第二章 10.冒険者ギルド
治療院を後にしたオレたちは、モニカ先生の書いた地図を頼りに、冒険者ギルドを目指す。
イーブスの街は、かなり大きな街のようだ。
ヨーロッパを思わせる美しい街並み。
冒険者の街と聞いていたが、清潔そうな街だな。
オレたちが歩いているのは多分表通りなんだろう。
人通りもかなり多い。
欧米人のような彫の深い顔立ちの人間が多いが、中にはアジア系を思わせる人種もいるようだ。
ただ、みんな大きくてガタイいいな……。
まあ、冒険者が多い街だもん。
そりゃあ、力自慢どもが多いはず。
自然とガタイの大きな奴らが増えるんだろう。
オレはプリケツだが、ヒョロヒョロでなで肩だ。
どれだけ基礎能力が高くても、肉体には反映されないらしい。
17歳当時、身長は163……じゃなくて、170㎝と言い張っていた(今でも言い張っている)記憶がある。
……身体測定の日って、朝から背が縮んでいるような気がするんだよね。
これじゃあ、モニカ先生に子供扱いされる訳だな。
オレは治療院を思い出し、何故だかホクホクした懐かしい暖かい気持ちに包まれていた。
何が懐かしいのか、自分でもよく分からなかったけどな。
「モニカ先生、いいヒトだったねっ」
オレの肩にチョコンと乗っていたネムが、そんな事を言った。
「そうだな。異世界に来て早々、いい人と知り合いになれたな」
むこうは仕事でやってるんだろうが、それでも好感の持てる人物だったのは確かだ。
「美人だったしねっ。ハルトのお顔あかかったよ!」
「バ、バカそんな事ないぞ。オレはモニカ先生の仕事ぶりに、感心していただけだ」
「ふーん。……今もお顔まっかだけどね」
ネムは楽しそうにニヘッと笑った。
分かったぞ。
この子は、オレをからかって遊んでいるんだ!
昔から天使だったが、話せるようになってからは小悪魔性能まで加わってしまったのか!
天井知らずで可愛すぎるぜ!?
確かにモニカ先生は美人でオレのタイプだが、オレには物理的に何もいたす事はできないのだ。
……それ以前に、旦那さんも居る様だしね。
オレには小悪魔ネムたんが居ればそれでいいのだ!
オレは、クールな笑みでネムに告げる。
「オレには、ネムたんが居ればいいんだよ?」
「きもち悪いお顔禁止だよっ!……そうだ、ランドルさんやモニカ先生から『あぶないから、あんまり人前で話しちゃダメだよ』って注意されていたんだ。……しばらく話さないっ!」
顔をプイッと横にまげられてしまったよ?
あっ、いや、それはそうなんだが……なんだか悲しい。
強くなる。――まずはポーカーフェイスだ。
オレは強い精神力を活かしてのポーカーフェイスのマスターを、固く心に誓ったのだった。
その後、ネムの機嫌が中々直らなかったが、モニカ先生の書斎で何の魔道書を見たのか聞くと「中位、風の魔道書」と一言だけで答えてくれた。
うむ、気付いていないかもしれないが、スネているお前も可愛いのだよ?
ちなみに、ネムの話しでは『初級回復魔法の魔道書』『薬草図鑑と効能集』『薬の調合書』も見せてもらい、『何でも分かる帽子』に記憶させたようだ。
あの先生、薬学治療師だけでなく、風魔法と回復魔法も使えると見ていいだろう。
かなり優秀な人なんだな。
そんな事を考えながら歩き、オレたちは冒険者ギルドのある北門付近までやって来た。
この辺りまで来ると、鎧を着た人や武器を持った人が多い。
そして何だかガラの悪い人も多くなったように感じる。
何しろ、みんなデカくてガタイがいいのだ。
本人たちはその気は無いのだろうが、そんなやつらが鎧を着て武器を持っているだけで、もの凄くプレッシャーを感じる。
オレは居心地が悪くて、速足でギルドに向かおうと考えたのだが、そうもいかなかった。
反対側から歩いてくるやつらは、オレが歩いているのを一切気にせずぶつかって来ようとするんだ。
何なんだよ!
ガラがわりーな。
人がいたら一歩横に退く必要は無い。
お互い半歩ずつ引けばぶつかる事は無いのだ。
譲り合いありがとう。
これが、事故防止と世界平和の秘訣だとオレは思うんだがな!
……まあ、オレは大人だから文句なんて言いませんよ。
そっちがその気なら、全力でよけるだけである。
オレの基礎能力をなめるなよ?
オレは肩にいたネムを胸に抱くと、颯爽とガラの悪いやつらを回避しながら冒険者ギルドへ向かうのだった。
……別にこわい訳じゃないんだからねっ!
そんな感じで、ようやく冒険者ギルドにたどり着いた。
冒険者ギルドはかなり大きな建物である。
レンガ作りの建物で、なんとなく歴史を感じる建物だ。
隣には大きな倉庫のような建物があり、その前に毛皮や肉、木材を積んだ大型馬車が沢山停まっていた。
オレは深呼吸した後、思い切ってギルドのドアを開ける。
こういう時って、何となく緊張するよね。
そこは、外の雰囲気とは打って変わって、落ち着いた雰囲気に包まれていた。
磨きあげられた木の床、窓は少ないが魔法の照明器具でもつけているのか部屋の中は明るかった。
だが、あまり居心地はよくない。
何と言うか、お役所みたいな感じの所だな。
オレが考えていた冒険者ギルドって、酒場が併設されていて、荒くれ者が酒を飲んでいるようなイメージがあったのだが、ここは違うようだ。
オレは案内板を頼りに、冒険者の受付窓口まで向かう。
窓口前の少年に、問答無用で「十一番の番号札でお待ち下さい」と言われたので、そのまま木の札を受け取り、近くの椅子に腰掛けた。
ちなみに、クッションなど付いていない固い木の椅子だ。
豪華な建物の割に備品がショボイ。……儲かっていないのかな?
なんだか落ち着かないので、椅子に座りながらキョロキョ辺りを見回していると、壁に貼られた紙が目に入る。
『WANTEDモンスター』『常時討伐依頼モンスター』と書かれていた。
『WANTEDモンスター』には、強そうな名前がついており、そのモンスターの絵が描かれている。
何枚か赤で大きくバツ印が描かれているものは、『討伐されましたよ』という事だろうか。
『常時討伐依頼モンスター』の方は、名前と金額だけ書かている。
ゴブリンなんかの名前もあるな。
扱いや金額から見て、前者は賞金がかかっているボスで、後者は倒すとお金をくれるザコといった所だろうか?
ネムが小声で「あれはっ!」と言って肉球を向ける。
そこにはバツ印が描かれたバカザル、オレたちの倒したモンスターの張り紙があった。
あいつ『WANTEDモンスター』だったのか……。
これは賞金が期待できそうである。
金額はいくらかな?
そんな事を考えている時に、呼び出しがあった。
「十一番の方、こちらへどうぞ!」
オレたちは呼ばれた方へ向かい、用意された椅子に腰かける。
「はっ、初めましてですねっ。ぼ、冒険者ギルドへようこそ。私は、当ギルド受付係のノーラ・トンプソンと申します。本日はどういったご用件でしょう?」
ブラウンの髪を三つ編みにし、眼鏡をかけたノーラという女性――というよりまだ少女だな。――がハキハキと話しかけてくれる。
顔は少し赤い。
新人なんだろうか?緊張しているようにも見える。
顔は少々地味だが可愛らしい。
そばかすが目立つが、それがチャーミングだったりする。
何となくオタクオーラがあるが、オレからしたらかえって好印象だな。
「ギルドの会員登録でしたら、これから私が担当となります。よ、よろしくおねがいします!」
テーブルにつきそうなくらい身体を折り曲げて礼をしてくる。
こういう初々しい感じって、応援したくなるよね。
冒険者になったら、この子に担当してもらうとするか。
「ご丁寧にありがとうございます。オレは、ハルトと言います。今回はランドルという方に取り次いで頂きたくて、お邪魔したんですよ。……『先日倒したモンスターの件』と言えば、伝わると思います」
オレがそう告げると、少し残念そうな顔をされたので「――実は冒険者になる事も考えていましてね。その時、担当はノーラさんにお願いしますよ」と付け足しておいた。
「そうですかっ!その時はよろしくおねがいします!ランドル……『大虎殺し』で『運び屋』のランドルさんですね。――少々お待ちください!」
受付の女の子は、頭をペコリと下げ何処かに行ってしまう。
どうやら確認に向かったようだ。
新人ぽい子にも名前が知れ渡ってるランドルさん、マジでパないな。
暫くすると息を切らして戻ってきたぞ。
新人ちゃん、がんばれっ!
「今は運び屋の待合室にいるようなので……ご案内します!」
いや、場所教えてくれるだけでいいんだけどね。
なんだかVIP待遇で悪いな。
こういう対応って、なれてきちゃうと中々できないんだよな。
「忙しい所、ありがとうございます」
色々考えたが、今回はご厚意に甘えよう。
オレはお礼を言って、案内してもらう事にした。
途中、会話が無く気まずかったので、『運び屋』について聞いてみた。
こう見えて、オレは人見知りなのだ。
人見知りとは、一定の境を超えると、沈黙のストレスに耐えられなくなる。
つまりオレは、沈黙すると死んでしまうのだよ。
彼女はメモを見ながら必死に説明してくれる。
彼女が言うには『運び屋』とは、冒険者と共同で狩場などに向かい、冒険者の荷物を持ったり、狩ったモンスターなどを運んだりする仕事をする人たちの事を指すらしい。
こう聞くと下っ端のようだが、そうでは無い。
ベテランの運び屋は、大型の馬車を持ち、地形に詳しく、モンスターにも詳しい。
それに一番の強みは、色々な冒険者と共に行動しているので情報を沢山持っている事だと言う。
この地域の狩場は広大だ。
冒険者たちも遠くの狩場まで歩いて向かうのは大変だし、街付近で活動していれば大した収入はない。
新人冒険者には、馬車を買う金だって最初は無いだろう。
なるほど、そこで運び屋さんか。
隙間産業みたいだが、うまく立ち回れば冒険者より安全に稼げそうだな。
恩を売って冒険者が有名に育てば、後は「あいつらはワシが育てた!」とか言っていればある程度仕事には困らなそうだ。
優秀な冒険者を育てた運び屋さんだもんな。
新人からは引く手数多、高い料金も払ってくれるだろう。
意外と有益な情報を得られたな。
この子にも今度お礼をしなくては。
途中売店があったので飲み物を買ってあげたかったのだが……そこでオレは、一文無しの無職だったと気が付いてしまった。
新人ちゃんの案内で個室の待合室に到着した。
お礼を言うと、深々とお辞儀をして彼女は部屋から出て行った。
すかさず、オレはネムに冒険者になろうと相談を持ちかけた。
ネムはお金が無いと言う事がどういう事なのか最初理解していなかったが、「お金が無いってのは、美味しい食べ物が食べられないのと同じ意味だよ」と言うとかなり焦って賛成してくれた。
実は冒険者になる件、モニカ先生に言われた後かなり真剣に考えていたんだよね。
別に冒険者になる必要は無い。
無いのだが、オレには技術系の知識は無い。
異世界に来て日本の知識を生かして生産チートなんて無理である。
営業経験はあるが、物の相場も分からない異世界で、海千山千の商人相手に商売なんて出来ないだろう。
オレは自覚している。
フッ、所詮オレの営業はご用聞きレベルなのさ!
回復魔法を使い教会関係者になるのは、旅が出来ないからダメだ。
何より無神論者である。
信仰しているフリして生活するなんて、オレには出来ない。
きっとストレスでハゲるだろう。
治療院を開くのも手ではあるが、この世界にもルールがあるようだ。
その辺り、関係者に睨まれるのも嫌だしな。
それに何をするにしても元手は必要だ。
結局、オレの脳味噌では、とりあえず冒険者になるしか思いつかないのだ。
ネム、脳筋でゴメンネ。




