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第二章 17.光と闇のハーフェル

 さて、冒険者の登録は終ったし、装備の購入も終わった。


 時間は、まだ正午といった所だ。

 ランドルのおっさんとは夜に家で直接落ち合う予定なので、まだまだ時間があったりする。


 街をふらふら見てまわるのもいいが、目的が無いのもダレてしまうよな……。


 考えた末、オレたちは教会に向かう事にした。

 実は、昨日のうちにおっさんに場所を聞いておいたんだよね。


 途中で花を購入した。

 これはエドワードさんや死んだ兵士さんにお供えする為だ。


 この世界の文化は分からなかったが、何となく手ぶらで行くわけにも行かないかな、なんて思ったんだ。


 距離的には一時間ほどで到着する場所にあったのだが、かなり時間が掛かってしまった。

 途中道に迷ってしまった事も影響しているのだが、理由は別にある。


 多分オレは、行くのがこわいんだと思う。

 向かう道の途中で、エドワードさんの満ち足りたような笑顔を思い出してしまう。


 彼をソウルイートし、殺した事は後悔していない。

 それが無ければ、ネムは今頃死んでしまっていただろうし、他のシスターたちも助けられなかっただろう。


 オレが最善の行動をしていればエドワードさんは助かったかもしれないが、『もしも』の話を今更しても、しょうがない事は理解していた。


 だが、どうしても彼の顔が目に浮かんでしまう。


 なぜ、彼はあんな顔が出来たのだろうか?

 なぜ、彼はこんなオレの発言を信じたのだろうか?

 なぜ、彼は自分が努力して勝ち取った能力を、他者に奪われて平気だったのだろうか?

 なぜ、彼は死ぬのがこわくなかったのだろうか?


 ――なぜ?


 永延と頭の中でループする。


 あの顔、死ぬのがこわくないって面だった。

 あの身体が拉げて内臓が飛び出した状態でだ。


 オレを信用して託したのか?

 信用?……バカバカしいな。


 確かにあの時シスターを助けた。

 だが、もしあの時ネムが助からなければ


 別にオレは……。


「……つらいなら、行かなくてもいいんだよ?」


 教会の古ぼけた門の前で、ネムがそうつぶやいた。


「つらい?オレ、そんな顔してたか?」

「うん、すんごくつらそうだった。バレバレだよっ。……気にしてるの?僧侶のヒトを死なせちゃったこと」

「ああ、それもあるが――」

「――ハルトは助けたと思うな。……むかし、ボクを助けてくれたみたいにさ」


 ネムはニシシッとオレの肩で笑う。

 そして「心配ないよ。ハルトはやさしいよ」と耳元でささやいた。


「どうする?今日はかえる?」

「いや、行こう。――せっかく、ここまで来たんだしな」


 時刻は夕方になっていた。

 ささっと挨拶だけして、すぐに帰ろう。


 オレは門をあけ、教会の中に入っていった。




 内部は木造で、少し暗く厳かな雰囲気だ。

 まあ、暗いのは夕方だからだな。


 西洋の教会に似ているが、神の威光を表すような派手な雰囲気は無い。

 どちらかと言えば質祖で、一昔前の学校といった雰囲気だな。


 手入れはされているが、少しボロい気がする。

 古い修道院に行った事はないが、映画だとこんな感じだよな。


「ようこそいらっしゃいました。我らが、光と闇のハーフェル様の見守る住処へ」


 キョロキョロと辺りを見渡していると、声が掛かった。

 中央の丸い球体を持つ、やさしげな表情を浮かべる中性的な像の辺りだ。


 この像が『光と闇のハーフェル』なのかな?

 よく見ると、そこには人影らしきモノがある。


 像に話しかけられたかと思ってドキリとしたぜ。


「初めまして。オレ……私はハルトと言うのですが、先日――」


 ここまで言って、次の言葉が浮かばなかった。


 エドワードさんにトドメを差した男です。

 なんて言えないし「あなた方のお仲間を救った男ですよ」なんて口が裂けても言えない。


 言い淀んでいると、声の主はゆっくりオレに近づいてくる。


「まあ、ひょっとしてあなたは、私の娘たちを魔物から助けて下さったハルトさん?」

「……『助けた』と言えるかは分かりませんが、そのハルトです」

「ずいぶんお若いんですね。……歓迎しますわ。私はこの教会の司祭を務めています、カトリオーナと申します。私の娘たちを救ってくれてありがとう。どれだけ感謝しても、し足りないわ」


 そう言って、カトリオーナ司祭は丁寧に礼をした。

 カトリオーナ司祭は壮年の女性だ。


 女性の年齢はよく分からないが、エドワードさんと同い年くらいだろうか?


 司祭という立場の人間とは話した事が無いが、優しげで人懐っこい話し方をする人だ。

 司祭というと、もっと厳しい話し方をするイメージがあった。


「――その……今日は亡くなったエドワード・グランさんに花を手向けにまいりました」

「まあ、ありがとう。彼も喜ぶと思うわ。彼のお墓へご案内するわね」




 嬉しそうに、オレたちを案内するカトリオーナ司祭。


 教会の裏の墓地で、エドワードさんのお墓へ花を手向け黙とうをささげる。

 兵士たちのお墓にも、花を手向けた。


 こういうのって、世界は違ってもあまり変わらないんだなと思った。


 カトリオーナ司祭によれば、エドワードさんはここの教会の司祭長をしていた方だったとか。


 あの日、大マシュラに襲われた日は、冒険者を護衛につけ調査中の洞窟の衛生班のお手伝いをして来た帰りだったそうだ。


 彼の死に際の話をされたので、「オレに回復魔法をかけて死んだ。そのおかげでオレは何とか皆に回復魔法をかける事ができた」という事にした。


 ……大ウソだな。


 この人……カトリオーナ司祭に、本当のことを打ち明けてしまおうか少し悩んだがやめておいた。

 と言うより、打ち明けそうになってしまった。


 この人は、悩みや秘密を打ち明けてしまいたくなる……そんな気分にさせる不思議な人だ。


 オレは「彼は安らかな顔で逝きました」と話すと、彼女は涙をふいた後、笑顔で「彼らしいわね」と言った。


「あなたは気にしなくていいのよ?」


 オレはなにも答えられなかった。

 どうもネムといい、このカトリオーナ司祭といい、オレの気持ちを読んでくる。


「――そうだわ!皆にあなたが来た事を教えないと、おこられてしまうわね。こちらで待っていらして」


 そう言われ、強引に客間……と言うよりも、休憩スペースに近い場所に通されてしまう。

 すぐにお暇するつもりだったんだがな。


 それにしても、信者でもない人間をホイホイ自分たちの生活空間に連れてくるってどうなのだろう?


 何人かの僧侶の服を着た人たちに挨拶された。

 その中にはオレが助けたシスターたちも混ざっていた。


 ここの人たちは、みんな同じような質素な服を着ている。

 あまり司祭だとか区別は無いみたいだ。


 家族みたいな感じだろうか?


 そして、子供たち20名ほどにも挨拶された。

 何でもここの教会は、孤児院も併設されているんだとか。


 カトリオーナ司祭が「娘たち」と言っていたのは、どうやら宗教上の言い方や実の娘という意味では無く、ここで共同生活をしている僧侶たちを家族だと思っているからなんだろうな。――ふと、そんな事を思った。


 子供たちから元気いっぱいに「ありがとう、おにいちゃん!」とお礼を言ってくれたが、オレは子供とどう接したらいいか分からないんだよね。


 オレは治療代のお礼をして、どうにも居づらいので勇気を出してお暇させて頂くことにしたのだが


「今夕食の準備をしているわ。質素な物しかありませんが、今日は食べていらして」


 と言われてしまう。


 どうやら、ランドルのおっさんに無理やり料金を渡したのは、このカトリオーナ司祭のようだ。


 にこやかに、決して否定はさせない。

 訪問販売の才能が有りそうだな。


「今日はランドルさんと予定がありまして……」

「まあ、素敵ね!ランドル様もご招待しましょう。恩人二人をご招待出来るなんて幸せだわ」


 カトリオーナ司祭は、とても楽しい提案を思いついたとでも言いたそうな顔でオレを見る。


 ごめんな、おっさん。

 オレ、あんたを巻き込んじまったぜ。

 

 その後、僧侶の一人を使いに出しておっさんを呼びに行くことになってしまった。


 僧侶の一人から「カトリオーナ司祭様も久しぶりの客人が嬉しいのです。この所、エドワード司祭長様がお亡くなりになって塞込んでおりました。宜しければ御付合い下さい」と言われてしまう。


 これはもう、逃げられないな。


 おっさんを待っている間、カトリオーナ司祭と話をしながら待つ事になった。


 カトリオーナ司祭の横には、若いシスターがついている。


 清楚な感じの女の子だな。

 年齢は今のオレと同じくらいか?


 髪の毛は、少しだけくすんだようなブロンド。

 体型は修道着に隠れて分からないが、中々の美人だ。


 というか、こちらの世界に来てから可愛い子と出会う機会が多い気がする。


 肝心のオレの息子が不在だってのによう。


 どうしてこうなったんだ!?

 これも邪神野郎の嫌がらせの一環か?


 確かこの子は、大マシュラに襲われた時、女性の中では一人だけ外に投げ出されていた子だったと思う。


 先ほど挨拶してくれた時、名前は確か……ミィーカと名乗っていた。


 この世界では、農村に生まれた子供なんかは名字が無い子も多いんだとか。

 この子も農村の孤児だったのだろうか?


「この子はね。回復魔法が苦手で、昔から冒険者に憧れているんですよ」


 ゲームだと女の子で冒険者とかよく居るが、この世界ではどうなんだろう?


 レベルが高ければ男とも対等に戦えるかもしれない。

 だが、問題も多いだろうな。


 ……決してエロゲの事を考えていた訳ではないぞ!


「……冒険者は女性の身では厳しいでしょうね。回復魔法は人を助ける素晴らしい魔法だとオレは思いますよ。学べる機会があるのです。空想にふける前に、身を入れて学んでみてはいかがですか?」


 カトリオーナ司祭は、それを聞いて満足げに頷いた。


 案外、この事をオレに言わせたかったのかもな。


 それを聞いたミィーカちゃんもがっかり肩を下している。


 だがあの現場にいて、それでもまだ冒険者に憧れるものなのだろうか?

 カトリオーナ司祭はこの子に死に急がれるのが嫌なんだろうな。


「ハルト……様は、冒険者になるのですか?」

「何故そう思うのです?」

「この街にくる方は、みんな冒険者を目指して来ますから」


 そうか、ここは冒険者の街だもんな。

 これは隠しても仕方がないか。


「実は、今日登録をしてきました」

「じゃ、じゃあ、私も――」

「――やめた方がいいでしょうね。死にますよ?」


 オレは他人よりズルしているからまだ自信はあるが、普通の人間、特に女の子はやめた方がいいだろうな。


 厳しくオレが言い放つと、ミィーカちゃんプクゥと頬を膨らませ横を向いてしまった。


 子供かよ!?……この子まだまだ、諦めなさそうだな。




 これ以上この話をしても意味は無さそうなので、色々質問してみる事にした。


 『光と闇のハーフェル』についてだ。


 この世界に神様がいる。

 神様の情報は仕入れておいて損はなさそうだからな。


 オレは怪しまれないように「遠い国から旅してきたのでこちらの国の事に疎くて」と前置きをして聞いてみる事にした。


 教えてくれたのは、この世界の創生話。

 『太陽神ルクス』と『主神・光と闇のハーフェル』の物語だ。


「――世界にまだ何も無い頃、寂しがり屋の『太陽神・ルクス』が星を照らし『光と闇のハーフェル』が現れました。しばらくすると星に『水』『火』『風』が生まれ、そして星の『大地』によってついに生命が誕生します。『何だかさわがしい。これを二人でのぞいていれば、ルクスもさみしさなんて忘れるだろう』全てを見届けるとハーフェルはそう言って天へ上り、月へと降りました。なるべくルクスの近くにいたいから……なんでしょうね。……こうして世界は生まれ、大地に昼と夜が生まれました――」


 ――これは子供でも知っている話ですよ。


 そう言って、カトリオーナ司祭この話を締めくくった。


 これはマズイ。

 この話は、この世界全ての住人が知っていてもおかしくない話だ。


 オレたちの元居た世界では、神様の創生話なんておとぎ話でもいい所だが、この世界では違うんだよな。


「……本当に、ご存知ありませんか?」

「ええ、オレの故郷では聞いた事がありません」

「そうですか。……それは残念な事です。確かにハーフェル様がお隠れになって400年。人々は神への信仰心が薄れてしまいました。……致し方ない事なのかもしれません」


 お隠れになった?

 何だか当回しな言い方だな。


「あの、『お隠れ』になったとは……?」

「邪悪なる者と戦い。その者を封印した後、我らを守り消滅してしまったと聞いております。それ以来、人々は憎しみ合い、互いに争い合っている。……それ以前は争いの無い平和な、まさに『理想世界』と言う名にふさわしい世界だったと聞いております」


 そういえば『元始の海を枯らすモノ』との戦いで、この世界の神様はバラバラに砕け散ったって邪神くんが言ってたっけな。


 邪悪なる者って……『元始の海を枯らすモノ』の事だよな。


 だがそれで、『理想世界』に戦争がある訳が何となく分かった気がする。


 急に指導者がいなくなっちゃって、大混乱のバトルロワイヤルと言うわけか。


 だ、が神様の立場からしたら、自身と引き換えに守った『理想世界』の住民は、400年間争いに明け暮れているのか……報われないな。


 それにしても400年前か。

 オレたちの世界が滅んだのがついこの間のはずなのに、どうも時間の経過がおかしい気がする。


 オレたちがこの世界に来るまでに400年かかっていると言う事か?

 それともオレたちの世界の時間と関係なく進んでいると言う事だろうか?


 ……オレ、SFは苦手なんだ。

 考えない事にしよう。


「ハーフェル様が生きていらしたら、今の世界をどう思われるのでしょう?」


 それを異世界から来たオレに聞いちゃうわけ?


 神様からしたら、がっかりだろうな。

 だが、ある意味この世界の住人は神様から解放されて自由になったとも言える。


 それで全員が幸せになったのかは……分からないな。

 争いがあるなら確実に幸せになったやつもいるだろうし、その反対もな?


 あーあ、なんだかオレには似つかわしく無い真面目なテーマを考えていたら眠くなってしまったよ。


 ネムはと言えば、もうすでにオレの膝の上で寝ていたりする。


 ミィーカちゃんは、オレの膝の上のネムをうらやましそうに見ていた。

 こちらの視線に気づくと、目をプイッと横にそらされてしまう。


 ……プイッてする子には、絶対に貸してあげませんからね!




 その後しばらくしてmランドルのおっさんが到着し、晩餐となった。

 初めおっさんに敬語で話しかけると「俺に臆さず話す、お前の気概に感心していたのだがな?」と言われてしまった。


 どうやら今後もため口でいいらしい。


 料理は本当に質素な物だったが、オレなんかにも感謝とおもてなしの心が見て取れる、あたたかい晩餐だった。


 エドワードさん……エドワード司祭長はこの光景を守りたかったのかもな。


 食後、ランドルのおっさんから大マシュラの素材の売り値として金貨50枚ほど受け取った。

 すっかり忘れていたが、よく考えれば報酬の他に、魔物本体の売り値もあるんだね。


 おっさんが言うには、帰りがけにギルドから支払われたらしい。

 案外大マシュラを倒したのは、このおっさんだと思われているのかもしれない。


 オレはその内金貨20枚ほどをカトリオーナ司祭に寄付として渡す事にした。

 完全に偽善と自己満足の為だな。


 金はオレたちの為に使いたいんだが、なんとなく今日のお礼とエドワード司祭長へのお礼がしたくなったのだ。


 お礼が魔物を殺したお金ってのもアレだが、この教会は孤児院も併設されているし、財政面も苦しい様だ。

 カトリオーナ司祭は言わなかったが、『光と闇のハーフェル』がいなくなってからこの宗派の教会は苦労していそうだし、お金が一番いいよな。


 本当は全額と言いたい所だが、オレも今後の事を考えて残す事にした。


 カトリオーナ司祭は「恩人からは受け取れない」と否定していたが、オレは無理やり渡してやった。


「これは、無理やりオレたちを夕食に誘った仕返しなんです」

「……では、今度はしっかり日にちを決めてからお誘いしないといけませんね」


 どうもこのおばさんは苦手だな。

 やれやれ、また寄付をしないといけないようだぜ。



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