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ホタルイカ  作者: 大藪鴻大
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楓6

 私は遠くで向井の推理を聞いていた。一成の色を見れば向井の推理が正しいことはすぐに分かったのだろうが、あえて一成の色を見ないようにして向井の推理に耳を傾けていた。向井の色を見ていたかった。推理の間、向井の色は夏の闇夜に淡い青色を発して飛び回る蛍の光だった。

 一成が横になる。私は静かに3人のもとに近づき、杉山の隣に座り込む。

「なんだか、今回の事件、私だけ疎外された気がするんだけど。」

 実際、向井の推理に私の名前は一度も出てこなかった。

「疎外なんて難しい言葉よく知っているな。」

 杉山が私を見ることなく、空に向かって言う。バカにしてるの?と私は杉山を見下ろすが、視線を合わせようとしてくれない。今の杉山の色は、この夕焼け空と同じ色だ。あの金網の前に立ったら、きっと空と一体化するだろう。

「疎外といえば面白い話がある。」

 蛍君がそう言うと、私の方を見た。仲間外れにされた友達に「一緒に遊ぼう。」と声をかけるときのような色をしていた。

「誰からも疎外されていて内向的な人は、自分の中にもう一人の人格が生まれやすい。なぜなら、もう一つの人格を作ることで自分の行動を監視し制御しようとするからだ。」

「それ、何の本に書いてあったんですか?」

「カラスについての本だ。」

「本当にあるんですか、その本?」

 冗談だ、でも嘘じゃないけどな。私には蛍君のその色の意味が良く分からなかった。

「そんなこと言ったら、みんな二重人格だろ。みんな、自分で自分のことを見つめて、反省し、行動していくじゃないか。二重人格なんてそれが少し顕著になっただけだろ。」

 向井が身体を乗り出し、杉山を見る。杉山はやはり空を見続け、その空と同じ色をしている。

「人の心が読めるのも、人の顔色が人一倍読めるだけだろ。未来をコントロールするのだって小さな事ならだれでもできるだろ。別に特別じゃない。」

 私は静かに横になる。夕焼け空と雲を見ていると、前髪で顔の隠れた女の子の姿が見えた。彼女は笑っていた。もしかしたら、彼女は私だったのかもしれない。あのとき救えなかった彼女が、救われるためにまた私の目の前に現れたのかもしれない。彼女は小さく手を振ると、夕焼け空の雲の一部になった。

 桜の香りがする。香りのもとはどこなのだろうか?向井が私の隣に横になる。4人でしばらく暗くなりつつある夕焼け空を眺めていた。

 突然、蛍君がつぶやいた。


「俺の見ているこの空と、おまえらの見ている空は同じなのか?」


「当たり前だろ。」

「同じ方向を向いていますからね。」

「きれいな色だね。」


 そうか、と蛍君がつぶやく。青い光が静かに動きを止め、その光を嬉しそうに点滅させていた。

 ホタルイカの漁に用いる光は宇宙からでも見えるらしい。『蛍』と『烏』に集まった私たちも、あの空の彼方から見えたりするのだろうか。

 

 ねえ。今の私たち、どんな色している?答えが返ってこないと知りながら、空に向かって静かに語りかけた。


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