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第二章 6.戦い

 オレたちが到着すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。


 馬車が横に倒れ、馬がその傍らに引きちぎられ転がっていた。

 血まみれの人間も何人か倒れている。

 辺りには血の臭いが充満しており、吐き気がこみ上げてくる。


 その血の臭いの中央に、魔物は居た。


 体長は、立ち上がると4mはあるだろうか?

 赤い体毛の熊――いや顔の形からすると猿か?――が、口に兵士をくわえ、こちらを見つめている。


 その顔が、不気味にグニャリと歪んだ。


 嗤ってやがる。


 ――馬鹿な餌がやって来た。


 そう、言いたげな表情だ。


 口にくわえた兵士の頭部がはじけ飛び、ドサッと音を立てて地面に落ちる。


「……あ、あ、あ……」


 オレの思考は、恐怖で鈍くなって行く。

 身体は震えて、動くことが出来ない。


 助けになんて来るんじゃなかった!


 後悔だけが、オレの頭を支配していく。


「……逃げなさい!」


 その時、少し離れた所で倒れていた壮年の男性が立ちあがった。


「何をしているのです!早く逃げなさい!」


 その直後、魔物の身体がブレた。

 そして次の瞬間、壮年の男性の身体は宙を浮き、木に叩き付けられていた。


 身体はありえない角度に拉げている。


 魔物は、またその顔をグニャリと歪ませた。


 ――逃がさないぞ。


 こいつは遊んでいるんだ。

 これはオレたちを恐怖させ弄んだあと捕食するゲーム。


 もう駄目だ、逃げられない。


 このままオレたちはこいつに弄ばれ死んでしまうんだ。

 恐怖で歯が噛み合わず、カチカチ鳴っているのが自分でも分かる。


「ハルト、ここはまかせて!」


 ネムは、オレが震えていたのが分かったのだろう、オレの肩から躍り出て……呪文を唱える!


「くらえ!……火炎弾(ファイアバレット)!」


 だが、その魔法も、厚い体毛に覆われた魔物の身体によって掻き消えてしまう。


 魔物はつまらなそうにネムを見ると、軽く腕を払うようにして、ネムを殴り飛ばす。

 だが、ネムは空中で宙返りをし、地面に華麗に着地を決めた後、また呪文を唱える!


「……大火球(ファイアボール)!」


 これは、現在ネムが使用することが出来る呪文の中で、最大の威力がある魔法だ。

 ……だが、この魔法も、この魔物にはほとんど効果が無かった。


 魔物は、ネムを殴り飛ばした時のように軽く腕を払い、『大火球』をかき消した。


 想像より少しだけ威力があったのだろうか。

 少しだけ焦げた腕を見て、今度は憎々しげに――殴る。


 ゴムボールのように弾け飛び、地面に転がるネム。


「――うぐっ。……かはっ……」

「……ネ、ネム!」


 オレは、ネムの元へ駆け寄ろうとするが、恐怖で足が竦んで動くことが出来ない。


「……に……げ……て……」


 その言葉を最後に、ネムは動かなくなった。

 その様子を見て、顔を歪ませる魔物。


 ――今度は、ネムを踏みつけようとする。


 このままでは、ネムが死んでしまう!


 オレは恐怖を意識で抑え込もうとする。


 いつまでオレはビビってんだ。

 オレが何とかしないと。

 オレが守らないと。


 情けない、情けない、情けない!


 危機意識が欠落していた。

 オレたちが魔物を殺してきたように、魔物だってオレたちを殺せるんだ。

 あまりに優遇されすぎていて、そんな事さえも気付いていなかった。


 だから、そんなんだから……恐怖で動けないんだ。


 オレはネムを見た。


 こうなってしまったのは、オレのせいだ。

 オレが助けるんだ!


 呼吸を整える。

 少しずつ、震えが収まってきた。


 『何でも切れる剣』を呼び出す。


 あとは……やるだけだ。


 視野が広がった。


 ――そして、やっとオレは『正眼の構え』を取ることが出来た。


 ネムを踏みつけようとする魔物に向けて、『何でも切れる剣』での突きを射出する。

 野生の感なのか、危機予測が働いたのか、身体をひねり突きをかわそうとする魔物。


 ……だが、威力がある攻撃だとは夢にも思っていなかったようだ。

 なんとか、肩を射抜く事が出来た。


 そのまま魔物の心臓に向けて、袈裟に斬り払おうとするが、後ろに下がりかわされてしまう。

 魔物は、しばらく呆然と「何が起きたのか分からない」といった表情で、自身の肩から吹き出す血を眺めている。


 ……なんだ、こいつもそうか。


 不意に嗤いが込み上げて来る。


 こいつも気付いていなかったんじゃないか。……自分が殺される可能性があるって事に。


 こいつも、この辺りでは圧倒的な強者だったんだろうな。

 だから余裕で、獲物をいたぶって遊んでいたんだ。


 そのせいでオレたちを甘く見て、殺せるタイミングで殺さなかった。

 こいつが殺そうと思えば、すぐにオレたちなど殺されていたはずだ。


 そうか、そうか。

 こいつもオレと同じ、バカ野郎か……。


 そう思うと、相手が少しだけ小さく感じ、気分が楽になる。


「おい、サル。お前の相手はこっちだぜ」


 オレに言われて頭に来たのか、こちらを睨むサル。

 言葉は通じなくても、バカにされたのは分かるんだな。


 もうオレには、こいつが恐ろしい魔物ではなく、ただのバカなサルにしか見えなかった。


 ――後は簡単なお仕事だ。


 怒り狂ったサルが、オレに向かって真正面から走ってくる。


 なんだ、冷静に見れば動きを追えない事は無い。

 オレの身体は強化されているんだ。


 オレは『正眼』に構え、サルの首筋に剣線を置く。

 そして、そのまま手を伸ばし、体重を前に掛けるだけ。


 ――それだけで殺せる簡単なお仕事。……ってヤツか?


 首から血を吹き出すサル。

 そんなサルと目が合った。

 「意味が分からない」そんな目をしていた。


 ……案外グロいな。


 目の前で命を奪う事の意味と覚悟。

 真っ赤な血を浴びて、今更ながらオレはそれに気が付いた。


 勢いあまって猛スピードで倒れこんでくるサルをかわす。


「……今、ラクにしてやるよ」


 そして、倒れこみ痙攣しているサルの首を、剣で優しく落としたのだった。



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