Install-3「そんなものはない……!(V→R)」
作者のcrowです。
今回の見どころは、短編では適当に書かれていた雨龍戦が(前回に引き続き)詳細に書かれているところです。
それでは、本編をどうぞ(^_^)/
「みんな、いいか? ここを抜けた先に雨龍が居る。攻略の最終確認だ。
タンク隊、陣形は頭に入れたな?
アタッカー隊、突撃の合図は覚えたな?
バッファー隊、バフは全員にかけたな?
ヒーラー隊、MPは全回復したな?
よし、気合入れて行くぞ!」
「「おー!!」」
威勢よく、20名のアバターが雨龍の居る部屋へと雪崩込んだ。
しかし、彼らの進行はすぐに止まった。
「おお、先客が居たか……まあ、参戦して怒る事はないだろうし、俺達も彼に加勢――」
その時、雨龍が耳を塞ぎたくなる様な奇声を発した。そして、何の前触れもなく雨龍から技の発動が検知された。
「『大暴れ』」
「なっ、ヘイトが俺達に移ったのか……!? そんなバカな!? まだ俺達は何も――」
突然の事に20人が呆然となっていると、雨龍は構わず集団に突っ込んだ。
その突撃で最前線にいた重装アバターが2名と、その後ろにいた軽装アバター3名が重傷を負った。
「はっ…… みんな、散れ! 尾がく――」
男の予想通り、雨龍は身体を捻り、自身の尾を鞭の様に振るった。
その全方位攻撃で、雨龍の突撃を免れた前衛アバター達も大ダメージを受ける。
それからも雨龍の一方的な攻撃は続き、僅か数秒足らずで男達の陣形は崩され、タンク隊とアタッカー隊は全滅した。
残されたリーダー格の男とバッファー部隊、ヒーラー部隊では、雨龍と正面から戦える筈もなかった。
「くっ、甘く見ていた……」
男が諦めかけた時、砂塵の中から青年が現れる。
「君も止めた方が良い。アレは噂通りのチートだ。死罰が嫌なら俺達と協力して此処から逃げ――」
「『邪魔なんでさっさと離脱、お願いしますm(_ _)m』」
「なっ!?」
「アンタ、ちょっと! リーダーが折角、協力してやろうって言ってんのに……!」
バッファー隊の女が青年に突っかかった。しかし、青年は雨龍の方を見たまま一瞥すらしなかった。
「いや、いい。分かった、御言葉に甘えさせてもらうよ。君の健闘を祈る」
(やっと、1人になれた。協力とか、苦手。どうせ、作戦通りになんか進まないんだし、その場その場で考えて動いた方が楽)
青年より弱い敵が去った事で、雨龍のヘイトは再び青年へと移った。
(弱い奴から狙うとか……中々、悪趣味なシステムだな)
先程とは異なり、雨龍は大人しかった。両者の睨み合いが続く。
(まあ、大体試したい事は試せたし、もう倒しちゃってもいっか)
――……
IDEAL\User\91090110030550000550930>cj crw
……――
青年が輝き出し、また格好が変化した。
そうして現れたのは、この戦いが始まった時と同じ、ボロ布と大剣を装備した青年だった。
(ゲームの良いところは、現実性がない点と努力が必ず報われる点だ)
沈黙の睨み合いを破ったのは青年だった。ゆっくりと青年は雨龍との距離を縮めた。
(例えばこのバトル、現実的に雨龍を倒すには首を斬り落とすか、心臓を刺すか、しなければならないけど……)
大剣の間合いより少し遠い位置で青年は止まると、雨龍は威嚇する様に小さく吠えた。
(ゲームなら、生命力っていう有限の値を0に出来れば敵の脚だけ斬ってても勝てる……!)
その言葉通り、青年は目にも留らぬ速さで雨龍に近付き、右前脚に大剣を振るった。
(そして、特にMMOで真価を発揮する努力……まあ、費やした時間と金だけど)
雨龍はダメージで青年の位置を認識すると、透かさず反撃に出た。
(現実は数式の様に規則正しくない。理不尽なんていう不確定要素が必ず付き纏い、それは人の努力を平気で踏み躙る)
雨龍の右前脚が青年を狙い、振り下ろされた。
(でも、『IDEAL』に理不尽はない……!)
青年は『踏みつけ』を紙一重で躱し、更に地面を這って迫る波紋状の衝撃波をジャンプで避けた。
(積み重ねてきた成長は消えないし、得たものは必ず自分の力になる)
青年は宙に浮いた状態で頭上から大剣を振り下ろす――ジャンプ攻撃で反撃した。
雨龍は立て続けにダメージを受け、憤怒した様に大口を開けて吠えた。
(来るか……最期の悪足掻き)
「『大暴れ』」
青年の読み通り、雨龍は先刻、集団を瞬く間に蹴散らした必殺の技を惜しげもなく使った。
(残念だったな、それは既に攻略済みだ)
IDEAL\User\91090110030550000550930>bkls add Uryu
両者の視界から同時に敵の姿が消えた。しかし、雨龍は構わず必殺技の発動を続行した。
それを青年はただ見ていた。
――……
約1分間にも及ぶ『大暴れ』で辺り一帯は土煙が立ち込めていた。
今回の『大暴れ』は、部屋の隅から隅まで念入りに行われ、逃げ場などどこにもなかった。
(はあ、やっと終わったか……最期だからってはしゃぎ過ぎだろ)
IDEAL\User\91090110030550000550930>bkls del Uryu
雨龍が、土煙が晴れるのを静かに待っていると、その背後からすっと人影が現れた。
(敵の見えない状況下で、先に手を出したお前の負けだ。
これで――トドメ、だ)
そう言って、青年は大剣を横に振り、雨龍の左後脚を斬り付けた。
雨龍は悲鳴の様な甲高い声で唸ると、最期の力で首を青年の方に向けたが、そこで力尽きた。
(最期は案外呆気なかったな……雨龍、お前は中々強かったよ。でも、アイツほどじゃない)
「『討伐完了』」
雨龍からそう吹き出しが表示され、華やかなBGMが流れた。
「『討伐報酬:雨龍の書(幻獣帳)』」
討伐完了の通知に続いて報酬の通知が表示されると、役目を終えたかの如く雨龍は消えた。
すると、雨龍が寝床にしていた所の壁が急に崩れた。崩れた壁の先には整備されていない道が続いていた。
その道は山道の様な、急な高低差のある下り坂で、辺りは鬱蒼と木々が生えていた。空は雲が立ち込め暗く、周囲は山特有の薄い霧で視界は殆んど頼りにならない。
青年がその道を闇雲に歩いていると、他とは明らかに異なる開けた所に到達した。
「『北雨(規律地帯)』」
青年がマップを確認すると、此処はそう表示された。
(規律地帯……よし、依頼の方もこれで達成だな)
……――
ログアウトすると、すぐに操作画面を左へと移し、自らの成果を書き込んだ。
――登録者専用掲示板 スレッド「雨龍攻略1(699)」
700. ****:2XX4/07/22(木)03:54:00 ID:-
新領地への招待
雨龍の住処の先、湿原の地・北雨
すると、下がっていた人気がこの書き込みを皮切りに盛り返した。
――……
706. 名無しの冒険家:2XX4/07/22(木)03:55:03 ID:-
****さん乙
707. 名無しの冒険家:2XX4/07/22(木)03:58:11 ID:-
****ktkr!
708. 名無しの冒険家:2XX4/07/22(木)03:58:50 ID:-
****△
709. 名無しの冒険家:2XX4/07/22(木)03:59:42 ID:-
****キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!
……――
増えていく称賛の書き込みに満足しつつも、不意に気づく事がある。
――ああ、何をやっているんだ、と。
仮想世界のヒーローは、現実では引きこもりのニートで、その有り余る時間をゲームに充てていたのだった。
「そうだ、依頼の報告しないと……」
操作画面を右へと移し、メールを作成した。
――返信メール
依頼:無事達成
証拠:討伐報酬――雨龍の書(幻獣帳)、新領地――北雨
報酬:Red Island 第5準国家『緋桜』の第3領地『音締』の不在領主解任期間延長
「送信。これでよし、と。
はあ、そろそろ学校行かないとなぁ……」
こんな状態になって早くも4年、中学へは結局1度も登校しなかった。
高校受験は近場の高校に何とか合格したが、未だに1度も登校した事はなかった。
「まあ、焦ってもしょうがないし、明日から頑張ろう……zzz」
しかし、この時ヒーローは今日が終業式など知る由もなかった。
ここまで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
内容はいかがだったでしょうか?
今更ですが、作者はMMOを全くやった事が無いので、陣形や定石、用語などはネットで検索して得た知識のみで書いています。その辺りはご容赦ください(>_<)
そういえば、サブタイトルの最後に付いている(V)、(V→R)にお気づきになられましたか?
アレの意味が分かると、実は投稿された話のタイトルを見ただけで、展開の概要が分かります(^^)
さて、次話の投稿は2014年4月22日午前9時頃を予定しています。
それでは、次話も是非読んで下さい(^_^)/