第二章 7.ソウルイート
「……楽に…して……いただけ……ませんか?」
そんな声が聞こえたのは、ネムの容体を確認していた時だった。
ネムは、かなり不味い状況だった。
骨が何本か折れている。
殴られた時に爪で切れたのだろう、血が大量に流れていた。
ネムに呼びかけても返事が無い。
せめて、意識があれば『ソウルイート』でHPの回復が出来るのだが……。
そんな時、茂みから声がした。
先ほど投げ飛ばされた壮年の男性の方からだ。
「……私も…楽に…して……いただけ……ませんか?」
オレは壮年の男性を見た。
壮年の男性はこちらをみてニコリと笑う。
だが、その顔は蒼白で目に力が無い。
「回復…魔法……を使って…いる…の…ですが……もう治りそうも……ありません。せめて楽に……」
壮年の男性の拉げた身体からは内臓が飛び出し、手足はあらぬ方向に折れ曲がっている。
多分背骨も……。
ここは「諦めるな」と励ます所だろうが、確かにこれでは話している方が奇跡だ。
「……みなを、教会の……皆を助けたかった……のですが、もう、…私に…は…魔力がありません」
教会か……服装を見ると、確かに僧侶の様な格好をしている。
この男、倒れている教会の仲間を助けようと、自分が助からないのを承知で回復魔法を使い、延命を続けていたのか。
回復魔法か……。
これがあれば、ネムも助かるかもしれない。
オレは壮年の僧侶に話しかける。
これは懺悔だ。
「オレは『ソウルイート』という特殊な技が使えます。これは相手の魂を喰らいその者の能力を奪う技です。これを使えば、あなたの『回復魔法』を奪い、オレの仲間や、あなたの仲間を助けられるかもしれません」
壮年の僧侶は、黙ってオレの話を聞く。
その表情は救いを見つけた者のように澄んでいた。
……そんな顔はしないで欲しい。
「しかし、それを行うとあなたの魂は消えてしまいます。……オレは浄化されると聞いていますが、実際の所どうか分かりません。それでもオレはあなたの魂を奪おうと考えています。ですから――」
「――いいでしょう。……私の魂を……役立てて…下さい。私は、エドワード…エドワード・グラン」
「オレは加藤、……ハルト・カトウです」
「ハルト殿……皆を頼みました」
そう言って、僧侶エドワードは瞳を閉じた。
とても満ち足りた表情だ。
これから死ぬ人間の顔には見えない。
「……ソウルイート」
オレはその日初めて人を殺した。
救ったなんて思っていない。
利己の為、人を――
殺したんだ。
彼の力が身体に入って来るのを感じる。
『回復魔法レベル3』『生活魔法』を覚えたらしい。
試しに自分に回復魔法を使用してみる。
不意に頭に呪文が浮かぶ。――これは祈りだ。そして願い。
魔力を差出し、精霊に、自分と自分の連なるものに対して助けをこう願い。
「……治癒の波」
そしてオレは、あたたかな光に包まれた。
これなら、行ける。
オレはネムに近づき魔法を使う。
「……治癒の波」
まだ、ネムは起きてこない。
オレは諦めずに何度か使う。
傷口はふさがったように見えるがまだ駄目だ。
「……大きな治療の波」
今度はどうだろうか?
よし!ネムのひげがピクピク動いたぞ!
「おい、ネム!大丈夫か?」
「……ぅん、だいじょう。……寝ちゃってたみたい」
動くのはつらいのか「あれ?ここは?」なんて言いながら辺りを見回す。
そして、倒れたモンスターを見つけ、ビクッと身体を震わせた。
「安心しろ。あのサルは、このオレが倒したからな!」
「ホントに?だって……すごく強かったんだよ」
「オレが」を強調したが、あまり信じてもらえなかったようだ。
そりゃあそうだよね。
オレはずっとビビッて動けなかった、チキン野郎だもんな。
だが、良かった。
本当に良かった!
今回の事は、反省しなきゃいけない。
オレたちは相手を舐めすぎていた。
まず、ネムの能力でどんなモンスターか確認した後、遠くから『何でも切れる剣』の突きによる狙撃という手もあったんだ。
そうしていれば、少なくとも僧侶のエドワードさんは死なずに済んだのかもしれない。
「そうだネム、オレ、回復魔法を覚えたんだ。これで生きてる人を助けよう!」
ネムを救ってくれたせめてものお礼に、エドワードさんの仲間を助けないとな。
その後、オレたちは倒れている人たちに駆けより、回復魔法を唱えて行った。
護衛の兵士風の人はもう事切れていたが、教会の関係者らしきシスターは何とか助ける事が出来た。
倒れた馬車を持ち上げ、中の人たちも救出する事に成功した。
40もある筋力さんのおかげだな。
そして、最後の一人に回復魔法をかけ終えると、急激に意識が遠くなる。
ヤバい。……まだ安全の確認さえ出来ていないのに。
思えば、寝なくてもいい身体の割に気絶ばっかりしている気がするな。
耳元で騒がしい声がして……抵抗しようとしたが無駄であった。
そしてバッタリと意識が落ちた。
――暗転である。




