蛍7
杉山の拳をかわそうと身体を後ろに引いたとき、目の前を黒い影が横切る。動きが止まる。黒い影が起こした風は熱を帯びた空気を一気に冷やした。
黒い影が発した声は、再び俺と杉山に動きを与えた。俺は夕陽に向かって飛ぶそれを見る。後ろで笑い声がずいぶん遠くになって聞こえる。
「なんだ、ありゃ?」
杉山は夕陽に向かって飛ぶ小さな影を見てつぶやく。
「カラスだ。」
まぎれもなくカラスだ。見間違いようがない。
「カラスだな。」
杉山と目が合う。「カラスだよな?」「だからカラスだって。」と確認したような間の後、杉山は後ろに倒れこむ。
「マジかよ!」
一息に言うと、そのまま横に寝転がった。傲慢かもしれないが、その顔は満足しているように見えた。俺は杉山の側に座る。
「見事に逃げられたな。」
杉山は何も言わなかった。だから俺も何も言わなかった。夕陽の光を眺める。
「GREENな俺らはBEAUTIFUL」
若い俺らは美しい。緑の俺らは美しい。怪物の俺らは美しい。
「MONSTERはBEAUTIFUL」
俺が思わずつぶやく。隣で口から息を漏らす音が聞こえる。泣いているのか、笑っているのか、定かではなかった。確かめるつもりもなかった。
「モンスターがどうたら、っていうのも聞いたことあるな。」
カラスが夕焼け空に溶ける。夕陽が山の向こうに消えつつある。
月並みな表現だが、きれいだなと思った。




