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第四章 17.奴隷の檻

 投降してきた理想郷の残党の内一人が、オリヴィアの居場所を知って居たので案内して貰う事になった。


 捕虜によれば、「『売り物』身の貞操は安心していい」との事だった。


 『復讐』と書かれた手紙を送りつけてきた割には、売り物にするつもりだったらしい。


 オリヴィアは美人だし、理想郷は資金が欲しいだろう。

 オレへの嫌がらせと資金調達で、一挙両得……とでも考えていたのか?

 

「へへへ、どんな意思が強い女でも、心を折っちまう方法があるんですよ。……へへへッ」


 下品な笑いでオレたちを見る捕虜。


 ……何が嬉しいんだかな。


「てめぇ、許さねぇ!」

 

 ファルカタを握りしめ叫ぶミィーカを手で制すと、オレは捕虜に優しく忠告してあげる事にした。


「お前、自分が死なないと勘違いしていないか?……オレたちは戦闘狂の集団だぜ。少しでもカンにさわったら捕虜だって容赦なく殺す。分かったら、オレたちを怒らせないようにするんだな」


 ……こう言っておけば大人しくなるだろう。


 特にミィーカのヤツが、こいつの発言を聞いてから不機嫌だ。

 あまり心配させたくない。


「ふむ、ハルトよ。……足さえあれば此奴もついて来られるだろう。邪魔だから両腕を切り落とすとするか?」

「……おめぇ、目玉も一つ要らねぇよな?お前に見られるとイライラしてくんだよ。一つ潰せば、俺様のイラつきが半減出来て良いと思わねぇか?」


 捕虜は、血まみれで微笑むおっさんとレイくんを交互に見つめた後、すがるような目でオレを見る。


「……ハルト?まさか、『死を呼ぶ黒い行進』『タレ目の悪魔』のハルト様で!?ヒィイ!……お許しを!」


 今こいつ、オレの事『タレ目の悪魔』とか言いやがったな。

 なんでおっさんたちより、オレを見てビビるんだよ。


 ……ここは我慢だ。


 オレは、必死にムカつきを抑えながら捕虜に告げる。


「分かったら、とっとと案内するんだ」


 


 オレたちは、オリヴィアの取り巻き女が捕えられているという牢までやって来た。


 牢の中を確認したが、取り巻き女二人しか居ない。

 こいつらも貴族冒険者だったんだろうが、装備を取られ酷い有様だ。


 初めは驚いて怯える取り巻き女たちだったが、オレたちが助けに来たと知ると泣いて喜んだ。


 そこには冒険者としてのプライドも、貴族としての見栄も感じられない。

 当たり前の話なんだが、ただの女の子だった。


 しばらくすると落ち着いて来たようなので、おっさんがオリヴィアの居場所を聞く為口を開く。


「オリヴィアはここに居ないようだが、何処に居るか分かるか?」

「……オリヴィア様は、私達を助けようと最後まで抵抗なさって……そして、その後は……」


 それを聞いて、真っ青になるミィーカ。


「その後は……って何なんだよ!……お前らも仲間だろ!なんでオリヴィアにだけ無茶させてんだよ!?」

「……お前は黙ってろよ」

「でも、……でもよっ!」

「いいから黙っていろ」


 興奮するミィーカを黙らせる。


 気持ちは分からんでもないが、その怒りはお門違いだ。

 

 この状況で、自分を通せるヤツなんてそうは居ないだろう。

 ましてや、自分が何をされるか分からない恐怖の中だ。


 自分の安全を最優先させる……それは別に悪い事ではないとオレは思う。


「……オリヴィアは死んでないだろうな?」

「へっへい。……今からご案内致しやす」


 オレは嫌な予感を感じながら、オリヴィアの居る場所まで歩いた。




「――ミィーカ、おっさん、レイくん。……入ってくるな。」


 捕虜に案内された場所は薄暗い、広い部屋だった。

 そして汚く、騒がしい。

 ひどい臭いに、オレは思わず顔をしかめる。


 ここに比べたら、先ほどの牢屋が貴賓室に感じるな。


 倉庫のような広い場所に檻が何個も置かれている。

 その中央にオリヴィアの捕えれれている檻があり、それを囲むようにして囚人奴隷と思われる小汚い男たちの檻が並べられていた。


 確かにこれなら、オリヴィアの身の貞操は心配なさそうだ。

 だが……。


 檻の中では、オリヴィアがうずくまる様にして、中央で壺のような物を抱えて震えている。


 酷い状況だな。


 先に見つけてしまったからオレは入るが、この状況をみんなには見せられないだろう。


「……ひどいね」

「……そうだな。ネム、『風槌エア・ハンマー』で檻に入っている男たちを動けなくしてくれ。なるべく殺したくないが、反抗するようなら殺しても構わん」

「わかった」


 オレは、オリヴィアの檻に近づいて行く。


 途中、奴隷たちに汚いヤジを浴びせられるが、ネムの『風槌エア・ハンマー』一発で大人しくなって行く。


 オリヴィアの檻の前までたどり着いた。

 

 オリヴィアは舌を噛まないようにか、口には猿ぐつわをされており、鎧ははぎ取られ、辛うじて身体の一部を隠事が出来るサイズのボロボロの布を身体に巻いている。


 そして……ひどく汚されていた。


 さすがにこれは、オレでも同情する状況だな。


 オリヴィアは幸か不幸か、武器を取られ自ら命を絶つことも出来なかったのだろう。

 近くには何かのパフォーマンスなのか、オリヴィアの大盾が無残に破壊され、転がっていた。


 ここで何があったのか想像するだけで、捕虜もろとも囚人奴隷をブチ殺したくなる。


「……あ、あ」


 オレと目が合うと、オリヴィアの瞳孔が広がる。


 表情は分からなかったが、この姿を誰にも見せたくなかったんだろう。

 震えながら檻の中のなるべく闇の深い部分へ、自身を隠そうとした。

  

 そして、震えながら何かを告げてきた。

 猿ぐつわをされていても明確にその意図を感じ取る事が出来たが……無視した。


 その直後、動けるようになった囚人奴隷の一人が、汚い言葉を発しながら、檻を棒のようなもので激しく打ち鳴らす。


 オリヴィアが悲痛な叫び声を上げながら、顔を地面にこすり付け、身体を丸め、必死に何かから逃れようとする。


 普段のオリヴィアから想像もできない位にかすれた、獣のような叫び声だ。


 これ以上、周りが興奮するとまずい。

 オレは投げナイフを抜き放ち、檻の隙間から囚人奴隷の頭を串刺しにする。


 バタッと倒れる音で、一瞬だけ静まり返った。


「ひぃぃいい!……ひでぇ!なんてことしやがる!?……俺達は牢の中にいて手出しできねぇんだぜぇ!……それを……」


 その静寂を打ち破る様に、囚人奴隷の一人が頭の悪い事を抜かす。


 まったく、奴隷のくせして温室育ちかよ。


「いいか、クズども。頭にウジが湧いたお前らに教えてやるよ。今オレは機嫌がわりぃんだ。テメェらの命なんかゴミ以下だが、汚たねぇゴミが騒ぐってのなら容赦なくぶち殺す。……分かったな?」


 彼らにも分かる『正しい言葉使いと態度』で接すると、やっと理解してくれたようだ。

 ようやく、囚人奴隷の皆さんは静かになってくれた。


 少々汚い言葉を使ってしまったが、こうでもしないと理解してもらえないだろう。


 なるべくオレは、オリヴィアを見ない様にして魔法でオリヴィアを洗い綺麗にした。


 そして奴隷たちに再度宣言する。


「ここに女が一人入って来る。もしお前たちが少しでも動いたら、さっきのゴミみたいに、容赦なく殺す。今回は連帯責任だ。一人が騒いだら全員死んでもらう事になる。……分かったな?――ネム、念のため全員に、もう一度『風槌エア・ハンマー』だ」

「……わかった」




 ネムが全員に『風槌エア・ハンマー』をぶつけるのを確認した後で、オレは『何でも切れる剣』を懐から出すフリをして牢の扉を壊し、ミィーカやおっさんたちをこの部屋に招き入れた。


 ミィーカは、オリヴィアを見つけると涙を流しながら駆け寄り、抱きしめた。

 そして持っていたカバンから大きめのローブを取り出しオリヴィアに着せる。


 その間、オリヴィアは震えながら、魂の抜け落ちた瞳でただ天井を見つめていた。


 さて、目的は達成された。

 無事……とは言えないが、オリヴィアは生きている。


 初めオリヴィアは、ミィーカが肩を抱きながら運んでいたが、途中で冒険者を引き連れた女性のギルド職員数名と合流したので、その人たちとともに、ミィーカが連れ添って担がれるようにして運ばれていった。




「……さてと、お前の命の価値はこれで無くなったな」


 オレは捕虜を見つめた。


「ヒィイ!助けてぇ!」


 捕虜は今にもチビりそうな勢いでオレに懇願してくる。

 

「なんだっけ?『どんな意思が強い女でも、心を折っちまう方法』だっけ?……アレがそうか?」

「すっ、すみません!……ま、まさかアンタみたいなお方のお仲間とはつゆ知らずっ!どうか命ばかりは!……お助けを!」

「さぁて、それはどうかな?全てはお前次第だ。……オレに喧嘩を売って来た張本人の居場所へ案内しな。知らないなら、お前はここへ置いて行く。……もちろん、胴体と首はお別れだ」

 

 オレは、首の前で手をヒラヒラさせてニッコリほほ笑む。


 魔物の一件から始まり、オレのストレスは限界だ。

 喧嘩を吹っかけて来た相手には、ストレス発散に付き合って貰わないとな。


 捕虜くんはオレの素敵な提案に、素直に従ってくれたよ。


 さぁて、ボスをぶっ殺しに行こうかね?




 オレたちは砦の一番奥まった場所、ボスの部屋の前まで到着した。


 ここまで戦闘はゼロだ。

 

 あちらこちらに黒い水たまりや、死体の切れ端が散乱している。

 黒いシミが線を引き、オレたちの行く方向とは逆に進んでいた。


 途中何人か味方の兵士や冒険者と出会ったが、疲れた表情で死体の運搬を行っていた。

 黒いシミの線は、死体の運搬中についたモノだろう。

 

 この様子から察するに、ほぼこの砦は制圧されたと見ていい。


 ……まだボスが居てくれたらいいんだがな。


 そんな思考の途中で、ある違和感を感じた。

 

 それは戦場には似つかわしくない音。

 砦のボスの部屋からは、切なげなバラードの調べがオレたちに向け流れて来た。


 ――まさか、この曲は?


 オレは、ボスの部屋の扉を慎重に開ける。

 そこにはフラメンコダンサーの様な衣装の上に、いぶし銀の鎧を着た、牛耳族の男が佇んでいた。


 切なげにギターを弾きながら、机の上に腰掛ける男。


 なぜ、この人がここに居るんだ?


 オレは状況が分からなくなる。


 その男は、オレたちが入って来た事に気付くと演奏をピタリとやめて、ギターの絃を弾いた後、オレたちに身体を向ける。


「……また会ったな少年。まさかあの時の少年が『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』のハルトだったとはな。分からんもんだぜ」


 そして、悲しそうな表情でオレに自慢の『ギターラ・クロス』を向け、こう言い放つ。


「――さてハルト、問題だ。この意味が分かるかい?」


 まさか、あのジョニーさんが……?


 オレは只々『ギターラ・クロス』の先を、見つめる事しか出来なかった。




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