大声を張り上げながらおっさんと模擬戦をしていた。
この子、度胸だけはあるんだよな。
ネムとイチャラブした後なら、この子にだって優しく接する事か出来そうな気がした。
結果は、もちろんミィーカのボロ負けである。
おっさん、女の子にも容赦しないんだね。
ミィーカは教会の雑務の関係で毎日は来られないそうだが、「3日に一度は必ず来ます」と言って去っていった。
根性もある……のか?




