第四章 26.時には昔の話を
そんな感じで、オレは引きこもり、一週間が過ぎた。
その間に、ファルカタはミィーカから返してもらい(意外にも素直に返してくれた)、お見舞いに来てくれたカトリオーナ司祭に預かってもらった。
女子たちは毎日やってきては、クーとオリヴィアを交えて色んな話をしている。
オリヴィアとオレはまだ話していない。
たまに家の中ですれ違う時に挨拶くらいはしているんだが、どうも気まずくてな。
クーは、自分の身の上話や、『氷の呪い』に関しても打ち明けたそうだ。
オレはクーに、「信用できると思った相手には、お前の秘密を打ち明けてもいいよ」と伝えてある。
オレは、他人に話せるってのはいい事だと思うんだ。
だって、その人の事を信用出来て、さらに自分の辛かった事を理解して言葉にしているって事だろ?
それをオレは『乗り越える』って呼ぶんだと思うし、それこそが『成長』だと思う(オレのソーセージの件はノーカンな)んだ。
ミィーカとリリィがオレの所にやって来て「……お前、どんかんな割にイイ事言うよな。感動したぜ!」「猫耳カチューシャはアレに使ったのね。……天才ね?私も看病されたいわ」と、ホクホク顔で告げて来た。
それは何の話だい?
クーよ、余分な事まで話してない?
ちなみに、ネムの『何でも分かる帽子』やオレの『何でも切れる剣』に関しても、聞かれたので話しておいた。
もうほぼバレてしまっているし、「絶対に口外しない」と言ってくれたので信用する事にしたのだ。
そうそう、オレが引きこもっている間に、おっさんとモニカ先生がお付き合いを始めたそうだ。
色々な人(元気になったマライじいさんも来てくれた)がオレにお見舞いの品を持って来てくれるんだが、その時に、モニカ先生とおっさんから直接報告を受けたのだ。
嬉しそうなモニカ先生に「ハルトくんも、ハーレム頑張ってね!」と訳の無からない事を言われ、目眩を起こしたのはここだけの話しだ。
で、オレはと言えば、久しぶりに一人で街をブラついていた。
一週間引きこもっていたとはいえ、連日誰かがお見舞いにやってくるのだ。
これでは、外でフラフラしていた方が気が楽だな。
……あれは、苦行だね。
「よう、少年。……いや、ハルト殿。そんな恰好で散歩かい?良かったら、一緒に飲まないか?」
街を歩いていると、聞き覚えある声に呼び止められた。
今オレは、鼠色のローブで散歩している。
破れた黒皮の鎧はリリィに直してもらっている最中だ。
「今度こそ、最高の防具を作るわ」と意気込んでいたが、オレからしたらリリィが作ってくれるモノはすでに最高のモノなんだがな。
……それにしても、声の主は良く気づいたな。
オレは後ろを振り返る。
見ると、数人の美男美女冒険者を引き連れて歩く牛耳族の男が、牛の尻尾をオレに向け、拳銃(この世界には拳銃は無さそうだし弩か?)で狙い撃つような仕草を見せていた。
「あなたは……ジョニーさん」
「帰り際にドジって、大怪我を負ったって聞いたぜ?……もう良いのか?」
「……はい、もう大分いいですね。そもそも、そんな大層なケガではないですよ」
「そうか!じゃあ、飲もうぜ!……俺に一杯ぐらい奢らせてくれよ」
そう言って、人懐こい顔でオレをBAR風の酒場へ案内してくれる。
途中マネージャー風の女の人に、『後へ続くもの』へ誘われたが、ジョニーさんの一言、「ハルト殿は、ウチには合わないぜ」でその話はお釈迦になってしまった。
「悪く思わないでくれよ。ウチは『弱い者が集まって強い者を超える』ってのが、そもそものチーム結成の理念なんだ。……ハルト殿は強いが、それ故連携を乱す。それに、ハルト殿からすると我々は足手まといだ。双方に理は無い」
BRAに着くと、ジョニーさんはオレと二人で飲むと言い、仲間の冒険者を遠ざけるとそんな事を言ってきた。
この人、思ったより理性的な人なのかもしれないな。
「……今日、ハルト殿とは話したいことがあってね」
「ジョニーさん、『殿』はよして下さいよ」
オレの一言に、ジョニーさんは「分かった」と短く告げて、店のマスターに「いつものヤツを二つ頼む。俺と、ハルトに」と言った。
マスターがカクテルを作っている間、沈黙がBARを包む。
言いづらい事……なのだろうか?
「――で、話ってなんですか?」
「……実はオリヴィア嬢を、我々は大分前から勧誘していてね。……彼女は人を引き付ける魅力がある。彼女が前線で戦ってくれたら『後へ続くもの』も、もう一段階上を目指せる。そう思って居たんだが……フラれちまった」
初めて聞く話だった。
『後へ続くもの』はこの街随一のパーティだし、オリヴィアからしたらチャンスだよな。
何故、断ったんだろう?
「未練たらしく何度誘ってみても、彼女は『目標がある』と言って首を縦には振ってくれなかった。……悔しかったぜ?彼女が断った理由は何だと思う?」
「……さあ、オレにも分かりません」
「彼女の目標はな、ハルト。お前の所のパーティ『死を呼ぶ黒い行進』に入る事だったのさ」
「――え?」
頭が真っ白になる。
オリヴィアの目標が、オレのチームに入る事?
「お前さんが、パーティへの加入条件を『BランクのWANTEDモンスターを一人で討伐出来る者』に定めた時の彼女の顔は、見て居られなかったぜ?」
そう言えばオレ、そんな事決めたっけな。
加入条件と言うより、加入させない為の条件だ。
確かに、本気でオレたちのチームへ入りたいヤツには、その条件は「死の宣告」と同じだよな。
まさか、オリヴィアがクーに対してあそこまで敵意をむき出しにしたのは、そのせいか?
ジョニーさんが言った事が、全部本当だったと仮定して考えてみる。
クーは実力も無いのにオレのチームへ入り、加入制限を設けて他の人間がチームに入って来ない様にした。
悪の種族がオレに取り入っていた。……そう捕えられても、おかしくないだろう。
オリヴィアの眼から見るクーは、相当嫌なヤツだったのかもな。
でも、何でオリヴィアはオレなんかに?
「お前さんは、強き者であるという自覚が足りないようだな。……ハルト、我々からするとお前さんはもの凄く眩しいんだぜ?その魅力に引きつけられた者は、その身を業火に焼かれようともお前さんに近づこうとするだろう。それが、彼女だ」
ジョニーさんの話を聞いて、自分がシャムロック氏に感じていた事を思い出した。
――なんだよ。
気付かないうちに、オレもシャムロック氏と同じことをしていたのか?
そのくせ、調子の良い事ばかり言って、結局は他人を当てになんかしない。
オレは、オリヴィアを弱者として、差別していたのか?
あの時、シャムロック氏がオレに言った言葉。
オレが隠していたもの。
それは、自分への特別意識か?
優越感に浸って他人をバカにしてたんだな。
不意にシャムロック氏がオレの中で笑った気がした。
「やっと気づいたな」とでも言いたげな笑い方だ。
《お前が仲間を守ろうとする事は悪い事ではないよ。……後は加減と、相手の感じ方の問題だ。……お前は、一人で生きている訳では無いのだからな》
オレが心の中で自問自答していると感じたんだろう。
ジョニーさんは笑って「若手に嫉妬して嫌味を言ってみたくなったのさ」と言ってくれた。
そして、BARのマスターから渡されたグラスを一気にあおる。
「今日、本当はお前さんに礼を言うつもりだったんだ。……先ほどの話は、忘れてくれ」
そうして、ジョニーさんは明るい口調で、昔話を語り出した。
それは、この街ではよくある話だ。
若い二人の冒険者が、酒場の歌姫に恋をして、一人がその女をモノにして死んだ。
残った男は、臆病でその歌姫を只々見て居る事しか出来ないでいた。
……そんな話。
どうも口振りからして、ジョニーさん、おっさん、ブルースさんは三人でライバル関係だったらしい。
常にランクを競い合っていたそうだ。
才能があり、一匹オオカミのおっさん。
人を引き付ける天性の魅力を持ったブルースさん。
何もないジョニーさん。
当時のジョニーさんは、二人に追いつくため必死だったらしい。
「二人は、いつもの他愛の無い口喧嘩から、ある約束をした。それは『先にAランクになった者が、歌姫に告白出来る』――初めブルースの奴は、中々自分のパーティへ入らないランドルへの当てこすり、冗談半分だったんだぜ?……だが、次第に本気になって行った。まあ、イイ女だったしな。元々俺の見立てじゃあ、歌姫はランドルに気が有ったと思ったんだが」
その話を聞いて、オレも酒を煽った。
飲んだ酒は、この店自慢のカクテル『狼の尻尾』。
毎晩のように、三人で飲んだ酒だそうだ。
味は、リキュールや焼酎、ブランデー、……色んな酒を適当に混ぜただけの不味い酒だ。
こんなもん、お酒さんに失礼だと言ってやりたい。
「――結局、ブルースは死に、ランドルは引退した。……俺はな、こんな勝ち方望んじゃ居なかったぜ」
そう言って、ジョニーさんは昔話を締めくくった。
……まったく、おっさんから事情を聞かないでいて良かったよ。
ああ、不味い酒のせいで色んな所がムカムカするぜ!
「思っていたより、くだらない話ですね」
「ああ、下らないだろ?俺もこの『下らない事』が片付いて清々しているんだ。何処かの『善意の人』が、お節介を焼いたと聞いたぜ。当時の話を知ってる奴は、下らなさ過ぎて、誰もお節介など焼かないから、おかしいと思ったんだ。本当に感謝する。……もう一杯、飲むだろ?」
注文しようとするジョニーさんを、オレは慌てて止める。
「いや、止めておきますよ。オレは、そんなに酒に強くないんです。お冷を一杯頂けますか?……オレも、片付けなくちゃいけない用事が出来てしまいましてね」
「そうかい?実はその酒は、我々三人の『罰ゲーム』用のカクテルだったんだ。次は美味い酒を飲もう。――次も、奢らせろよ?」
そう言って、悪戯っ子みたいな笑みを浮かべるジョニーさん。
この人、なんて茶目っ気タップリなんだ!
それじゃ、許すしかないじゃないか!
「どうりで不味い酒だと思ったんですよ。……次は、オレがそのカクテルを奢ります。何かゲームでもしませんか?」
「そうだな。……冒険者らしく、先に迷宮遺跡を見つけるのを賭けとしないか?」
ふっ、そう来たか。
これはよっぽどの自信の表れか、見つかりっこ無いと諦めているかどちらかだな。
「分かりました。――では、オレはランドルのおっさんが迷宮を見つける方に賭けましょう。ジョニーさん、まだ勝負は続いているんですよ?」
キョトンとした顔をするジョニーさんを尻目に、オレはお冷を一気に飲み干して店を出た。
悪いが、この勝負はオレの勝ちですよ、ジョニーさん?
また、『タレ目の悪魔』っていう、不本意な呼び名が広まりそうだな。




