又従姉妹ちゃんと後輩くん
「……遅い」
渡守穂はアパートの一室で、足で床をトントン叩きながらつまらなさそうに呟いた。
彼女が待っているのは小鳥遊純。苗字は違うが、彼女の彼氏という訳ではない。彼は穂の又従兄弟だ。
「遅いよ……」
純が帰ってくるのはいつも遅いが、今日はいつにも増して遅い。
「なにやってんのよー……」
せっかく頑張ってケーキ作ったのにー。と穂が心の中で呟いた時。
ピンポーン。
と玄関のチャイムが鳴った。
「あれ?お客さんかな?」
穂は廊下へ出てとてとて歩いて行き、玄関のドアスコープを覗いた。
純だったらいいなー、とか思っていたが、そこには期待外れにも見知らぬ男の人が立っていた。
鍵を開けてドアノブを捻る。勿論、チェーンは掛けてある。
「えっと、どなた様ですか?」
「あれ?君……誰?」
「…………?」
「もしかして、純先輩……小鳥遊さんの彼女さんですか?」
「え、彼女!?いや、そ、そんなっ……!」
「そっかー。純さんはまだ帰ってないです?」
「……まだですけど。取り敢えず上がってください」
一度ドアを閉めてからチェーンを外して、彼を招き入れる。
「あ、そうそう。これ、ケーキです。今日は純さんの誕生日でしょ?毎年来てるんですよねー」
「ありがとうございます。そうなんですか?あ、申し遅れました。私、純の又従姉妹の渡守穂です」
「あ、彼女さんじゃなかったんだ。じゃあタメでいいよね?俺は純さんの一つ下の後輩で、名無凱っていうの。高校時代の後輩ね」
「ななし……?」
「名前が無いって書いて名無。ふざけてないよ?歴とした正式な苗字。珍しいでしょ」
「覚えやすいですね。大学は同じじゃなかったんですか?」
「あれ、知らなかった?純さん賢いのに進学しないで就職しちゃったの」
「え、純兄頭良かったんですか?」
「実はね。うちバリバリの進学校で、その中でもトップレベルの成績だったのに、なにを思ったのか就職する!なんて言い出して……なんかちょっとした騒ぎだったよ」
「へぇー、賢そうなイメージなんてなかったんですけど。あ、お茶出しますね」
「いやー、お気遣いなくー」
穂がお茶を淹れたコップをテーブルの上に並べていると、穂の“純センサー”が反応した。
慌てて廊下に出ると、純と一緒に見知らぬ女の人がいた。