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第二章 16.お〇〇のリリィ②

 オレの運命。


 そう、それは、――とんがり帽子だ。


 売り物では無いのだろう。

 ショーケースのようなガラス箱の中に、その帽子は飾られていた。


 多分この帽子に運命を感じる者は少ないだろう。

 だがオレは、このとんがり帽子に、子供の頃から憧れだったとあるヒーローを思い出したのだ。


 それは、タレ目・くせ毛界の永遠のカリスマ。


 ――愛しの『嗅ぎ煙草野郎』だ。


 このとんがり帽子は、黒色で彼の物とは色が違うしデザインも違う。

 カウボーイが被るテンガロンハットの様にサイドに少し角度が付けられていたりするし、正面におしゃれなエンブレムの入った燻した銀のプレートが付いている。


 ……だが、それがいい。

 子供の頃のおぼろげな記憶で、彼は真似される事を嫌っていたと思う。

 これなら、この帽子なら、彼は許してくれるだろうか?


 オレは後ろを振り返る。


「……だめよ」


 オレの見ていた物に気が付いたんだろう、リリィが言った。


「あれは、私が作ったの。……売り物じゃないわ」


 リリィが作ったのか。

 この若さで大したものだ。


 武器の研摩や鍛冶は分からないが、間違いなくデザイナーとしての才能もあるぞ。


「リリィ、売ってくれないか?これは一目ボレなんだ」

「……だめよ」

「ボウズは剣士だろ?あの帽子は頭を守ってはくれねぇぜ」

「リリィ頼む。あんな素晴らしいデザインの帽子は初めて見たんだ!」


 無表情だったリリィの頬が、ほのかに桜色に染まる。


「あ、あの帽子は……思いつきで作ったもので、魔法的な効果もないのよ?……そ、それにデザインだけで、安い素材を使っているのよ?実用には耐えられないわ。だから……その、やめた方がいいわ。……そう、やめるのよ?」


 褒められたのがうれしいのか、饒舌である。


 これはイケるで!

 オレは猛ラッシュを仕掛ける。


「リリィ、オレはこの帽子で、この帽子をかぶって――」


 オレは両手を広げ天を仰ぐ。


「――この世界で神となるのだよ!」


 うん、決まったぜ!


「……ハルト、それじゃ逆効果だよっ!」


 ネムは耳をペシャンとたらし「穴があったら入りたい」と言いたげな顔だ。

 リリィと親父がおかしな人を見るようにこちらを伺う。


 あれ?おかしいな。

 演出失敗したかな?


 オレはゴホンと咳払いをして話を続ける。


「……さて、冗談はこの辺りにして商談を続けよう。いくらでなら売ってくれるのかね?」


 結局世の中金である。

 リリィは散々迷ったあげくこう言った。


「……金貨10枚よ」


 金貨10枚。

 オレの価値基準で100万円相当か。


 なるほど。

 先ほどまでの話しからすると、この帽子に金貨10枚の価値は無いのだろう。


 この性能の無い帽子に、あなたは払えるの?といった所か。

 だが、こういう場合、売りたくなければもっと無茶な金額……例えば金貨100枚とか言ってきそうな気がするな。


 この子、案外自分が作った物を気に入ってもらえて嬉しいんじゃないだろうか?

 あまり無茶な額は言ってこなかった。


 ひょっとして、自分の商品を評価して貰いたいんだろうか?

 おっかなびっくり値段を言っている雰囲気だしな。


 意外とこの帽子が、この子の初作品なのかもしれない。


 ……これは買いだな。


「金貨10枚では買わない――」


 リリィは残念そうな顔をした。

 やはり、この子はデザイナーとして、この帽子を評価してもらいたいんだ。


「――だが、金貨200枚で買おう!」


 少し間を置いて親父が声を上げる。


「な!?……200枚だって?」


 親父、ナイスリアクションだな!


 リリィは目を丸くして驚いている。

 頬は、桜色を通り越して真っ赤だ。


 ネムも何故だか嬉しそうだ。

 多分、みんなが良い意味で驚いているので誇らしいんだろう。


 今とっても無駄使いしているんだぞ?


 200枚使ってもあと50枚近く残っている。

 これはいいデザイナーの青田買いなんだ、許してほしい。


 こういう場合、ケチケチ値段を下げるよりは、ドカッと高値で買った方が、相手に強い印象を与えるだろう。

 これで足元を見てくるようなやつなら、『ハイ、それまで』である。


 オレは言葉を続ける。


「――そのかわり、金貨200枚で帽子を含めたオレの装備を全てコーディネートして貰いたい。もちろん、リリィにだぞ。この値段は帽子の値段じゃない。リリィのデザイナーとしての腕を評価した金額だ。……君に出来るかな?」


 元々冒険者で何が必要かなんて、オレは知らない。

 武器と防具、解体用のナイフくらいしか思いつかないもんな。


 それなら、全部お任せしてしまった方がいいだろう。


 かなり偉そうな挑発した言い方になってしまったが、ここで『出来ない』と言われたらそこまでだな。


「……やるわ」


 リリィは震える声で、そうオレに告げる。


 気分が高揚してるんだろうな。

 小声で「デザイナー。……いい響きね?」なんて呟いていたりする。


「そう言ってくれると思っていたよ」


 オレはリリィに握手を求める。

 オレの手をボーっと見つめた後、リリィは急いで手を握り返してくれた。


「……そうだ、リリィ。これは言わなければならないな。……この帽子をオレは評価しているが、決して100点満点ではない」

「なっ、……なにが足りないって言うの?」


 さっきまでほめてくれていたのに何で?という表情だ。


 ふっ、かかったな!


 オレは神妙な顔で告げる。


「……そうだな、羽飾りだな。赤い羽根飾りをつけてくれ」


 実はコレ、文句を言いたかっただけである。


 飴と鞭、褒めちぎった後は少し落としてやる。

 仕事には適度な飢餓感が大事。


 ――それが、仕事丸投げの秘訣だぜ。


 オレはデザインの才能は無いが、出来ない事の丸投げだけは得意だったりする。

 もちろんその分、いろんな仕事が舞い込んでくるんだが。


「一週間、いえ二日で仕上げるわ。……私の実力見せてあげる」


 そう言ってリリィは去って行った。

 どうやら既存の防具で揃えるのではなく、オーダーメイドで作ってくれるつもりのようだ。


 かなりやる気にさせてしまったようだな。……空回りしなければ良いのだが。


「おーい。サイズとか図らなくて大丈夫かー?」


 そんなオレのつぶやきに、親父が答えてくれた。


「リリィはドワーフの中でも武器に愛された特別な娘だ。問題ないだろう。あの子が、あそこまでやる気を出すのは……めずらしいよ」


 親父の話しではリリィは幼い頃から、鍛冶や剣の稽古ばかりしていたらしい。

 オレの印象では武器なんかより、服飾の方が好きそうなイメージだな。


 幼い頃から、あまり好きな事をやらせてもらってなかったんだろう。


 今回は防具の性能では無くて、デザイン重視の発注だ。

 それで本人はやる気を出したんだろうな。


 その後オレは金を先に支払い、店を後にした。

 念のため親父にオレのサイズを測ってもらい、それとなく彼女に伝えてもらうように言っておいた。


 今オレはローブ姿だ。

 少し心配になってしまったんだよね。


 そして、ある事を親父に頼まれたのだが……それはおいおい話すとしよう。


 親父にこっそり、下着に着けるファールカップを作ってもらう約束をしたのは内緒だ。


 だって下半身が寂しかったんだもん!


 この世界では、ファールカップは鎧としてズボンの外に着けるものしかないようだった。

 下着に着けるファールカップの話をした時、親父はたいそう興奮気味だった。


 ……親父、お前も悩んでいたのね。




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