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第二章 11.ランドルさん

 相談を終え、しばらくすると、傷だらけで筋肉質でキレッキレなスキンヘッドの男が入ってきた。


 ちなみに、身長2mくらいある。


 ……あの、物凄く怖いんですけど。

 

 オレの身体は、蛇に睨まれたカエルの様に固まってしまう。

 それを見た男は、眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな顔をした。


「……待たせたか」


 まさか、この人がランドルさんか?


 馬車で聞いた声は、もっと優しそうだった気がしたんだがな。

 確かにこの人なら、虎ぐらい簡単に素手で殺してしまいそうだ。


 ランドルさん(仮)は椅子を引き、オレたちの向かいに静かに座った。


「ランドルさん、こんにちはっ。この前はたすけてくれてありがとう!」


 やはり、この男がランドルさんか。


 ネムはランドルさんに会えたのが嬉しいのか、ニコニコ顔である。


 ここはオレも、ちゃんとお礼言わないとな。


「一昨日は大変助かりました。ありがとうございました」

「……ああ、気にするな」


 そう言って、さらに眉間のシワを濃くする。


 いや、めっちゃ気にするよ!

 何かオレが不機嫌にさせてしまったのだろうか?


 オレはネムの顔を見る。


「ランドルさんは人見知りなんだって。ほら、そんなお顔したから、ハルトがこわがってるよっ!」


 ネムくん、そんな失礼な事言ってはダメだよ。

 下手したらブッ殺されてしまうよ!?


 焦るオレを横に置いて、ネムはさらに追い打ちをかける。


「――ランドルさん、笑って、笑って!」


 一色触発の危機だ。

 こうなったら、ネムを連れて走って逃げるか?


 そんな事を考えていたら、ランドルさんがボソボソ話し出した。


「……すまない。どうも俺は話すのが苦手なのだ」


 一瞬、状況が理解できず、キョトンとしてしまったよ。


「……あっいえ、こちらも人見知りなんです。気を使わせてしまって……すみません」


 取り合えず、謝っとこう。


 それにしても、これは何のお見合いだよ!?


 謝るオレに、なおもボソボソと告げるランドルさん。

 今度は何だか申し訳なさそうだ。


「その、ネムを撫でさせて貰えないだろうか?」


 それって、今必要な事なのかな?

 だが、この人はオレたちの恩人だ。

 なるべく要望はかなえてあげたい。


 ちらっとネムを見る。


 ネムはなでて貰いたいのだろう。

 ソワソワしながらオレを見つめている。


「別に構いませんが、ネムに確認してあげて下さい。ネムがダメだと言ったら、いくら恩人でもダメですよ」

「……了解した。ネムよ、頭を撫でさせて貰えないだろうか?」


 真剣な顔でネムに問うランドルさん。


 ギャップ……だろな。

 この人がなんだか可愛いキャラに見えてくるから不思議だ。


「いいよ!ランドルさんなら大かんげいだよっ!」


 ネムは嬉しそうだ。

 こいつは元々人見知りしないが、ここまで懐くなんて珍しい。

 このランドルさんは見た目は怖いが、初めの印象通り、お人好しなのかもしれない。


 撫でられながらネムが言うには、オレが倒れた後、偶然通りかかったランドルさんは、心配で泣き叫ぶネムを励まし続けてくれたらしい。

 そして気絶していた怪我人やオレを自分の馬車に運び入れ、倒したモンスターの運搬までしてくれたらしいのだ。


 その話を聞いた後、オレはまた感謝の言葉を伝えた。


 ランドルさんはネムの話を聞いて、思い出したように、大きな袋を数個オレたちに渡してきた。


「これは、お前たちが倒したモンスターの報酬だ。全部で金貨250枚ある。……本来はお前たちが直接受け取るものだが、査定の関係で先に受け取る事になってしまった。もちろん、全額お前たちの物だぞ」


 ネムを撫でた効果か、先ほどまでより饒舌な気がする。


 金貨250枚か。

 価値は分からないが、大金なんだろうな。

 

 ……だが、全部貰って良いのだろうか?


「あの、ランドルさんには助けて頂きました。ですので、山分けにしませんか?――ネム、それでいいよな?」

「うん、もちろんだよ!」

「ネムからも許可をもらったので、山分けにしましょう」


 だが、ランドルさんはオレの発言が気に入らないのか、口をへの字に曲げた。

 

「いいや、これはお前たちの報酬だ。そもそも、命を懸けてお前たちが倒したのだろう?俺は倒れていた者を助けただけだ。金が欲しくて助けた訳ではない。報酬は貰えんよ」


 悪人顔だが、生真面目な性格のようだ。

 てっきり、賞金の分配で「何割かよこせ」と言われるかと思って来たんだけどな。


 そもそも、冒険者にもなっていないオレが、賞金を貰って良いのだろうか?

 その辺りの事も、ちゃんと聞いておいた方がいいだろう。


「異国から来たので、あまりこちらの常識を知らないので教えて頂けませんか?オレは冒険者ではないのですが、賞金を貰ってしまっていいのでしょうか?」

「WANTEDモンスターに関しては、国王様や領主様からの報奨金だから問題ない。ギルド的にも厄介事が一つ無くなって喜んでいるだろう。……実はな。ここだけの話しなのだが、知り合いにお前たちをギルドへ勧誘するように言われているのだ。気付いているだろうが、お前の倒した魔物はかなりの大物だ。優秀な人材を欲しいのだろう。俺はお前たちを助けた縁があるので交渉役を頼まれてしまってな。……だが、あまり話は得意では無いので、どうも先ほどから緊張してしまっていてな……」


 頭をかきながら、気まずそうに告げるランドルさん。


 なるほど、それでこの人、難しい顔していたのね。


「それなら良かったです。実はしばらくこの街に滞在して、冒険者にでもなろうかと考えていた所です」

「そうか、それはありがたい!……肩の荷が一つ下りたよ。俺も昔冒険者をしていてな。今は怪我をして引退したが、お前たちと同じぐらいの年に村を出たのだ。その若さでその腕なら、すぐに俺を超えるだろう」


 ランドルさんの発言に、オレは答える事が出来なかった。


 あっいや、剣の腕ではなくて『何でも切れる剣』が反則なだけですよ。

 なんて言えないよな。


 オレは基礎能力は高いが、『何でも切れる剣』が無ければあのバカザルには到底敵わないだろう。


「……それと謝りたい事があってだな――」


 腕を組んで、また難しい顔をするランドルさん。


 あなたの難しい顔は凶器なんですからやめて下さい!


「――魔物にトドメを差した剣が見つからなかったのだ。断面を見たが、かなりの業物だろう?実は先ほどまで探しに行っていたのだが、お前たちの荷物すら見つけられなかった。……すまん」


 ああそうか、普通そうなるよね。

 荷物を持たずに旅をするやつなんていないもんな。


 もう、人前でおいそれと『何でも切れる剣』は使わない方がいいだろう。

 面倒事はごめんだしな。


 それにしても、責任感じて探しに行ってくれる辺り、ホントにお人好しだな。

 交渉を有利に導こうとしての行動かもしれないが、こういう真っ直ぐな行動は好印象だったりする。


 ここは、何て言って誤魔化そうか?……こういう場合、下手にウソをついてもすぐにバレるよな。


「気になさらないでください。実はあの魔物を倒したのは、……故郷の秘技でしてね。魔法のようなものなのです。逆にお手数をおかけしたみたいで申し訳ありませんでした。……ちなみに、この事は内密にお願いします」


 うん、ウソは言ってないよな!


「そうだったか。合い分かった。それなら気にする必要は無いぞ。――簡単に己の手の内は明かさぬか。……ウム、良い心がけだ」


 ランドルさんは肉食系の笑みをこぼす。


 これは気に入られたのだろうか?

 顔は怖いが、いい人そうなので悪い気はしない。


 ちなみにネムはなでられて気持ち良くなったのか、喉を鳴らしながら寝てしまったようだ。


 この男テクニシャンか!?


 よく考えたら、マッチョでつり目、惜しくもサラサラヘアーではないが、ランドルさんってオレの理想形だよな。


「オレたちはお金が無いので報酬はありがたく頂きますが、治療費や入門税などもランドルさんが払ってくれたと聞きました。ですので、それに魔物やオレたちを運んでくれた代金をプラスしてお支払したいのですが、どうでしょう?」

「うむ、それなのだが、その代金は教会のシスター達に強引に渡されてしまってな。……礼なら教会に直接言ってくれ。彼女たちもお前を心配していたぞ」


 ランドルさんの話で思い出した。

 退院したと聞いてすっかりシスター達の事を忘れていたが、僧侶のエドワードさんの件もあるし、一度教会に行ってみるかな。


「では、夕食をおごらせて下さい。……もちろん、オレはこの街に詳しくないので、ランドルさんのオススメのお店になってしまいますが、それでよろしければ」

「そういう事なら大歓迎だ。俺は酒が飲める店しか知らないが――そう言えばお前、ハルト殿は何歳だ?」

「殿はやめて下さい。呼び捨ていいですよ。年は――」


 言いかけて悩む。


 酒が飲める店は大歓迎だ。

 俺は酒には弱いが大好物である。


 酒に強い奴はオレからしたらかわいそうだ。

 だって、酔うために飲んでるんだろ?


 ……この場合、素直に26歳って言っても信じてもらえないだろうな。


「――ちなみに、この国では何歳から飲むことが出来るんですか?」

「場所によってだが、この領地では10歳からだな。だが俺は、成人していない者に勧めない事にしている。ハルト……は、話し方から10歳は超えている事は分かるのだがな……」


 おい、真面目か!

 一体オレはいくつに見えるんだ。


「成人は何歳ですか?」

「15歳からだ」


 なるほど。

 成人は15歳ね。


 成人早いな。

 確かにこの世界の住人は、発育がいいみたいだもんな。


 オレの15歳の頃を考えると、かなりガキだったが、案外中身は今も変わってなかったりする。


「ヘヘヘッ、オレ、17なんで大丈夫ですよ」


 オレの身体は17歳だぜ?

 問題などあるまい!


 だが、そんなオレをジッと見つめるランドルさん。


 多分、出会った当初にやられたら全財産払ってたね。


「……嘘は言っていないだろうな」

「ウソなんて言いませんよ。そこまでして、飲みたい訳でもないですし」


 心臓に悪い。

 この人の前で下手なウソつけないよ。


「そうか。それはすまなかった。昔成人前の者に酒を飲ませて、治療院送りにしてしまった事があってな……」


 さみしそうに話すランドルさん……。


 何となくシュチュエーションが浮かんでくるぞ。

 きっと、ランドルさんは強制した気は無いのに、子供がビビッて酒を一気飲みしてしまったとかそんな所だろう。


 この人、オレとは違う苦労をしてきたんだな。


 オレはいい人そうに見られて舐められて。

 この人は怖そうな雰囲気のせいで勘違いされて。


 ――オレは、怖そうな見た目で勘違いされた方がマシだと思うけどな!




 その後、ランドルさんお勧めの店に行き食事を取りながら、冒険者になった時のメリットなんかを聞いた。


 ちなみに食事は美味しかった。

 オレたちは肉料理をメインに注文した。


 少々肉にくさみがある気がしたが、それもまた異国風でよい。

 それに食べ物に飢えていたし、濃い味付けと酒があればあまり関係ない。

 

 ランドルさんの話しでは、オレが冒険者になるなら、今回の件で無条件でCランクからスタート出来るらしい。


 ちなみに、ランクはF~Sまであるようだ。

 Fが一番下のランクなので、オレは丁度中間だな。


 逆に初めからランクが高くて心配だったが、特にギルドからの義務は無いので、初めは簡単な依頼から慣らして行くと良いとアドバイスされた。


 また、Cランクから特例で危険物の規制がある程度緩和されるようで、中位の魔道書や効果の高い魔法薬も売ってもらえる様になるそうだ。


 さらに宿屋や、貸し家の料金なんかも割り引いてもらえるようになるらしい。


 優秀な冒険者に長く滞在してもらう為の措置だろうな。


 ランドルさんは「貸し家を探すなら協力するぞ。ネムがいると宿屋探しは苦労するだろうからな。ビーストテイマーには死活問題だろう?」と言ってくれた。


 ビーストテイマー……またファンタジーな名前を聞いてしまったが、あえて言っておこう。


 テイムされているのはオレだ!――とな!


 宿屋に関しては、完全に失念していた。

 だって、オレの知っているゲームではモンスターが普通に宿に泊まるんだもの。


 それにしても、ランドルさんは何かと世話を焼いてくれようとするな。

 そんなにネムが気に入ったのだろうか?


 まあ、ネムの可愛さは異世界でも共通認識だってのは嬉しいけどさ。


 ネムはと言えば、スペアリブに夢中だった。

 人間の料理は気に入ったようだ。

 熱いものは冷ましながら少しずつ食べていた。


 ランドルさんはあまり酒に強くないと言いつつ、かなりの量を呑んでいた。

 身体が大きいしオレより飲めるのは当然か。




 そして、飲み会は大分佳境に入って来たようだ。


「『オレは酒に酔わない、キリッ!』とか言うヤツは、死んじまえってんだ。カッコつけやがって!……ねぇそうだろ、ランドルさん!酒は酔うために飲むんだじぇ!」

「良く言った。俺もそう思うぞ。……だが、あまり飲みすぎるなよ」

「あんた、かてぇなー。おい、おやじぃ。さっきのやつ、もう一杯もってこい。あのリンゴの香りのするやつ。ちょっと濃いから水で薄めてくれぃ。それから、この怖い顔のおっさんにもさっきの頼む。ピケットだっけ?あのワインみたいな渋いやつ……ランドルさん、それでいいですよね?それとも、もっとキツイのいっちゃいますけ?」


 オレはと言えば、最高に気持ち良くなっていた。


 世界は違えど酒はうまい。

 ……いや、酔えればいいんだよっ!


 実はかなり飲んでるように見えて、酒と水を交互に飲んでいたりする。

 酒1に対して水3ぐらいだな。

 度数によって変わってくるが、これがほろ酔いの一番楽しい状態を持続すると長年の研究の成果で分かってきたのだ。


 まあ、あくまでオレの場合だがね。


 かなり無礼な事を言っているのは分かっているが、酒を飲んでしまったら無礼講だよね?


「ネムも飲むか?お酒は人間関係を円滑にするんだぞう。いいか、大事なのは飲まれないこと。そして、迷惑を掛けないことだ!それが酒好きのマナーだ。オレとの約束だ。大事な事なのでもう一度言っておく、これはオレとの約束だっ!」

「……それもう10回は聞いたよ。お酒はにおいが苦手だからやめておくよ」

「ハルト、この店はそろそろ閉店だ。この一杯を最後に、お開きにするか」


 そう言って、酒を飲み干すランドルさん。


 なんだ?もうそんな時間なのか?

 まだ、時間が早いような気がするけどな。

 この世界では、店仕舞いが早いのかな?


「良いか、冒険者は朝が早いものだ。今日は俺の家に泊めてやろう。……泊る所は決めて居ないのだろう?」


 うふふ、ランドルさんもずいぶん話し方が柔らかくなったね。


「ランドルさん……あんたぁいい人だぁ。初めこわい顔だなんて思ってごめんよぅ」

「ほら、良いから立て。……仕方が無い。おぶってやろう」


 やだなランドルさん、オレ立ってますよ。

 立てなくなるほど飲んだ事なんて、オレ、無いんですからね!


 失礼しちゃうわ!


「うちのハルトがごめいわくをおかけします。――ほらハルト、しっかりしてよ」


 何故だろう?

 ネムが頭の上に居るのに重たくないぞ?


 それ所か、天井が正面に見える。


 ……うう、面妖な。


「気にするな、ネム。長旅で疲れていたのだろう。たまには息抜きも必要だ」


 そう言って、ランドルさんはオレを軽々と担いでしまった。


 くそうっ、マッチョメンめ!

 オレが女なら惚れてるね。


 オレは、背中に背負われたまま店のおやじに代金を支払う事にした。


 これだけは、大人として忘れてはいけないんだぜ?


 金貨何枚ぐらいだろう?――考えるのがめんどくせぇぜ!


 オレは、袋の一つを渡す事にする。


「おやじぃ、とっときねぇ」


 おやじは満面の笑みでそれを受け取ろうとするが、ランドルさんに阻まれてしまう。


「それでは多すぎだ。……つりを頼む」


 そう言って、金貨の入った袋のから一枚だけ取り出して渡した。

 おやじはランドルさんに睨まれてビビったのか、銀貨と銅貨数枚を差し出したようだ。


 ランドルさんはその金を袋にしまいながら「これから色々と入用になろう。命がけで稼いだ金は大事に使うのだ。今回はご馳走になった、感謝する」と言った。


 いやー、カッコイイぜ!

 男惚れいたしやした!


 そうして、オレはおぶってもらってランドルさんの家に行ったのだ。

 ランドルさんの家は、男の家と思えないほど清潔だった。


 きれい好きなんだね。


 ちなみに、今回は気を失わなかった。

 さすが『完全なる肉体』さんだぜ!



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