悲しみの色に染まる真っ黒な服。
達也くんシリーズを見てくださっている方へ
これは作者がいまのところ考えている、世間的にはハッピーエンドではない最終回のその後のお話です。
とてもとてもネタバレですので、悲しい最終回をまだ知りたくない方はいつになるかわかりませんが、最終回が終わってからご覧ください。
悲しくても見たい!って思ってくださる方はこのままどうぞ!
勢いで書いたので文が乱雑です。
私は今までずっと、ずっと働き詰めてた。
結婚して、子供が生まれて、それでも旦那のちゃらんぽらんは直らなくて、お金に困っていないのをいいことに、旅行という名の放浪を続けていた。
お義母さんもお弟子さんに稽古をつけてばかりで、誰も私の息子に構う人がいなかった。
跡継ぎがいないという焦りからか、お義母さんは息子への稽古の態度が厳しくて、あの子はいつもぴーぴー泣いてた。
でも私は、ちゃんと慰めてあげられてなかったんじゃないかしら?
忙しいからって、逃げてなかった?
ちゃんと、向き合ってあげられなかった。
いつもひとりにさせてしまったね。
だけどあの子の面倒を見てくれる少年が表れて、一緒に行く約束だった夏祭りもその子が連れて行ってくれた。
あの子は少年にべったりで、時々ドキリとするくらい仲がよかった。
中学へ上がって、少年の行方が突然わからなくなって、あの子は変わってしまった。
年齢的な問題もあったのかもしれない。
でもきっと、私たちがあの子に構ってやれなかったから、あの子にはあの少年しかいなかったから、変わってしまうのも仕方なかったのかもしれない。
やっぱり私は、ちゃんと息子と向き合えなくて、高校進学と同時に一人暮らしをしたいと言ったあの子を止めることもできなくて、私はただひたすら働くだけの生活を送っていた。
息子は大学へ進学し、あの少年と帰ってきて、少年は私にこう言った「息子さんと、付き合っています。」
なにを言っているのかわからなかった。
幼いころ、ドキリとするほど仲が良かった。
あの時2人を離していたら、こんなバカげたことにはならなかったんじゃないかしら?
男同士なのに…交際なんて…
子供もできない、社会的にも認められていない。
この子が幸せになれない!!!
だけど息子は涙を浮かべながら、初めて私の目をじっと見ていった。
「お母さん、俺、この人と居られるのが幸せなんだ。」
時間はかかったけれど、これがこの子の選んだ幸せなのだと思った。
幸せになってほしかった
なのに
口元に微笑みを浮かべた息子に、みんなが別れの言葉を告げていく。
息子の死を知らされて、そのあと自分がどうしていたのかがよくわからない。
気が付けば棺桶に入れられていた。
まだ、生きているんじゃないかしらと思う。
死んでるように見えないもの。
旦那が息子の顔に触れ、別れの言葉を告げる。
息子となんてほとんど顔をあわせたことがないくせに、旦那は嗚咽を噛みしめ泣いていた。
お義母さんは人前ということもあり、きつく結んだ口から嗚咽が漏れることはなかったけれど、目から大粒の悲しみがこぼれていた。
息子が焼き場へ入れられていく。
目を覚ますかもしれないのに…
私と同じ考えを持った人がいたのか、息子の棺桶に向かって伸びる手が見えた。
目をやるとそこには成長したあの少年が居た。
少年はどこか虚ろな目で、息子の入っている棺桶へゆっくりと手を伸ばしていた。
目は真っ赤に腫れ上がっていた。
「……亮平、くん…」
息子が最後まで愛した人。
息子の命が終わるまで愛し、最後まで抱きしめ、看取ってくれた人。
私はその子に駆け寄り、思い切り抱きしめた。
その子の後ろには、泣きじゃくる息子の友達達が見えた。
そうだよ。
悲しいでしょ?
寂しいでしょ?
つらいでしょ?
「ありがとう。最後まで、あの子を1人にしないでいてくれて。」
視界がゆがむ。
「ありがとう。最後まで、あの子に笑顔をくれて。」
その子の手がピクリと動く。
「ありがとう。あの子に幸せをくれて。」
そして
「おつかれさま。」
ぽたりと肩に何かが落ちるのを感じる。
みなくてもわかる。
私の礼服を濡らすソレは、その子の感情のすべて。
整った顔から、ぽたぽたと悲しみが垂れる。
ぽたぽたと私の礼服を寂しさが濡らす。
長い睫を後悔が伝う。
「……っ、俺…っ、俺……!!」
私の前では「僕」と言っていたその子が、本当は自分を「俺」と呼ぶのだと知った。
「俺…ちゃんと、達也を幸せにできてたのかな…っ…」
泣きなれていないのだろう。
この子も、息子が居なければ1人だったのかもしれない。
もっと自分の感情に素直になってもいいのよ。
もっと、周りに甘えてもいいのよ?
もっと、ちゃんと、最後に、
「あの子に、自分の気持ちを伝えてあげて…?」
服に染みた後悔が、私の肩も濡らしていく。
「俺…これからどうやって生きていけばいいの…っ!?俺を…俺のこと1人にしないでよ…っ」
私の背中を皺ができるくらいに握りしめて、その子は子供みたいに大声で泣いた。
大丈夫。
ちゃんとあの子は最後まで幸せだった。
最後まであなたを想っていた。
今はまだどうやって生きていけばいいかわからないかもしれないけれど、あなたの命はまだある。
ちゃんと、あの子の気持ちも背負って、これからも私たちは生きていけるよ。