出会ってそれで - その3
「できない?」
予想もできなかった彼女の返答に、僕は訳が分からず鸚鵡返しに訊き返した。
「あ、あなたの家に……泊めてもらえないかしら…………?」
「へ?えっ?はいっ!?な、なななぜ……っ?」
「……言えないわ」
マジで意味不明なんだけど。
てゆーか怪しいな。この娘。
「~かしら」とか「~わ」とか、ちょっとお嬢様っぽい口調だし。
………………まさか!
この人は大富豪の娘で、どっかの御曹司と結婚させられそうになって、逃げ出してきたとか。それでホテルや旅館などには、黒服の怪しそうな人たちによって顔写真とか名前とかを知らされていて、泊まろうとすれば親に連絡されて、好きでもない野郎との結婚ルートへ直行って感じですか!
「そうか……」
「え?」
「よし。分かった。そういうことなら家で泊まるといい」
「え、はい……?あ、ありがとうございます」
「あぁそうだ。着替えとかは持ってるの?」
「いえ……」
だと思った。彼女の荷物は小さい鞄一つだけだし。
「じゃ、家に帰る前にお店に寄って服とか下着とか買っておかないとね」
「す、すみません……」
「気にしないで。謝罪の印だと思ってさ」
その後、シートが濡れるし、お店にも入り辛いし、何より風邪を引いてしまう、ということを危惧して彼女に着替えてもらうことにした。
「み、見ないでくださいね」
「見ませんよ」
僕はため息を吐きながら答えた。
大きい車を買って良かった。
運転席と一列だけある後部座席の間に取り付けてあるカーテンを閉めてケータイを弄る。ベンガル語講座レベル2だ。実は1週間ほど前にアプリを取得して、独学で勉強しているのだ。
「あの……女物の下着はありません、よね……?」
着替えの服は常備してあるが、女性用の下着などある訳もなく、ノーパンか僕のパンツを履くかの二択なのだが、彼女には我慢してもらうしかない。
「お、終わりました」
彼女は大きめのジーンズパンツと長袖のTシャツにパーカーという無難な格好だ。彼女には大きめの服だが、こういうファッションだと思えば何ら違和感はない。
彼女を助手席に乗せて、服を買うために僕はUターンして今さっき来た道を引き返した。