第二章 14.ドワーフの武具屋
その後、しばらく雑談をして、冒険者ギルドを後にした。
新人ちゃんは、相当のウワサ好きだった。
曰く「治療院のモニカ先生の所へ行くと、病気は治るが別の病にかかる。彼女に惚れる新人冒険者は後を絶たない」……とかそんな話だ。
お礼の品の相談をしたのがきっかけだったんだけどね。
彼女によると、モニカ先生の旦那は元冒険者で、任務の途中で死んでしまい、今は未亡人なんだとか。
それでモニカ先生話しづらそうにしてたんだね。
確かに、入院しただけのお気楽な男にほいほい話す内容でもないよな。
別れ際にオレを心配していたのは、冒険者って職業が嫌いだからなんだろう。
ランドルのおっさんの冒険者時代のランクも聞いてみた。
Aランクだそうだ。
パーティランクでのAランクは何組かいるが、個人でのAランクは、この地域ではランドルのおっさんただ一人だったらしい。
とんでもない大物と知り合いになってしまったぜ。
そんな大物が何故運び屋なんてやっているんだろう?
怪我を負って引退した身とはいえ、士官の口はいくらでもありそうなんだがな。
何か訳がありそうだが。……まあ、不器用な所がおっさんらしいと言えばらしいのかもしれない。
それよりもそんな大物にため口で良かったのだろうか……?
後で謝ってみるか、ガクガクブルブル。
そんな事を考えながら、おっさんに紹介された武具屋に向かった。
ギルド登録で割と時間をくってしまったが、朝早くから行動していたこともあり、まだ昼前だ。
北門から東へ少し行った裏通りにその武具屋はあった。
その名も『武器・防具の店、やまびこ』
なんとも古風な看板と店である。
ドワーフは山に住んでいるイメージがあるから、そんな名前なんだろうか?
そんな事を考えながら店に入る。
ネムは念動力の練習を一区切りし、今度は『記録図書館』に保存してあった風魔法の魔道書を読んでいるようだ。
時間を無題にしないなんて、うちの子天才ざます!
オレ的にはもっとネムとお話しして過ごしたいのだが、人目があるしここは我慢だ。
貸家探しが終わったら休みを作って、一日中ゴロゴロお話ししながら過ごしまちょうね。
店に入ると、ヒゲ面の体格の良い小さい親父――って言うと失礼っぽいな。
いかにもドワーフらしい風貌の男性が座っていた。
オレをちらりと見た後、大あくびをする。
「ここは、おめぇみたいなヒヨッコが来るような店じゃねぇぞ。帰ぇんな」
失礼なやつだが、ドワーフはこういうもんだと思えば普通に話せる。
ゲームの中のドワーフってこんな感じだろ?
これがこの親父の自然な状態だと思えば、ムカつかないもんね。
オレは、オレは、大人なのだよ。
……だが、舐められてはダメだよな。
オレは、なるべく偉そうに、存大な態度で話す。
「ランドルのおっさんの紹介状を持ってきたんだが、売ってもらえないのか?……ここに置いてあるのは飾りなのかい?」
「……ほう、『大虎殺し』の紹介か。言うじゃねぇかボウズ、見せてみな」
オレは黙って紹介状を渡す。
なんだか、このやり取りカッコいいな。
なんていうの?
ハードボイルドってのかね。
癖になりそうだぜ!
「いいだろう。勝手に見てまわんな。気になる品があったら、声かけろや」
確かにカッコいいやり取りなんだが「とりあえずオススメを見せて下さい」なんて言いにくい。
ああ、オレってば、最初のやり取りで失敗してしまったのだろうか?
うう、ここは、とりあえず見てまわって考えるか。
オレは、剣の並んでいる棚を見てまわる事にした。
店に来る前はけっこう何でも良かったのだが、実物を見るとこだわってしまうよね。
剣を選んだ理由は『何でも切れる剣』を扱う練習を兼ねて……だな。
威力では斧の方がありそうだし、間合いでは槍の方が良さそうなんだが、それでは練習にならない。
短くて取り回しの良さそうな剣がいいんだよな。
本当にピンチの時は、無理せず『何でも切れる剣』に頼る予定だし、森や洞窟を想定すると長い武器は向かないと思う。
ランドルのおっさんが持っていた大剣は、オレには扱えない事が分かったしな。
それに盾も不要だと思う。
オレの体格では、いくら基礎体力が高くても、あのバカザル――大マシュラくらいの攻撃を盾で受ければ吹き飛ばされてしまうだろう。
その後、倒れた所に即死コンボである。
盾で防ぐ癖は絶対につけたくない。
高い基礎体力を生かして回避しつつ攻撃。……ってのがベストなんだろうな。
難易度高そうだけど。
なるべくは握りなれた両手持ちの剣がいいんだが、短めの剣は柄が短い……全て片手持ちのようだ。
それと当然だが、刀は無い様だった。
と言っても、手入れが大変そうだし、オレはサムライってガラでも無いから別にいいんだけどね。
試しに親父に頼んで、両手でも片手でも扱える剣『バスタードソード』を振ってみるのだが、どうもしっくりこない。
なんとなく、両手で振り下ろすと違和感を感じるんだよな。
オレはバスタードソードを諦めて、片手持ちの剣を振らせてもらう事にした。
棚を見ると、バスタードソードの時には気が付かなかったが、長さはさまざまながら根本が広く溝の掘られた剣と、細くて薄い剣の二種類あるようだった。
ちなみに細い方が値段は高かった。
振らせてもらうと、根本が広い剣の方が重たい。
使うなら細い方だな。
その後、突きに特化したレイピアや、切断に特化したシャムシールなんかの、ファンタジーではお馴染みの武器を触らせてもらい、違和感の正体が分かった。
その違和感とは――
『両刃の剣を振り下ろす際、自分の頭に当たりそうでおっかない』事だ!
早く気づけと言われそうだが、何故だろう?中々どうして気が付かなかった。
『何でも切れる剣』の練習として両刃の剣でもいいのだが、戦いに慣れるまでは片刃にしたい。
振りかぶって頭がパックリ割れました!なんて、洒落にならないからな。
初めは余計な事に気を散らしたくない。
オレは両刃の剣はやめにして、親父に片刃で突きと切断に向いた剣を紹介して欲しいと伝えた。
だが、この頃にはオレが素人だと見抜かれてしまったのだろう。
「坊ちゃんには、貴族様が使うような、お綺麗なハンティングソードがオススメですぜ」
なんて、言われてしまう。
むぐぐぐっ!ハンティングソードは悪くない(と言うより、どんな剣か知らない)のだが、言い方が気に入らん。
もう絶対に使わないと心に決めた。
その後、大きめの山刀なんかを触らせてもらったが、やはりしっくりこない。
草を刈るのには良さそうなんだがね。
どうも、こだわり過ぎてしまう悪い癖が出てしまったようだ。
どうしたもんかと親父の方をちらりと見ると、客そっちのけで、中古品らしき武器の仕分けを初めてしまったようだ。
なにやら古そうな剣が、木箱にどっさり入っている。
もうオレは、客には見えないというのか?
もう中古品でいいや!と思い武器屋の親父に近寄り、覗いているとおやじが言った。
「ろくなもんが入っていねぇ。こん中のもんなら、特別に銀貨5枚で売ってやるぞ」
どうも話を聞くと、店仕舞いした武器屋から捨て値で買い付けた出所の分からない品らしい。
めんどくさそうに「この所、また不景気なんだよ」と親父はぼやいていた。
こういうのを待っていたぜ!
こういう場合、マンガなんかだと大抵いい品が眠ってたりするもんな。
オレは武器屋の親父を手伝うフリをして中古品の物色をする。
親父は「おう、すまねぇな」なんて言いながら、仕分けをしている。
チョロイぜ!
こうなると、もはや可愛いやつである。
ちなみに、お金の価値だが、金貨1枚で精霊マネー1000Nらしい。
Nは……多分、ニコラだろうな。
銭貨一枚で1N、銅貨一枚で10N、銀貨一枚で100Nだ。
ここに来るまでの間に肉の串焼き(小サイズ)が銭貨1枚で購入可能なのが確認できたので、そこから逆算すると、銭貨一枚(1N)日本円で100円といった所だろうか?
オレは今の所、金貨一枚で10万円くらいの価値かなと、かなり大雑把な予想を立てていた。
ここの武器は安いものでも金貨3枚ほどだ。
日本円で30万円相当か?
銀貨5枚でいいものが買えればかなりお得だよな。
あらかた仕分けが終わった辺りで、親父が「これは中々だぜ」なんて言い出した。
ちらりとみると、曲刀のようだ。
革製の鞘に入っているため詳しい形は分からないが、中々良さそうだった。
……と言うより、一目ぼれだな。
こういうのは第一印象が大事。
決して親父の発言を真に受けた訳ではありません!
「ああ、それオレが見つけたかったのに!」
これは、銀貨5枚じゃ売れねぇ。なんて言うんじゃないだろうな!
オレはじっと親父の顔を見つめる。
睨んではいない。
『つぶらな瞳の子犬ちゃん』大作戦である。
しばし、無言で見つめあう二人。
口元に指をやり「お腹減ったよぅ。このおじさんはいい人かなぁ」アピールをしてみる。
かなり気持ち悪いが、営業時代のオレの得意技だったりするのだ。
大抵の人間は、このプレッシャーに耐えられないぜ!
「……負けたぜボウズ、売ってやるよ。ただし、『研ぎ』は別料金だ。……見た所防具も必要なんだろう?防具もウチで買って行けよ」
よっし!
人間として何かを失った気がするが、勝負に勝ったぜ!!
「ありがとう、親父さん」
オレは親父と固い握手を交わした。
商談(笑)に成功したら、握手だよな!
オレは鞘から剣を抜いてみる。
ナイフみたいな形をした長く湾曲した剣である。
大体刀身60㎝くらいかな。
根元から三分の二くらいまでは片刃で、刃先の部分は両刃(親父によるとファルスエッジと言うそうだ)で鋭く尖っており、 柄の部分は手を包み込むような形をしている。
独特な形の片手剣だが、これなら突き・斬り両方に対応していそうだ。
オレの知っている武器だと、ククリ刀に一番近いのかな。
それよりも鋭利なデザインだ。
カッコイイ、気に入ったぜ!
「これは『ファルカタ』と言って、この辺りではあまり見ない、かなり古い武器だぞ」
オレが名前を知らないのが分かったんだろう、親父はそう説明してくれた。
ファルカタね。
そういえばRPGなんかで名前は出てきた事あるな。
どのくらい強かったかは覚えていないが、これだけ見た目がいいんだ。
強いに決まっている!
「……それと、これを売った事は内緒にしてくれよ」
小声で親父がオレに告げる。
その時だ。
「……何が、――内緒なの?」
奥の階段から声がした。




