第二章 4.無い
次の朝から2日ほどかけて、オレたちは基礎能力を上げる作業を行った。
ネムと相談し、「街へ向かうなら、その前にもっと基礎能力を上げたほうがよいのではないか」という結論に至ったのだ。
ネムの索敵能力を使ってモンスターから逃げるにしても、モンスターが強ければ逃げ切れないしね。
そして、今後の目的の確認を行った。
①街に向かい、到着後、武器・魔法・装備のなど戦力強化を行う。
②しばらく街に滞在し、この付近にあるという『世界を枯らすモノの一部』の捜索・情報収集を行う。
③発見後、次の目的へ向け、旅の準備・情報収集を行う。
思いつく限りはこんな所だな。
この近くにあるらしい『世界を枯らすモノの一部』を探すにしろ、戦力増強にしろ、しばらくは街に滞在することになるだろう。
そして、オレたちの特殊能力についても、他人には黙っていようと約束した。
色々理由はあるのだが、親愛なるクモ男が映画で「強き力を持つ者は、その力の義務を持つ」とか、めんどくさい事を言っていたのを思い出したからだからだ。
オレは彼と違って、厄介事に巻き込まれるのはご免だ。
できればネムたんと、悠々自適に異世界旅暮らしを満喫したいのである。
ちなみに、ネムの『何でも分かる帽子』で『世界を枯らすモノ』関係を探してもらったのだが、見つける事は出来なかった。
力が強すぎるからなのか、はたまたこの世界のモノではないからなのか、その理由も知ることは出来なかった。
オレたちは初め、小さな昆虫を使って基礎能力を上げてゆき、その後草原に出没するモンスターを狩って行った。
『何でも切れる剣』さんは大活躍である。
ちなみに遠くから剣を伸ばして突いて倒した。
チキン戦法と言う事なかれ。
オレのスキルに『剣術レベル1』があったが、それでは勝てる気がしないのだ。
一応、オレ剣道有段者なんだけどね。
まあ、実戦経験のない剣道など、この世界ではレベル1程度なんだろう。
元々オレの剣道は、よくてスポーツ止まり、武術では無い。
『打つ』ことは出来ても相手を『斬る』事なんて出来ないだろうからな。
だが、『突き』に関しては割と自信があった。
『正眼』で構えで狙い、腕を前に出し自重を乗せるだけの簡単なお仕事である。
これで学生時代は対戦相手には嫌がられたものだ。
そんな訳でオレは、『何でも切れる剣』を伸ばして『突き』を行い、けっこう安全に狩りを行っていったのだ。
これっていきなり裏ワザ発見だよな。
オレたちの『各・基礎能力』は大体25前後、体力はなんと34になった。
木への『ソウルイート』が効いたらしい。
ネムに確認した所、一番最寄りの街でも基礎能力値が30を超える者はほとんどいないようだ。
HP・MP・スタミナも格段に上がった。
この三点は『基礎能力』の数値で上昇するようだ。
ちなみに、『ソウルイート』することで相手のHP・MPを吸い取り、回復することが出来る事も分かった。
そうそう、肉食性の植物を倒したら、スキル『自然回復速度UP』を手に入れた。
これは、HP・MP・スタミナの数値が回復する速度を速めてくれる能力のようだ。
二人とも(もうネムも話せるようになったんだし『二人』と数えることにした)同じように『基礎能力』を上げるつもりは無かったのだが、一緒に行動していると同じような数値になってしまう。
そろそろ、モンスターの能力ドロップの傾向も分かってきたので、オレは筋力・器用さを、ネムは魔力を重点的に上げて行く予定だ。
オレの魔法スキルはまだ出ない。
ネムが倒したという、小さな火を吐くトカゲも、水辺のスライムも出てこなかった。
意外とレアモンスターだったのだろうか?
魔法は、「ネムに教えてもらい覚える」という手があると思い付き、実践してみたのだが、2日程度では無理だった。
この魔法と言うものは、魔力があり、呪文を唱えれば誰でも使えるというものでは無いようなのだ。
ネム氏曰く、
「魔法とは、自分の魔力を精霊と同調させ、自分の心に思い描いたものを具現化させる作業」
だそうだ。
無理ゲーじゃね?
そもそも、魔力を使うという今まで存在しなかった器官を使うのだ。
一丁一席には出来ないのだろう。
成果と言えば、子供の頃自分の耳をピクピクと動かす練習をした時のように、むず痒いような、どうしたらよいのか分からない感覚が印象に残ったくらいだろうか。
だが、ある理由から、オレたちは山を下りて人里に向かう決心をした。
実際はまだまだ、『基礎能力』を上げる事は出来そうなのだが、ある『欲求』がオレたちが街へ行くことを猛烈に支持していたのだ。
その欲求とは、『食欲』である。
『完全なる肉体』の効果で食事は必要の無い身体ではあったが、何か美味しいものを食べたいという欲求だけはどうしても湧いてくる。
睡眠欲に関しては、新しい世界へ来たという緊張感もあってか、1~2時間ほど寝れば満たされたが、この美味しいものを食べたいという欲求だけは収まらない。
むしろ、日に日に増加していった。
試しに小川で魚を取り、ネムの魔法で火を起こし食してみたのだが、結果は味気ない魚(主に塩分が足りない)に、余計に『食欲』を刺激されてしまった。
ネムは割と満足したようだが、オレは余計に居た堪れなくなってしまったのだ。
そんな訳で街を目指そうと、自分たちのねぐらから出ようとした時、ふと、ある事に気が付いた。
「なあ、ネム。オレたち、ここ二日ほどトイレに行っていないよな」
「そういえば……そうだね。これも『完全なる肉体』の効果なのかなっ?」
そう、トイレに行っていないのだ。
ちなみにだが、『大』も『小』もしていない。
食事と言えば小魚くらいなので「大の方は出なかったんだろう」で済むが、小の方は違う。
何となく口さみしいので、小川の水をよく飲んでいたんだよね。
標高が高いせいか、透明で結構おいしい水だったよ。
自慢ではないがオレは頻尿だ。
事務所で仕事していると、一時間に一回はトイレに行く。
取引先から電話があった時などよくトイレに居たので、取引先からは「遥斗くんのデスクはトイレにあるのかね?」などと褒められたものだ。
中々ユーモアのセンスがある取引先だろ?
そんなオレが、トイレに行かないなんてありえない。
『完全なる肉体』の効果だとしても、ボウコウが腐ったらどうしよう?
オレは不安になり、おもむろに立ち上がりズボンと下着を下した。
すると、そこには何もなく。
――あれ?
オレは、慌ててもう一度確認する。
何もない。
無い。
――無いのだ。
そう、オレのソーセージが消失していた。




