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黒服の男 - その2

いつもは1000文字弱なのですが、今回は2000文字弱になってしまっています。ご容赦を。

「貴、様ァ!!」


あ、やべっ。怒った。


(せしめ)〆!おやめなさいっ!」


僕が意味もなく拳を構えたその時、僕の後ろに居た彼女は声を張り上げると僕の隣に並んだ。

その姿は威風(いふう)(どう)々としていて何故か王者の風格を感じさせた。

梨美(りよ)お嬢様、超かっこいいです。


「し、しかし、お嬢様……っ」


大男、勢〆の動きが止まり、声も(うかが)うような声色(こわいろ)に変わった。


「この人は何も悪くありません。いきなり掴みかかって反撃されたのはあなたの弱さであり、責任です」


うお、なんか説教が始まった。


梨美(りよ)、で、(せしめ)〆」


僕は順番に視線を送りながら(つぶや)く。勢〆は聞いたことのある名だ。


「……そうです。私が梨美です」


あ、さっきので説教は終わったんだ。


「勢〆って……えーっと……あ、思い出せない」


「思い出さなくていいわ。……勢〆、今日は私を見なかったことにして帰りなさい」


「そんなことできる訳がないでしょう。総出(そうで)であなたを捜索しているのです。子どものようなことを言っていないで帰りますよ」


再び勢〆が梨美の腕を掴もうとする。

しかし、いち早くそれを察知した梨美が逃げるように僕の後ろに引っ込んだ。


「お嬢様っ」


逃げた梨美を勢〆が追撃する。


「…………」


二人は僕の周りでクルクル回りながら攻防を続けている。


「あのー……」


(あや)っ。見てないで助けてっ」


「お嬢様、いい加減にしてくださいっ」


「…………」


僕は二人に回られながら、しかし冷静に周囲の様子を見渡す。

すっげー目立ってる。やべぇ好奇の視線だ。グサグサ刺さってくるー。


「んー……」


さて、どうするか。

…………どうしよう。えーと、あーと、あ、そうだ。いいこと思いついた。


「ふっふっふっふっふっ」


「ちょっ、(あや)っ!?」


「うん」


「や、うん、じゃなくてっ!」


「よっ」


「ひゃっ!?」


僕は前に回って来た梨美を捕まえるように()(かか)えると、顔を近づけて(ささや)いた。

体勢としては、梨美の背中と腰を僕が両腕で抱き締めるように支えて、僕が梨美に(おお)(かぶ)さる形だ。


「梨美さん。勢〆に向かって痴漢(ちかん)よーって叫んで。そしたら逃げれるから」


「えっ?えっ?なっ、な……?


「貴様っ!お嬢様から離れろ!」


「はいよっ」


と言って勢〆に向かって梨美をぶん投げた。


「きゃっ!?」


「わっ!?」


「ちょっとっ……!?」


「も、申し訳ございませんっ……!」


「梨美さんっ!」


すぐに僕は梨美の腕を掴んで走り出した。


(あや)っ!?」


「逃げるよッ」


「な、待てッ!」


僕たちが向かったのは僕の愛車を留めてある駐車場近くの出入り口……ではなく、その反対方向の百均コーナーのある場所だ。

走る、走る、走る。だが、距離は縮まる一方だ。


「純っ……早いっ、よっ……っ!」


クッ、もう限界かっ!?

梨美は体力のある(ほう)ではないらしい。見た目通りと言えばそうだが。


「梨美さんっ、叫べ…………!」


僕は梨美の手を引きながら、梨美にだけ聞こえるように声を(しぼ)り出した。


「へっ!?あっ……痴漢よーっ!」


「なっ……!?」


梨美が叫んだ。後ろを走る勢〆は驚愕(きょうがく)しているだろう。

この状況では周囲には彼は痴漢というより暴漢(ぼうかん)に見えるだろうね。


────────数秒の空白。


周囲の時間が止まったような感覚に襲われたのは、人々が動きを止めて静まり返ったからだろう。


「助けて、くれっ……!」


僕は演技力全開で叫んだ。

途端、周囲が動いた。善悪の判断を促したことによって、傍観者にどう行動させるかを決定させたのだ。

具体的には、黒服サングラスの大男を取り押さえる、という形で。


「オラッ、止まれ!」


「誰か警察にっ!」


「取り押さえろーっ!!」


男も女も関係なく、一斉に行動を起こした。


「えっ?えっ?」


「なに!?おいっ、離せっ!俺はなにも……!?」


何もしていないとは言えないよね〜。確かに犯罪ではないけど。

僕と梨美はそのまま軽く走りながら店内を一周回って車まで戻った。


「はぁ、はぁ……結局、買えなかったね」


「そんなことより、さっきのは…………?」


さっきのと言えば、傍観していた一般客が一斉に勢〆に飛びかかったことだろう。


「ここいらの人は結託(けったく)しているからね」


僕は何ともないように言った。

田舎を()めちゃいけないよ。と付け加える。


「それにこの地域じゃ、痴漢はドが付くほどの重罪って認識されてるし、加えてここらを守ってる駐在さんは頑固なオヤジでね。簡単には解放されないよ」


「えー……っ」


「で、どうする?帰りたいなら家まで送るけど」


「はい?今さらなんで……?」


「だって、さっきのは売り言葉に買い言葉かもしれないからさ。やっぱり帰りたい〜って言うなら送るよ?」


「帰りたくなんかないわ。あんな家」


「そーですか」


どんな事情があるのかなんて知らない。でも僕は理由なんて訊かない。

あくまでこれは梨美の問題だからだ。

勢〆の読み方は勢 (せ) 〆 (しめ)なんですけど、『〆』の上にふりがなをふれなかったので『勢』の上に置きました。

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