第四章 20.三つ指の竜人①
ジュリアンとタコガエル、ジ○イアンとブ○ゴリラ。
ネムえもんが、殺助ってか?
「……哲学を感じるな」
「ハルト、へんなこと考えてるでしょ?みんながあぶないんだ。早くランドルさんたちの馬車にむかおうよ!……相手はかなりつよいよ。……竜人だ!」
せっかく、オレが普段感じない哲学に興じていると言うのに、事態は一刻を争うようだ。
タイミングが良すぎるな。
いや、悪すぎるのか?
理想郷と竜人。
どうつながっているか知らないが……多分、こいつらが本命だな。
何の目的か知らないが、善なる種族さまが、まどろっこしい真似をしてくれたもんだぜ!
あの後、邪神タコガエルを倒したオレたちは、近くの植物を引っこ抜きながらMPを回復させ、タコガエル分身である『食材・謎の軟体生物』をどうするか話し合っていたんだ。
ネムの話しによると、本体である邪神タコガエルを倒しても触腕は生き続けるようだ。
『何でも分かる帽子』で認識したから分かった事なんだが、元々触碗は、食べた人間たちに根を張り、自分の分身として操る目的で食べさせていたんだとか。
かなり危ないヤツだったんだな。
速攻で倒して良かったぜ!
もうすでに、完全に知性の無いただの軟体生物に成り下がってしまったようで、調理法を間違えなければ安全安心に頂けるとの事だった。
まあ、結論としてそのままほっとこうという事になった。
水をあげるだけで育つ貴重な食材。
高タンパク質で、うま味成分であるアミノ酸値も高い。
これからもベルーガ領の貴重なタンパク源として、皆に珍重されるであろう。
自らの分身を人々に食べさせる。
これぞ究極の自己犠牲、神の御業にふさわしいな。
最後の最後に、邪神タコガエルは素晴らしい神さまになったと言う事だ。
ジュリアンくんとタコガエルも、草葉の陰で喜んでくれるだろう。
……まあ、オレは食べないんだけどな!
とまあ、オレがそんな哀愁を感じていると、ネムが急に声を荒げたのだ。
オレはネムを抱え、大急ぎでおっさんの馬車まで駆け出した。
一時間ほど走り、森をショートカットしながらおっさんの馬車までたどり着く。
オレたちは木の影に隠れ、そっと状況を確認した。
血まみれで倒れている、おっさんとレイくん(ネムによれば生きてはいるらしい)。
みんなを守る様にして、竜人に剣を向けるミィーカ。
只々パニックで、子供の様に泣き叫び震えるオリヴィア。
近くにはひしゃげた『月影とネロ』特製メイスが転がっていた。
まあ、オリヴィアからしてみると、やっと助かったと思ったら、訳の分からない状況で善なる種族さまの代表格、竜人が襲いかかって来たってことだな。
パニックになるのも分かる気はする。
そこには、覚悟なんて関係ないもんな。
自分が信じていた、絶対的な善に裏切られたようなもんか?
竜人は全員で5人。
全て男だ。
ネムの話しでは、竜人という種族は、全て男しか存在しないらしい。
それって種族なのかね?
そして、みんな気持ち悪いくらい整った顔立ちをしている。
最大の特徴は、全員手と足の指が鱗に覆われた三本指である事。
足が三本指だと分かるのは、靴を履いていないからだな。
きっと、靴を履かないのは、自分たちの種族を誇示しての事なんだろう。
だが、靴を履いていない割にその身なりは豪華なもので、兜は被ってはいないが金色の華美な鎧と全員色違いのスカーフみたいな物を首に巻いていた。
まさにその姿は正義のヒーロー。
丁度五人だし、戦隊ヒーローみたいだな。
泣き叫ぶオリヴィアにイラついたのか、竜人の一人が腹へ向けて容赦なく蹴りを放つ。
それに対して抗議するような仕草を見せるミィーカだったが、他の竜人は優しい笑顔で何かを囁いているようだった。
嫌悪感丸出しで睨み付けるミィーカだが、ヘラヘラと笑いながら竜人はまた何かを囁いていた。
事前にネムに調べてもらった情報によると、こいつらのレベルは平均して10程度。
だが、筋力、体力、敏捷の数値が70を超えており、物理防御も魔法防御も人間のレベルをはるかに超えているそうだ。
そして極めつけは、『竜体化』と『竜眼』という能力。
『竜体化』は変身能力で、『竜眼』は相手の強さが分かるという『何でも分かる帽子』の劣化版的能力だ。
今でも十分強いが、こいつらは変身ヒーローよろしく、さらに強い形態へと変身出来るという事だな。
オレの基礎能力は、未だ平均50程度。
……今のオレより明らかに格上だが、やるしかないのか?
奇襲で全員一遍に片付けるのは、みんなを巻き込む可能性がある。
一人だけ殺したら、他のヤツらが激昂してみんなを殺しかねない。
さらにネムによると、生半可な魔法攻撃は効かないだろうとの事だった。
確かにひしゃげたメイスを見る限り、やつらの防御力はかなりのものだろう。
魔法で全員いっぺんに狙撃、という訳にも行かないな。
オレはネムと相談して、まずはみんなの命を最優先とし、竜人たちと『交渉』する事となった。
状況的に見て、「何かの勘違いでやっている」なんて事はあり得ないのだが、ある程度情報を引き出しておいて損は無いだろう。
「おいおい、善なる種族さまが弱い者イジメかい?……何があったか知らないが、そいつらを許してやってくれないかね?――おっさん、レイくん、お姫さまは守れなかったのかい?」
「うううっ。……ハルトの兄貴、スマネェ」
「くっ、ずいぶん……遅かったでは無いか」
よしよし、二人ともまだ話せる余裕は有りそうだな。
オレは、竜人たちに向き直る。
「ほう、ずいぶんと早いですね。『死を呼ぶ黒い行進』のハルト。そして『叡智の黒猫』ネム。……不気味ですね。やはり我々の『竜眼』でもあなた方の力が計れない。……あの異神とあわよくば相討ちに、と考えていたのですが。……やはり貴方は、人間をはるかに超えてしまっているようだ」
ふむ。……『竜眼』でも、オレたちの能力が分からないと。
どこまでの精度のものか分からないが、存外たいした事ないんだな。
「やはりお前らが、『本命』か」
オレの発言に、綺麗なお顔でニヤリと笑って答える竜人一同。
「ハルト、逃げろ!こいつらの狙いはお前なんだ!」
「お嬢さん、少しうるさいですよ?貴女はその美しい顔に相応しく、静かにしていてもらいたいものですね」
ミィーカの発言にいら立ったのか、リーダー格の赤竜人(赤はスカーフの色だな)は、三本の指をミィーカの顔に押し当て黙らせる。
……早いな。剣を構えているミィーカがまったく反応出来ていない。
いつでも殺せるのに殺さない。
人質と言う事か?
「まず言っておくが、人質に手出しをしたら、必ずお前たちをぶち殺してやるからな。……人質とはそれだけリスクがあるんだと分かってやっているんだろうな?」
先手必勝だ。
こう言っておけば、ドラマでお馴染みの「武器を捨てろ!さもないとうんぬんかんぬん」というお決まりのセリフを聞かないで済むってもんだ。
「フフフ、そちらの五月蝿い奴隷の糞女と塵共は人質ですが、こちらの美しい御嬢さんは、人質ではありません。なにせ、私の子を産んでもらうと決まっているんですから」
……ずいぶん状況を知っているな。
理想郷に聖光派の光魔道師が協力してしたが、案外こいつらの差し金で動いていたのかもしれない。
オレがそんな事を考えていると、竜人はニタニタと笑いながら、ミィーカの太ももに指を這わせるようにそっと手を置いて行く。
「これが終わったら、貴女を立派なレディに仕立ててあげましょう」
「……やめろ!放せよ!……ふざけんな!」
リリィよ、人間よりこいつらの方が性欲強いんでない?
竜人は、他種族に子供を産ませて個体数を維持していると言う事か。
善の種族として、色んな種族の女の子からモテモテって訳だ。
明らかに相手の意思なんか関係ないと見える。
妙に顔が整っているのは、こいつらの選り好みの成果って訳か?
チ○コが無いオレからすると、最高に不愉快な光景だな。
……まずは、ミィーカを助けるか。
状況から察するに、オリヴィアは一度奴隷に堕ちたから興味が無いと。
で、ミィーカは顔も美しいし、シスターだから「俺の嫁」発言をしていると……。
こいつら、ひょっとして?
「いい女だろ?オレの女はさ?……身体にオレの味を覚え込ませてやってるから、お前のテクニックじゃ満足できるか分からんがなぁ?……そっちの転がってる女も、その女もオレの女でな。オレさまと比べられる勇気があるなら、ちょっとくらい貸してやってもいいぜ?」
オレの発言に、嫌悪感丸出しで赤竜人はミィーカから手を放す。
「どうせお前らは、処女信奉のフニャチン野郎共なんだろ?そんで自分がテクニック最高のイケメンだと思い込んでる訳だ。……その点、オレは全ての女をイカせ続けてきた種馬プレイボーイだ。男は顔じゃねぇ、下半身なんだ。お前らとは勝負になんねーんだよ、バーカ!――分かったら、オレの女から手を放しな!」
オレ史上、最高のゲススマイル(人生二度目)を披露する。
ちなみに全部ウソな。
オレ、普段はうるさいが、ベットの上では最高に大人しくなってしまう人間なのだよ?
そのオレの顔を見て、ミィーカの顔がポッと赤くなる。
……ああ、今オレ、最高に下品な事言ってるもんな。
演技とは言え罪悪感でいっぱいだ。
うん、後でオレを、思いっきり殴ってくれてもいいんだよ?
「やはり貴方は、薄汚い蛮族の様ですね。……蛮族から超人が沸くなど世も末よ。……一歩でも動いてみなさい。この人質共がどうなるか分かりませんよ?」
赤竜人、切り替え早っ!
『超人』とか、訳の分からんキーワードが出て来た気がする。
これでミィーカの身の貞操の危機は免れたし、いっちょ質問して、さらに情報を引き出してみるか?
「つまり、ハイパー超人であるオレを殺す為に、今回仕組まれたと言う事だな?」
「そうですよ。『永く生きた血色の下級竜』を操り、貴方を襲わせるも失敗。異世界の神を降臨させ戦わせるも、貴方は無傷。……さすが、剣士シャムロックを倒しただけの事は有る」
ああ、あの哀れな下位竜は、こいつらに操られていたのね。
つまり、善の種族として目立つわけにいかないから、なるべくこっそりオレを殺そうとしたけど失敗した……と。
「……なぜ、そんな事をするんだ?」
「人間とは弱きもの。その心はすぐに悪に染まる。我々竜人族は、太古よりそのような弱き人間を管理し、導いて来たのです!」
ハレルヤ!とでも言いたそうに赤竜人は話す。
周りの竜人は、黙ったままその演説に聞き入っているようだ。
余裕綽々で色んな情報をくれるのは、オレを殺せると思っているからか?
「それとオレを殺すのと、何の関係があるんだ?」
「我々は『超人狩り』。……人類の数の管理を行い、何年か一度に沸く、人間を超える力、魔力、先導力を持つ者を狩っているのですよ」
人類の数の管理ね。
下位竜を襲わせたのも、邪神を降臨させたのも、こいつらからすると数の管理の一環だった訳だ。
……偉そうに話す姿はムカつくが、大分状況が分かって来た。
つまりオレは、目立ち過ぎたと言う事だな。
厄介な相手に目をつけられてしまったもんだ。
正義感は人それぞれ、難しい事はよく分からないが、こいつらは善なる種族として使命感をもってやっている訳だ。
空き缶拾いのボランティアに使命感を燃やしてくれればいいのにな。
正直、ありがた迷惑としか思えないよ。
さて、そろそろこの状況を打破しないとな。
オレをぶっ殺しに来ているんだし、お話しした後帰ってもらうってのはやっぱり無理だな。
戦う前に、人質のみんなを何とかしないといけない。
人質?
なんでこいつら人質なんて取っているんだ?
数の管理の為とはいえ、下位竜を操ったり、タコガエルをジュリアンくんに呼び出させたりと、遠回りなやり方も引っかかる。
オレたちが狩りに出た時を狙えば、人気の無い森の中で、こっそり殺せるはずだもんな。
まさかこいつら。
オレにビビッてるのか?
どれだけ強いか分からないから、警戒しているのかもしれないな。
オレは、赤竜人に一歩歩みを進める。
「それ以上近づくな!お前の仲間がどうなっても良いのか!」
ああ、やっぱりだ。
こいつらの化けの皮がはがれて行く。
「さっき言っただろ?『手を出したらお前らをぶち殺す』ってさ。お前らも人質のリスクを分かってやっているはずだ。人質を殺してしまったら、もう人質の意味は無いってね。……それにオレは、そいつらが死んでも別に何とも思わないんだよ。オレもこいつらも、ぶっ殺される覚悟して砦くんだりまでやって来たんだ。――分かったら、早く殺れよ?それを戦闘開始の合図としようじゃないか」
オレたちと竜人たちは、人質が居てやっと対等って事だな。
それなら、こちらが人質を理由に脅迫してやればいい。
人生三度目にして、過去を超える最高ゲス顔スマイルで、オレはみんなを見送る。
「――じゃあな。お前ら」




