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第四章 18.ジュリアンくん

「そんな……まさか。あなたが……矢を忘れるなんて……!」


 そう、ジョニーさんの『ギターラ・クロス』には、弩用の矢『角矢』が付けられてはいなかったのだ!


 忘れん坊さん、なのかな?


「よく分かったな!さすがと言っておこう。いやぁ、急いで来たら忘れてしまったぜ。……悪いが何か武器を貸してくれ!」


 そう言って、ジョニーさんは子供の様に笑った。


 この人は……こんなにカッコいいのに、なんてお茶目さんなんだ!?

 それじゃあ、世界中の女がメロメロだぜ!?


 一瞬驚いたが、ジョニーさんが敵の訳が無いんだよな。

 だって、ネムの作った理想郷の名簿には、ジョニーさんの名前なんて無かったんだもの。


「フンッ、相変わらずだな、ジョニー。……これを使え。お前の出番はもう無いだろうがな」


 おっさんが腰に下げた山刀を、ジョニーさんに投げ渡す。

 それをステップを踏んだ後、華麗に受け取るジョニーさん。


「まあ、それを言うな。俺もオリヴィア嬢が心配だったのさ。……お前たちがここに来たと言う事は、もう助け出されたと言う事か。――やれやれ、俺とした事が、出遅れた様だぜ」

「フッ、手が早いのがお前の取り柄のはずだがな。お前も老いたと言う事か?」

「……全くだ。――俺もお前も……な?」


 何だかこの二人の『ザ・意味のない会話』が妙にカッコいいぞ!

 普段のおっさんらしからぬ大物オーラを感じる。


 ジョニーさんの会話から推測するに、オリヴィアとジョニーさんは顔見知りだったと言う事か。

 まあ、オリヴィアは貴族だし顔が広いんだろうな。


 これは、オリヴィアをオレたちが先に発見して良かったと見ていいだろう。

 あの姿は、ジョニーさんには見せられないからな。

 

 

 

 その後、ジョニーさんと共にボスの部屋を捜索すると隠し通路を発見した。


 ……ありがち、だな。


 オレたちは隠し通路を通ってボスを追う。

 地上に出てみると、ボスらしき男はジョニーさんの仲間『後を追うもの(アルデバラン)』メンバーによって捕えられていた。……ジョニーさん、あなたはいったい何しに来たというのか?


 ちなみに、ボスはオレの見たことの無い男だったよ。


 そんなこんなで煮え切らないまま、オレたちはオリヴィアを介抱していたミィーカと合流した。

 オリヴィアは衰弱が激しく、時折パニックに陥るらしい。

 こんな姿を取り巻きたちに見せたくないだろうとの配慮から、オレたちの馬車に乗せていく事となった。


 もちろん、オレの意見は一切入っていない。


 ミィーカが付きっきりで世話を焼いているようだ。


 オレが居ると余計に気を使わせる可能性があったので、オレとネムは別の馬車に乗り込もうかと考えていたのだが、ミィーカには「一緒に居て欲しい」と言われてしまった。


 まあ、用心棒にはなるからな。

 

 捕虜を含め、生き残った残党は、縄で縛られ猿ぐつわをされて広間に集められたようだ。

 

 その中で特にひどい扱いを受けていた者たちが、僧侶の服を着たヤツらだった。

 殴られたのか顔は紫色ではれ上がり、何かを――もはや何を言っているか分からない――叫んでは兵士にまた殴られる者もいた。


 ミィーカがぽつりと「胸元が破れてるだろ。あの位置には刺繍があったんだ。あれは『聖光派』の光魔法使いの方々だよ」と教えてくれた。

 

 状況から考えると、こいつらが光魔法『死者目覚めの洗礼』を悪事に使ったから、『聖光派』の刺繍を取り上げられたという事だろう。


 光魔法使いになってエリートコースまっしぐらのはずなのに、分の悪い賭けをしたものである。

 

 嫌なものを見てしまった。

 いや、違うな。この事態はオレが引き起こしてしまったんだ。


 これは戦争だ。

 体制と反体制の戦争。


 その引き金を引いたのがオレだ。


 きっとこの中には、訳も分からないまま分の悪い方(理想郷)に命を懸けさせられた者もいるだろう。

 家族がいた者もいるだろう。

 大悪党も居たかもしれないが、大半は小悪党で運の悪いヤツらだ。


 嬉しそうに僧侶を蹴り飛ばす冒険者。


 あの姿は、さっきまでのオレだ。


 きっとこいつらのほとんどは、ここで処刑されるだろう。

 この世界に捕虜の安全を約束する法律なんて無いだろうし、そもそもこいつらは山賊崩れの犯罪者集団、そんなのを何十人も護送するだけで骨だ。


 だが、ここで処刑されるやつらはラッキーだと言っていい。

 街に連れて行かれるヤツらは、さらし者にされ、拷問の果てに殺される。


 前回、オレがギルド前で起こした事件の時もそうだったらしい。

 オレは見に行かなかったが、聞いた話によると、まるでお祭り騒ぎだったそうだ。


 人を処刑するのはこの国で数少ない娯楽。……別に文化を否定するつもりは無い。


 だが、オレはどうなんだ?

 人を殺して、人を救ったのか?

 こいつらの生き方とどう違うんだ?


 オレはチートでズルして、さらには運がよかっただけ。

 罪悪感がこみ上げてきた。

 



「……ハルト、すごい魔力をかんじるよ!」


 出発の準備も終え、いざ出発となった矢先の事だ。

 尻尾をピンと立てて、ネムがオレに告げて来た。


「妖怪か?……妖怪ア○テナなのか!?」


 オレは、ある事を考えていた。

 妖怪の事……では無い。


 理想郷の残党の事だ。

 あまりにも呆気なさ過ぎた。


 オレたちが来ることを予測し、ビーストテイマーと光魔法使いの罠まで仕掛けて来た割に、蓋を開ければ楽勝に近い。


 確かにジョニーさんたちの活躍もあっただろう。

 ネムの攻撃能力が規格外だったという事もある。


 だが、曲りなりにシャムロック氏を倒したと思われているオレに対して、あの程度の戦力で勝てると思っていたのか?

 さらに言えば、せっかく捕えたオリヴィアだって、使おうと思えばもっと有効的に使えたんじゃないだろうか?


 何かがおかしい気がした。

 

「もうっ!念のため『何でも分かる帽子』で索敵をしていたら、すごい魔力を感知したんだよ!……ボクね、何だかあっけなさすぎて、違和感をかんじていたんだ」


 せっかくの飛びっきりのジョークにも、ネムはヤレヤレと言った風で説明してくれた。


 ネムも同じことを考えていた訳ね。


「ネム、『何でも分かる帽子』のセーフティは構築できたのか?……あまり使いすぎると危険だぞ」

「だいじょうぶ。……力を使いすぎなければへいきだよ。ハルトはどう?さっきまでくらい顔してたから心配だったんだ」


 どうやら、見破られていたようだ。

 上手く誤魔化したと思ったんだがな。


 オレは「大丈夫だよ」と答えてネムの頭をなでる。


「分かった、ネムを信じるよ。……その強い魔力の発信源はわかるかい?」

「うんっ!……とりでの地下、……ジュリアンだよ。ジュリアンがいるっ!」


 ネムは、怒りを瞳に宿してオレに告げた。


 はて?

 ジュリアンさんなんて知り合い居たかしら?


「……ジュリアンねぇ。……ジュリアン。……オノレ、許スマジ!」


 ネムたんが怒っているんだから悪いヤツだよな?

 ここらでストレス発散と行きますか!


「みんな、そんな訳だから、一丁そのジュリアンって輩を懲らしめに行くよ。……みんなはオリヴィアの護送を最優先にしてくれ。……そうだな。昨日休んだ野営地で落ち合おう。通常通り休憩し、オレたちがやって来なかったら、そのまま出発してくれ」

「……大丈夫なのか?」


 ミィーカが、不安そうに尋ねてくる。


 今回は色々あったもんな。

 またしばらくしたら、勝気で優しいミィーカに戻ってくれるさ。


「ああ、もちろんだ。心配そうな顔すんなよ。――そうだ。塩漬け豚のスープを作って待っていてくれ。オレ、あのスープ好きなんだよね。それと、生姜はケチらず大目にしてくれよ?」

「うるさいやつだな。……うん、分かったよ!」


 よしよし、ちょっとだけ明るくなったかな。


「じゃあ、おっさん、レイくん。そんな訳だからお姫様二人をよろしくな。……何やら嫌な予感がするんだ。十分気を付けてくれ」

「……分かった。フッ、キザな言い方だ。ジョニーの奴に似て来たな」

「任せて下さいよ。俺たちゃ運び屋ですぜ?」

「頼んだよ。――ネム、行こうか?」

「おっけー!魔力も回復してきたし、あばれちゃうよ!」


 オレたちは、馬車から飛び降りて颯爽と砦に向かって走り出したのだった。




 砦に到着した。

 生き残った残党を使い、穴を掘っていた兵士の皆さんが居たので、まだ敵が残っている可能性がある事を伝え、強い魔力を感じたので念のため避難出来る体制は整えておいてもらうように伝えた。


 決め台詞「冒険者のカンだ。……お前らにも分かるだろう?」久々登場のこの台詞で、みんな納得してくれたよ。


 これで気兼ねなく戦えるってもんだ。


 今後そのジュリアンってのをほっといたら、またオレの知り合いに危害を加えかねない。

 そういう輩は、排除しないとな。


 オレは、ネムの案内で砦の地下へと歩を進める。

 地下への階段を降りるたび、重力が増えて自分の身体が重くなって行くようなプレッシャーを感じる。


 まるで、階段の下は異世界と通じているかのような、重たい気配だ。


 その気配は、今や壁や階段、天井からも感じる事が出来た。


 なるほどね。

 ネムがすごい魔力と言っている意味が分かる気がする。

 ここは魔物の腹の中ってか?


 オレ、こういうお化け屋敷的な雰囲気が大嫌いなんだよね。

 

 来なければ良かったと、少し後悔してしまったよ。


 実はネムの魔法で砦を木端微塵に……ってのも考えたんだが、これ以上目立つ行動は止めておこうと言う事になったんだよね。




 さて、ジュリアンくんが居ると言う、扉の前までたどり着いた。

 歴史を感じる重厚な扉だが、オレは強引に蹴破り中に入る。


 中は……思ったよりも明るい。


 大量のロウソクで照らし出される部屋の内部は、何か宗教的な儀式を行っているかのような厳かな雰囲気と、それに似合わない血なまぐさい臭いがする。


 そしてその中央に、ウゴウゴと蠢く塊が鎮座していた。


 アレが今回の黒幕、真のボス、ザ・ジュリアンくんかな?


 って言うか、見た限り人間じゃ無さそうなんだけど?


「いよう、また会ったな。本当にお前たちは、何度も何度も俺の邪魔をしてくれる。……だが、それもここまでだ。お前たちのおかげで大量の『魂の通貨』を集める事が出来た。お礼にお前たちをグチャグチャのボロ雑巾にしてやろう!ギヒッヒヒヒヒ!」


 ジュリアンくんは、自慢げにボスのテンプレ発言をした後、前歯の無い歯茎をむき出しにして、クレイジーな笑いを繰り返した。


 なんだか逆にホッとしてしまった。

 ホラーな雰囲気じゃなくて良かったよ。

 

 それにしても、前歯が無いのに滑舌いいな。

 きっと、いっぱい練習したに違いない。


 ……前歯が無い?


 ああ、思い出したぞ!

 ジュリアンくんって、Mr.Aの事だったのね!

 こいつ、クーをいじめた只の下っ端かと思っていたが、割と組織内の順位は上だったという事か。


 達磨にしてやってもこうしてしぶとく生きて、さらには脱走までしているなんて、すごい生命力だと言ってやりたい。


 この生命力を他で活かせば、かなり凄いヤツだとオレは思うんだがな。……っと、前も似たような事考えたな。


 オレは、ろうそくに照らし出されたジュリアンくんを良く観察してみる。

 ジュリアンくんは、手足の代わりに体中から大量の触腕を生やしてウゴウゴと蠢いているようだ。


 完全に人間辞めちゃってるな。


 うぇ、気持ち悪いヤツだ。

 この触腕って、ネムの好物のアレだよな?


「ネム、あれは食べ物じゃないから食べちゃダメだぞ」

「……ハルト、ボクをなんだと思ってるのさっ!食べるわけないよね?」


 ネムはプイッと首を横に曲げる。


 ああ、ネムたんがヘソを曲げてしまったよ!?


「ごめんよ、ネム!」

「ハルトは、ボクのこと『食いしん坊』だと思ってるみたいだけど、ボクは、みさかいがないわけじゃないんだ。ボクだって、あんなのはごめんなんだよっ!」

「ああ、ごめんよぉ!」

「……貴様らは、これが食べ物だと思っているかもしれんが、これは異世界よりこの地に侵略せんとする異神様の別身なのだ!」


 ネムに必死で謝るオレに、ジュリアンくは痺れを切らしたのか、ただ単に聞いてほしかっただけなのか、触腕の説明をしてくれた。


 衝撃事実!……なのか?


 異神ねぇ。

 イーブスの街の人たちは、侵略してきた異神さまを貴重なタンパク源として食べていたと……。


 衝撃の事実ではあるが、なんだか哀れな神様だな。


 ある意味珍重される姿は信仰に近いのか?

 まぁ、それだけこの世界の住人がたくましいのかもしれんがな。


「……で、その哀れな異神さまと合体したお前はどうしたいの?オレたちをぶっ殺すつもりなら早くかかってこいよ?」

「フヒヒヒヒッ!……ならば教えてやろう!この俺は異神様の憑代となり、この理想世界を統治し、理想郷を作り上げるのさ!ギャハハハハ!」

「……ああそう、それはようござんした」


 ああ、理想郷の真の目的ってそんなのだったのね。

 統治していた神様が死んじゃったから、異世界から他の神様を引っ張って来て、自分たちの都合のいい世界にしちまおうという考えか?


 ちょっと、他力本願過ぎるよね。


「聞いて驚けよ?……この異神様は只の異神では無い。その名も――」

「その名も?」

「邪神――」


 え?

 邪神だって!?


「#%●◆▽шπ……様なのだ!」


 その神様の名前を、丁寧な滑舌でオレに説明してくるジュリアンくん。


 だが、オレはそんな名前聞いて居られ無かった。

 何故なら、『邪神』と言う言葉に全てをかき消されてしまったからだ。


 これは――

 棚からボタモチがボタボタ振って湧いたようなもんだ!


 オレのソーセージの復活が近い。

 今までの暗い気持ちがウソのようだぜ!!


 オレとネムは、邪神くんの名前は知らない。

 と言うより、あの時はほかの事(主に自分たちが死んでいた事だな)に気を取られて、名前を聞くのを忘れていたのだ。


 邪神……そんなヤツが世の中にホイホイ居る訳ないもんな。


「ネム!」

「うんっ!」


 オレとネムは頷き合った。


 ヤバい、オレの顔のニヤケが止まらない。

 ニヤケすぎてほっぺがツリそうだ。


 オレのソーセージが復活したら、まずは……そうだな。


 グフフフフ、たまらないニャー!!


「――召喚した邪神様をこの身に宿し、貴様らを血祭りに上げてくれよう!笑っていられるのも今の内だ!」


 嬉しそうに告げるジュリアンくん。


「どうぞ!どうぞ、どうぞ!!」


 オレは、その提案を快く受け入れた!



4章はもうしばらく続きそうです。

長い目で見てやっていただければ幸いです。


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