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第二章 13.ギルド登録

「――オレは目指す。強くて、目立たない男だ!」


 なぜ「目立たない」を付け足したのかと言うと、ランドルのおっさん(これからはこう呼ぶと決めた)と別れる時、「その異国の服は目立つので、まず服を買うと良いぞ」とアドバイスされたからだ。


 ギルド近くでおっさんと別れ、教えてもらった古着屋を目指す。


 ちなみに、おっさんの今日の仕事は、貴族出身の新人冒険者の護衛件案内だそうだ。

 ……『護衛』がつく辺りが、おっさんらしいかもしれない。

 

 傷一つない大盾を担いだ女の子と、育ちの良さそうな男数名だった。

 全員フルプレートアーマーを着ていたが、その装備で山を駆けるつもりだろうか?


 遭難しかけたオレが言うんだから間違いない。

 とても動きづらそうだ。


 不思議である。


 オレは古着屋で下着数枚(もちろん下着は新品だ)と、丈夫そうな鼠色のローブを購入し、その場で着替えさせてもらった。


 値切ってはいないが銀貨3枚ほどで購入できた。

 購入した後、交渉するべきだったと思い当たった。


 ……これから物の価値を調べていく必要があるな。


 オレが元々着ていた服は処分してもよかったのだが、金貨を入れていた大きな布の背負い鞄(ランドルのおっさんが譲ってくれた)に仕舞う事にした。


 よく考えると、プラスチックのボタンやズボンのジップは、この世界ではオーパーツになるんじゃないかと思ったからだ。


 ネムは大人しくしていた。

 今は肩の上で、コインを使った念動力の練習をしていたりする。

 練習と言っても、オレの手のひらの上にあるコインを空中に浮かべて、上下させたり回転させているだけだが。


 ネムが言うには、今後この能力を使って、ナイフやフォークを自分で操り、食事をしたいのだそうだ。


 変な所で凝り性なやつだ。

 そんな事ちなくても、オレが取り分けてあげまちゅよ?


 ちなみにこの練習、冒険者ギルドに行くまでずっと練習していた。

 鼠色のローブを着た男が、肩に黒猫を乗せ、手に持つコインを浮かせているのだ。


 気味が悪いのだろう。

 今回は誰もオレにぶつかってこようとはしなかった。


 このローブ、オレのお気に入りになりそうだぜ!




 冒険者ギルドに到着し、受付前の少年の所に行くと「担当のノーラの所に直接行って下さい」と言われた。


 昨日の今日でここまで知っているって、あの少年、優秀である。


 新人ちゃんの所に行き「冒険者登録に来たよ」と言うと嬉しそうに接客してくれた。

 まだ、朝も早いというのにハイテンションである。


 新人ちゃんにおっさんから預かった紹介状を渡すと、キョトンとした顔をして受け取り、中身を確認する。


「……ま、まさか、大マシュラを倒したは、ハルトさんだったんですか?」


 なんだかこの子、鼻息が荒いぞ?


「大マシュラって、あのバカザルの事ですか?」


 この子には敬語で行こうと思う。

 事情も知らないのに、急にため口になったらいぶかしがられるに違いない。


 説明するのも面倒だしな。


 ため口は、同業者なんかにして行こう。


「バ、バカザル……。いいですか、大マシュラは獰猛で狡猾な魔物なんです。ランク的にはBランクの魔物ですが、集団や強い相手とは戦わず、いつも森の中から奇襲を仕替けて来るやっかいな魔物だったんです。近々Aランクに上げる事も検討されていた魔物だったんですよ。――それを一人で……」


 ありえない。ありえないわ。だってこんな……。

 なんて、うわ言のように新人ちゃんはつぶやいている。


 まあ、こんな弱そうなヤツが倒したなんて、信じられないのも無理ないよな。


「一人ではありません。こいつも居ましたしね。……運が良かったんですよ」

「……そ、そうですか。運ですか」


 ネムは「にゃーおぅ」と鳴いてあいさつしたが、気のせいか鳴き声が棒読みだ。


 ネムよ、猫語が下手になってない?


「この子は魔獣でね。こう見えて強いんですよ?――そんな事より、登録の続きをお願いします。紹介者のランドルさんの話しでは、Cランクで登録して頂けると伺っていたのですが……」

「すいません!少々お待ちください。……確認してまいりますっ」




 確認から帰ってきた新人ちゃんにCランクの特権なんかの説明を受けたが、これはおっさんから説明を受けていたので割愛だ。


 滞りなく登録が進むかと思ったのだが、問題が起きた。

 名前の登録の時だ。


「えっと、ハルト・ガトーさんですね。……甘そうなお名前ですね」

「あの、『カトウ』――カ・ト・ウです」

「はい、大丈夫ですよ、ガトーさん。私、ケーキ食べたくなってきちゃいました」


 テヘッと舌を出す新人ちゃん……。


 をい、邪神野郎。

 言語も中途半端化かよ!?


 ふと、オレはモニカ先生を思い出した。

 あの時の「美味しそうなお名前ね」ってのはガトー、つまりケーキみたいな名前って事かよ!?


 誘われているのかと思って損したぜ!

 ああ、オレのトキメキを返して欲しい。


 でも、言われてみれば、『ハルト・ガトー』って美味しそうな名前だよな。……名前もタルトみたいだしな。


 この際、カッコいい名前に改名しようか?

 ――『ガブリ〇ル・ヴァティストゥータ』とか『シド・ヴィ〇ャス』とかいいな。


 こうなったら、名前も心機一転して異世界で頑張っちゃうぞ。

 違う自分になるのだ!


「……名前の変更、お願いできますか?」

「……会員の中には偽名で登録されている方もいらっしゃるようですが、本名を聞いてしまった以上、ここは本名での登録でお願いします」


 キラリと営業スマイルされた。


 ……これは『はい』を選択しないと先に進めなさそうだぞ。


 ガトーも本名じゃないと徹底抗議しようかとも思ったが、オレは自分の名字にそこまで思い入れは無い。

 あきらめて次に進む事とした。


 次に年齢を聞かれ、けっこう驚かれたのだが……もはや、語るまい!


 出身地に関しては『遠方の国ニホン』と答えておいた。

 「知らない国ですね」とさらに質問されそうな雰囲気を感じたので、「もう滅んでしまった国ですよ」とこれ以上詮索するなオーラを出して言ってみた。


 すると新人ちゃんは嬉しそうな顔をした後、神妙に「ならば、これ以上お聞きする事はありません」と返してきた。


 嬉しそうな反応する場面ではないと思うんだが、どこか彼女の琴線に触れてしまったのだろう。

 聞いて来ないなら、それで良しとするか。




「では、ハルトさん。レベルの確認を致します。この魔道具に手を当てて下さい。」


 良く考えると、ここはレベルのある世界だ。


 ……判別法があってもおかしくないんだよな。


 オレ、レベル0なんだが、何と表示されるんだろう?

 というか、オレの基礎能力がバレると、けっこう不味いのではないだろうか?


「……この魔道具では、どこまで分かるのでしょう?」

「はい。この『写観の石版』では、レベル10の単位ごと確認する事が可能です」


 ここまで精密な魔道具は、中々置いていないんですよ。当ギルドの自慢の品です。

 なんて、新人ちゃんは自慢げに説明する。


 なるほどね。

 この世界の、もしくはこの国の魔法技術では『何でも分かる帽子』ほど細かく確認することが出来ないと見ていいだろう。


 オレは意を決して、基礎能力判別が可能かを確認をする事にした。


「……基礎能力なんかも分かってしまうのでしょうか?」

「基礎能力?――えー、体力測定でしたら、年一回ギルドで希望者を募り実施しておりますが……まさかハルトさんの故郷では、そのようなものまで分かる魔道具が存在するのですか?」

「あっ、いえ。……無学な田舎者でして、少し興味があっただけです」

「そうですか。私に分かる事でしたら何でも聞いてくださいね。……では、手をかざして下さい」


 ここまで行ったら後には引けない。

 オレは内心ドキドキしながら手をかざす。


「……あれ?おかしいですね。レベルが表示されません。もう一度、お願いします」


 再度手をかざす。


 もうどうにでもなれというヤツだ!


「やっぱり、表示されませんね。少々お待ちください。――確認してまいりますっ!」


 不測の事態なのだろう。

 新人ちゃんは泣きそうだ。


 オレだって泣きたい。

 このまま特殊な身体の持ち主として、人体実験とかされちゃうんじゃないだろうか?


 逃げるのも不味いだろうな。

 次の日からオレも、WANTEDモンスター扱いである。


 何とか誤魔化そう。

 あの子は……お人好しそうだ。


 そうだ!

 泣き脅ししちゃる!


 そんな事を考えていたら、新人ちゃんが帰ってきた。


「お待たせしました。確認してきた所、この魔道具でも異種族との混血である場合、稀に表示されない事があるそうです。ハルトさんの場合、異国の方だから表示されなかったではないか、との事でした。……勉強不足ですいません」


 これが九死に一生ってヤツか?

 オレは掌にびっしりかいた汗をローブで拭った。


「大丈夫ですよ。オレも原因が分かりホッとしています。では、これで登録は完了ですね」

「はい、お疲れ様でした。では、次は当冒険者ギルドの説明を致しますね」


 まず、何点かの注意事項の説明してもらった。

 依頼をキャンセルすると罰金があるぞとか、ギルド内で喧嘩するなとか、ギルド職員に手を上げないとか……そんな所だ。


 後、獲物を横取りするなというのもあったな。


 けっこう常識的な事だったので逆に聞き流してしまった。


 その後、依頼料の支払いの説明を受けた。

 新人ちゃんが言うには、支払いには2通りあるらしい。


 一つは、現金での支払い。

 もう一つは、ギルドカードへの入金だ。


 現金は用意するのが大変なので、なるべくギルドカードへの入金にして欲しいと言われた。


 どうも説明を聞いていると、電子マネーのような雰囲気……と言えば分りやすいだろうか。


 このギルドカードシステムは、契約精霊『手つなぎの精霊ニコラ』により保証を受けており、例え別の国でもこれを持っていれば価値が変化する事は無いらしい。


 ちなみにこの国では、ほとんどのお店でギルドカードシステムが使えるらしい。

 是非ともお買いものしたら「ニャオン!」と言ってほしいもんだな。


 この精霊が契約を破棄してしまえば価値が無くなってしまうのではないかと思い質問してみたのだが「『手つなぎの精霊ニコラ』が一度契約をしたものを破棄する事はありません!」と自信満々に答えられてしまった。

 何故そんな自信があるのか聞いてみると「『手つなぎの精霊ニコラ』様は善意の精霊様です。契約をおろそかにした場合は自ら滅びてしまいます」と宗教っぽい事を言われた。


 正直ダダ引きである。

 なぜ自分を犠牲にしてまでそんな事を保証するのかさっぱり分からない。


 なんだか胡散くさいので、オレは「現金で報酬を貰う事にしますよ」と伝えると、新人ちゃんは焦り出し、さらに説明を続けた。


 ……どうでもいいけど、この精霊マネー(勝手に名付けた)登録件数ノルマとかあるんだろうか?

 新人ちゃんが必死すぎる。


「――これは私の魔法の師匠からの教えなのですが。……ハルトさんは『火の精霊の話し』はご存知ですか?」

「いえ、どんな話でしょう?」

「『手つなぎの精霊ニコラ』様が何故契約を違えると滅んでしまうのかが、分かりやすく説明できます。――いいですか。火の精霊が『火は燃えない』と自身を否定するとどうなると思います?」


 はて?何だか禅問答の様だな。


 火は燃えない。

 火は燃えない。


 ――いや、燃えるしょ?


 ダメだ、さっぱり思いつかない。


 オレが黙っていると、新人ちゃんはドヤ顔で続ける。


「――消滅してしまうんです。精霊とは、力が擬人化されたものです。自身が自身を否定することは、存在の消滅を意味します。『手つなぎの精霊ニコラ』様は契約の精霊です。契約を否定することは、存在の否定に繋がるのです。ですので、破棄する事はありえないんです。ギルドの契約書類もこれを利用した契約添付魔法が使われています。ちなみに、王都ではこの契約魔法を使った紙幣も流通し始めているようです。――信用、出来ますよ!」


 契約魔法ね。

 確かに魔法の世界なら、そういった独特の貨幣システムが出来上がるのかもしれないな。


 つまりこの世界では、変化する価値を精霊の力で強引に固定して保障していると考えていいのだろうか。


 だがこれは、残念ながら『善意の精霊』であるという保証では無いんだよな。


 人に役に立つんだから善意の精霊様って解釈なのかね。

 このシステムって悪いことしようと思えば、オレの居た世界のお金の知識がある奴なら抜け穴が沢山見つかりそうだよな。


 まあ、オレには思いつかないけどさ。


 後は、そうだな……魔法なら魔力を消費するよな。


「買い物するたび、魔力を消費するなんてイヤですよ」

「そこは問題ありません。入金の際に、私共の魔力が多少消費されるだけです。もし仮に、契約魔法が反故になった場合は、ギルドが責任をもってその代金をお立て替え致します。それにお財布も軽くて持ち運び便利。――是非に!是非に!」


 拝み倒してくる新人ちゃん。

 やはりノルマがありそうだな。


 その姿に、青春の輝きをオレは見た!

 ……見間違いかもしれないけどね。


 負けたよ。

 オレ、そこまで真剣に仕事した事なかったよ。


 ……なにより、現金持ち歩くの大変だったしな。


 知ってるかい?

 金貨ってかなり重たいんだぜ?


 まあ、結局折れた理由はそこなんだがな。


「分かりました。新人ちゃ――ノーラさんを信用します。その契約もして下さい」

「……あっ、ありがとうございます!」


 どっと肩の力を落し、歓喜の涙をぬぐう新人ちゃん。

 ふと隣の席を見ると、先輩らしいギルド職員さんが小さく拍手をしていた。


 オレってば、めんどくさい客なのだろうか?

 



「めんどくさい客ですみませんね」


 先輩職員らしいお姉さんがお茶を入れてくれたので、お茶を飲みながら一応謝っておいた。


「いえ、古くからいるギルド会員の方にも、なかなか受け入れてもらえないシステムでして、みなさん似たような反応をされます」


 しばしの休憩後、金貨100枚ほど精霊マネーに入金してもらった。

 かなり重かったしね。


 そして、Cランクの特権としてファージ山脈周辺の地図をもらい、迷宮捜索の進行状況を教えてもらった。


 どうも、150年経っているのにあまり進行していないようだ。


 ファージ山脈に空く無数の洞穴を調べたり、森を開拓したりしているようだが、森から出てくるモンスターの駆除で大忙しだそうだ。


 最近では、冒険者崩れの山賊も住み着いて問題になっているらしい。


 迷宮を見つけるメリットを聞いてみたのだが、伝説によれば迷宮には凄いお宝が眠っているらしいとの事だった。


 その名も『神の宝玉』。

 死んだ人間すら生き返らせる事のできる神秘のアイテムなんだとか。


 何となくオレたちが探している『元始の海を枯らすモノ』一部っぽいよな。

 オレとネムは顔を見合わせ頷き合ったのだった。


 その他に、迷宮発見のメリットも教えてくれた。


 この国で迷宮とは、『資源』として見ている所があるようだ。

 そこから溢れ出すモンスターも資源なら、迷宮で発見される魔法の武具や宝石やなんかも資源、それらを求めて迷宮探索を行っているようだ。


 ちなみに、迷宮を発見した者には、特別報奨金が出るそうだ。


 『何でも分かる帽子』ですぐにでも調べられそうだが、無理はしたくない。

 まずは戦力を整える事が先だな。


 その後「注意して頂きたいことがあります」と真剣な眼差しで地図の一部を指さし新人ちゃんは語り出す。


 どうも、『ススキヶ原』一帯を差しているようだ。


「この辺りは、SランクのWONTEDモンスター『剣士シャムロックの亡霊』が出没するエリアとなっています。過去、いく度も部隊を投入して討伐に向かったのですが倒せておりません。決してこのエリアには、踏み入れないようお願いします。……と言っても、報奨金は存在します。どれだけ注意を促しても、年に数人、己の腕試しに剣士が向かい、誰も戻ってはこないそうす。ですので、当ギルドはこのエリアに関しては完全に自己責任でお願いしています。ご注意ください」


 なるほど、亡霊ね。

 そんなに強いんじゃ行かない方がいいかな。


 倒す方法は無い訳ではないが、無理して倒す必要は無いもんな。


「分かりました。そんな恐ろしい場所は、近づかないようにしますよ」


 こうして、ギルドの会員登録は無事に終わった。


 ちなみにネムも『魔獣』として登録してもらった。

 本人は魔獣という呼び名に大満足のようだった。


 妙に誇らしげである。


 そうそう、パーティー名の登録をするか聞かれたので「『チーム特攻野郎』でお願いします」と言ったら華麗にスルーされた。


 オレは男らしい良い名前だと思うんだがな。


 新人ちゃん曰く「他のメンバーを見つけたら、みんなで決めた方がいいですよ」だそうだ。


 常にボッチのオレを舐めるなよと言ってやりたかった。



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