皮モノおとぎ話
昔々、とある国に徳の高いお殿様が住んでいたのだが、その娘であるお姫様は大変にわがままで、その傍若無人ぶりは、あれがあの殿の娘かと国中の人間が噂したほどだった。
ある時、泥棒が、お姫様をさらおうとして、まんまと成功してしまった。捕らえられたお姫様は山奥の洞窟の中に閉じ込められてしまった。なんとか抜け出そうと喚いたが、無駄なことだった。お姫様は後ろ手に縛られ、全身を縄で縛られて、身動きもとれず、さながら罪人のようだった。
そこへやってきたのは、やけに背の高い男で、顔の赤いみすぼらしい娘たちを4人引き連れていた。
「貴方はこれから、何をしようと考えているのですか」
そう言ってお姫様はお尋ねになったけれど、男は返事をせず、見るからに農民とわかる娘に向かって言ったことには、
「ここにいるのはこの国のお姫様であるが、彼女は上に立つ者としての素質がなく、あなた方が代わりを務めるとよろしいでしょう」と、お姫様の髪を4本抜いて、口に含んだ水を吹き掛けると、たちまち不思議な皮になった。それを娘たち一人一人に与えてやると、娘たちはおずおずと着物を脱ぎ、その皮に手を通した。すると、4人は たちまちお姫様そっくりになってしまった。男が用意していた着物を着て、髪を結うと、本物のお姫様と見分けがつかなくなってしまった。お姫様が泣きながら、
「どうか、私のふりをさせるのはやめてください。この者たちは農民ではありませんか」とおっしゃったけれども、男は、
「今までそなたは何をしてきたか。貧しいものを苦しめてばかりだったではないか。お前に対する罰は、お前の父親がするだろう」と言って消えてしまった。
4人の娘は大層優しい心の持ち主だったので、お姫様のふりをしようなどと不埒なことは考えず、お姫様に同情した。5人は本物の姉妹のように身を寄せあっていたところをお殿様が発見して、
「これは一体どういうことが起こったのか」と尋ねたので事情を話すと、お殿様は、
「お前は私の娘なのに、いつも自分よりも弱気ものをいじめていたが、ようやくその罪に気づいたか」と言ってお姫様を抱きしめて、他の身寄りもない娘たちも自分の娘として引き取り、人々は、お姫様をさらったのは神様に違いないと言ったとのことだ。