第四章 19.邪神降臨
「おい、ジュリアン早くしろよ!……ああ、待ち遠しいな、ネム!」
「うんっ、ひさしぶりだよねっ!元気だったかな?邪神さん」
「貴様らぁ!余裕ぶるのもぉ今の内だ!!」
せっかくオレたちが待ってやっているのに、怒鳴り散らすジュリアンくん。
オレは、今からズボンの下に手を入れたい気分だぜ!
下品かもしれないが、こちとら身体が17歳だ。
オレが17歳の頃は、一日10回は余裕でイケたと思う。
もう爆発しそうなんだ!
ジュリアンくんは、イライラ顔で何やら呪文を唱え出した。
地面の魔方陣のようなものが赤黒く光を放つ。
そして先ほどから感じる重たい気配が、より一層悍ましい物となってオレたちを襲う。
あんれ?
邪神くんってこんな気配だったかな?
どちらかと言えば、あの姿に似合わない神聖な雰囲気のやつだったんだがな。
そんな事を考えながらジュリアンくんを見ていると、ジュリアンくんは急に苦しみだし、彼のお腹がボコッっと膨らんだ。
そして、膨らんだお腹が段々と生物の顔をかたどって行く……。
イボガエルとタコを混ぜたような醜悪な顔だ。
だがその眼は新しい世界への好奇心からか、あくまで知性的に爛々と輝いていた。
「ハルト……このヒトって……」
「ああ、ネム。これは――」
その姿に、オレは思わず声を荒げ叫ぶ。
「チェンジ!」
これは、今までどんな夜のお姉さんにも言った事の無い、禁断の言葉だ。
言葉に力を持たせる為には、使ってはいけない言葉も覚える必要があるんだぜ?
時間がもった……せっかく来てくれたお姉さんに失礼だしね。
ここまで期待させといて、邪神違いなんて、そりゃねーぜ!!
「クハハッハハ!ついにやったぞ!俺は、異世界の神をこの身に宿した最初の人間となったのだ!」
完全にイッちゃった顔で、ジュリアンくんはオレたちにそう宣言する。
もうお前人間辞めちゃってるだろ?
なんて言っても、もう彼には届かないだろう。
それにしても……どうもこいつ、笑い方が安定せんな。
それだけ嬉しいのだろうか?
「さあ、行くぞ。世界を平和に導く前に、お前たちを血祭りに上げてやる。……異世界の神よ!共にこの愚かな者共に神の裁きを与えましょうぞ!!」
ジュリアンくんの発言に、邪神タコガエルは口元を下品に吊り上げると、彼の顔面目がけ触腕を伸ばす。
「なっ?相手が違いますぞ?……ひぃぃいいい……おたすけ……フヒャ……ギヒャヒャヒャヒャ」
先の尖がった触腕を使い、ストローでジュースを飲む様に、ジュリアンくんの耳から脳みそをチューチュー吸っている……らしい。
悪党の末路とはいえ哀れなものだ。
こいつは、どんな理想をもって、この世界を変えようとしていたんだろう。
今となっては、少しだけ聞いてみたい気がした。
「フム。……キサマラガ待ッテイタオカゲデ、コノ世界デ肉体ヲ得ル事ガ出来タ。……我ノ申シテイル事ガ分カルルカ?」
「……半分くらい分からんが、通じてるよ」
「ソウカ、言語能力ハ未ダ不十分デアルルカ。……コノ世界ヲ統治スルニ辺リ、モウ少シ学バネバナララン様ダ」
嬉しそうな顔で、オレたちに告げるタコガエル。
学ぶって……脳みそチューチュー吸うのがこいつにとって勉強って訳か?
まぁ、オレたちのソウルイートも、ある意味こいつとやってる事は変わらないか。
その後も、タコガエルは「自分の世界では実現できなかった平等なる世界の構築」だの「真なる安らぎの世界」だの耳心地の良いワードを嬉しそうに語る。
どうもこいつの話しによると、こいつの居た世界は『元始の海を枯らすモノ』の影響で滅んでしまったらしい。
この理想世界にやって来たからには、今度こそはと意気込んでいるようだ。
迷える民を統治するのがこの神さまの欲求であり、活力源なんだろうが……まるでゲーム感覚だな。
この世界の神『光と闇のハーフェル』は、『元始の海を枯らすモノ』と戦い消滅したようだが、こいつは自分たちの世界が滅んでいく間、いったい何をしていたんだろう?
自分だけ生き残ろうとするのは悪い事じゃ無いが、それじゃただの『普通の生き物』と変わらない気がするんだが。
平等なる世界を目指すんだったら、統治していた世界の住人と一緒に滅びるのが真の平等じゃないのかね?
どうもこいつの言ってる事は、一見すると耳心地良いが、その実矛盾だらけなんだよな。
こいつの口振りでは、自分たちの世界が滅んだ神々が、続々とこの『神の居ない理想世界』を目指しているそうだ。
半分出来上がった箱庭で、神様ごっこをしたい連中が沢山いるってこったな。
つくづく、この世界を守った『光と闇のハーフェル』ってのは、報われないヤツだよな。
「――デハ、貴様モ我二賛同シ、ソノ身ニ宿ルル知識ヲ我ニ差シ出スノダ」
結局散々言い訳して、オレたちの事も生贄程度にしか思ってない訳ね。
こいつの統治していた世界ってのは地獄だったんだろうな。
オレは、ネムに目で合図を送り、久しぶりに『何でも切れる剣』を呼び出す。
「ホウ……貴様、我トヤリアウ気カ?身ノ程知ラズ、ト言イタイ所ダガ、我ニ逆ラウウ勇気ニ免ジ、一太刀ダケ時機ヲ与エヨウ。……ソシテ、己ガ無力サヲ噛ミシメ、我ノ知識トナルル喜ビニ、打チ震エルルノダ」
つまり翻訳すると「俺様最強だから、お前ごとき舐めプで倒してやんよ。一発だけチャンスをやろう」って事だな?
……オレ、舐めプされんの大嫌いなんだよな。
悪いが今、オレってばとっても不機嫌なんだ。
魔物の一件から始まり、囚人奴隷たち、せっかく邪神くんに会えると思ったら、不細工な宗教野郎が出てくるし、やっとヌケると思ってソワソワしてたらグロテスクなもん見させられるしよ?
オレの怒りのボルテージは、マックス超えてスタンピート状態だ。
巨乳だと思って写真指名したのに、出て来たのは横綱級だった……って時より、イライラしてんだよね!
「さっきから黙って聞いてれば、訳の分かんねー事ダラダラ垂れ流しやがって!こっちはもう限界なんだよ!お前の言ってる事はマジでフ○ックだ!アイムノットOKだぜ!?」
オレは、邪神タコガエルに全速力で近づきならネムに念話を送る。
《ネム、オレがこいつを切り刻んで距離を取ったら、『風防結界』を構築し『火葬のゆらめき』を使ってくれ!そして酸素でも水素でもありったけの燃料をぶち込んであいつを熱で滅菌してやれっ!》
《わかった!》
オレは『何でも切れる剣』で触腕ごと、ジュリアンくんの身体を一刀両断する。
……ん?
おかしいぞ?
『何でも切れる剣』のはずなのに、斬る時に重さを感じる。
それだけこいつが強いって事か?
だが、切れてる事には変わりないよな!
「……マサカ、ソノ剣ハ……ソンナ、オ前モ、異シ――」
「――うるせぇ、タコガエル。綺麗に整形してやんよ!」
邪神タコガエルがオレに何か話しかけてくるが、そんなの相手する気はない。
こちとら、舐めプされるのも、するのも大嫌いなんだよね!
「オラ、オラ、オラ、オラ!……一発でも舐めプして攻撃喰らえば、後は即死コンボが待ってんだよ、バーカ!!」
オレは、みじん切りの要領で邪神タコガエルを滅多切りにして行く。
そして、バックステップで距離を開けた。
タコガエルのみじん切りが終わり、距離を開けた瞬間、タコガエルを中心として『風防結界』が構築される!
「――ハァハァ、ネム、今だ!」
「おっけー!……いっくよ!……火葬のゆらめき!」
刹那、まばゆい白光が地下室を包みこむ。
「ネム、しばらくこの魔法持続させられそうか?何ならオレのMPを吸い取って使ってくれ」
「うん。お外でつかったときより『きぼ』が小さいし、しばらくは持ちそうだよ。……でもねんのため、少しかりるね?」
そう言って、ネムたんはオレのMPをごっそり持って行く。
ネムたん、その容赦のない所……ステキです!
ああ、この力が抜ける感覚。
……不意に賢者タイムが訪れる。
くせになるかもしれニャイ。
……ああ、ちょっとだけオレの暗黒の力が収まって行くのを感じるよ。
「……ハルト、お顔がひどいことになってるよ?」
「ああ、すまん。気持ち良かったもんで、ついな」
途中何度か『風操作』で燃料を投入し、20分ほど邪神タコガエルの様子を見つめていた。
「……いいかネム、こういう時油断するなよ。長年のオレの経験から言えば、こういうヤツは二段変形、三段変形が存在するのが当たり前なんだからな。特にこういうグロテスクな奴は、最終形態がショタになると相場が決まっていてな。もの凄く強くなるんだぞ!」
ちなみに長年の経験ってのは、オレの映画や漫画の知識の事だな。
こういうグロテスクな触手系は、変身すると美しい天使かショタになるって法則が有る(もちろん、異論は認める)と思うんだ。
「わかった!ゆだんしないっ」
力の強い存在や神様は、『何でも分かる帽子』でも検知できないからな。
油断大敵なのだ。
「よしよし、後5分位したらオレが『……殺ったか?』ってつぶやくから、それまで休憩していてくれ」
「うん!……ハルトがつぶやくと、どうなっちゃうの?」
「タコガエルが笑いながら立ち上がるってのがセオリーだな。……きっと第二形態は、イケメンマッチョのはずだ」
「そうなんだ。てんぷれ?……だねっ!」
フフフッ、ネムも大分わかってきたようだな。
そして、5分後……。
「――殺ったか?」
オレの発言に……邪神タコガエルは沈黙を守ったままだ。
これは、帰ろうとしたら後ろから襲ってくるパターンだったか?
「……おかしいな。ネム、『火葬のゆらめき』を停止してみてくれ」
「わかった。……どうかな?」
ネムとオレは、邪神タコガエルの居た辺りを覗いてみる。
そこは地面が、高温によりマグマの様に赤熱しているだけで、タコガエルの影も形も無かった。
「――まさか天井に!?」
とか言いながら天井を確認するも、タコガエルの姿は無い。
不安だ。……オレのチキンハートが疼くぜ!
オレは後ろを確認した後、祭壇やら照明器具やら、隠れられそうな障害物を破壊して行く。
「……ハルト、言いにくいんだけど……あの邪神さん、消めつしちゃったみたいだよ」
「なんと!……それは本当か?死んだフリして出てくるパターンじゃないのか?」
「うん、『何でも分かる帽子』でちゃんとかくにんできちゃった。ハルトがみじん切りしたじてんで死んでたみたいだよ」
あいつ、この程度の実力で舐めプしていたというのか?
それとも、オレの『何でも切れる剣』が反則すぎたのだろうか?
思えば、この世界の住人にタンパク源にされてたくらいだもんな。
もう少し話くらい聞いてやれば良かったか?
……かわいそうなヤツだったのかもしれない。




