出会ってそれで - その2
帰る家がないだって…………?
気になったが、何か訊き辛い雰囲気だ。
取り敢えず何か話していないと気まずい。
「あ、あぁ……ええと、君、名前は?」
「他人に名前を訊く前に、自分が名乗りなさい」
「そ、そうだよね。えと、僕は小鳥遊純。君は?」
「あんたには関係ないでしょ。なんで私の名前を教えてあげなきゃならないのよ」
「……御尤もで」
なんだか少し理不尽を感じたが、気のせいだよな。だって水を掛けてしまったのは僕なんだし。寧ろ彼女に対して不条理な仕打ちをしてしまったのは僕の方だ。
「…………」
黙って車の中を漁る。
僕の愛車はハイエースのバンで、後ろに座席はなく、空きスペースになっている。
僕の仕事場は僕の家から車で1時間の座標に位置しているから、忙しい時期になると家から仕事場までの往復2時間を睡眠時間に回すために、いつでも車の中で寝られるように寝具一式をそのスペースに置いてある。
その他にも、車で寝る場合にはお風呂に入れないのでタオルやウエットティッシュなども常備してある。
ちなみに、会社のポットからお湯を頂戴して水道水と混ぜて40℃くらいに調整してタオルを濡らすと、ただウエットティッシュで拭くよりもサッパリ感があって気分良く眠れるのだ。
……今はそれは置いておいて、話を戻そう。
僕はタオルを引っ張り出して彼女の服に付いた泥を落としていく。
が、限界があった。
染み込んだ泥は服から落ちないし、水でベタベタしている。このままでは風邪を引いてしまうのは火を見るよりも明らかだ。
「……あの、今夜泊まるトコがないなら、近くのホテルか宿屋にでも送るよ?お金なら僕が払うし」
「え?」
家に連れ込む訳にはいかないけど、一泊ぐらいの料金は慰謝料として払うと思えば全然痛くない。
「えっと……その……」
申し訳ないと思っているのか、彼女は鋭い目つきを引っ込めて、言葉を探すように視線を彷徨わせている。
「泥だらけにしちゃった訳だし、行く当てがないなら、取り敢えずどこかで一泊しないと。あんまり高いとこはやめて欲しいけど、そこそこの場所だったら僕が払うからさ」
「それは…………できないの」