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ホタルイカ  作者: 大藪鴻大
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藤6

 ドアを開けるとすでに少年二人が喧嘩をしていた。喧嘩というものは僕とは無縁だ。僕は喧嘩しても勝てない。喧嘩をしてまで守るものもない。だから、喧嘩をしないように相手に敵意を感じさせないようにする。しかし、目の前で喧嘩は起こっている。たがいに敵意を感じていないはずなのにだ。

 楓さんがその喧嘩を遠くから見ている。その顔は無表情で、何を感じているのかまでは分からない。喧嘩を止める様子もない。

 僕の計算が正しければ、彼らはもうここに来ていなければならない。彼らがここに来たとき、『烏』は姿を現す。あの夕焼け空とこの屋上の間から、黒い羽を音を立てることなく羽ばたかせ、舞い降りる。そして僕は宣言する。「あなたが『烏』だ。」と。

 蛍君と向井君の喧嘩は格闘技みたいにしっかりした形があるわけでもないが、子供の殴り合いのようにでたらめではなかった。相手の拳を受け止め、自らの拳を繰り出す。よけきれたかと思うと、直撃することもある。立ち上がっては、倒れる。倒れては、立ち上がる。

 僕は何度も振りかえり、彼らが来ていないか確認する。何をやってるんですか?早く来ないと『烏』に逃げられますよ。

 すると、複数の話声と笑い声が聞こえてくる。武器を持ってきたのか、金属がこすれるような音がする。

「遅いですよ。こっちです。」

 4人組は互いに顔を見合わせる。一人の顔がニヤけ、二人目、三人目と不気味な笑みが感染していく。

「おまえの言ったことは本当なんだろうな?」

「本当ですよ。好きに暴れてください。」

 ヘイヘイ、とつぶやき、笑い声を洩らす。暴れることがそんなに好きなのだろうか?人の痛みより己の快感なのだろうか?やはり、僕には喧嘩は理解できない。

 彼らの後ろ姿を見送ろうとしたとき、一人が金属のケージを持っているのが目に入る。そのケージの中には黒い影が入っていた。黒い影は自由を求め、暴れ回っている。その黒い影には見覚えがあった。

 ちょっと待ってください、と喉まで出かかる。しかし、彼らの行動はそれが言葉になることを許さないほど俊敏だった。ケージを屋上の入り口にセットすると、ケージの扉を開けた。むやみやたらと暴れていた黒い影は逃げ道を見つけると、そこに向かって一目散に飛び込む。二人の少年の上を横切り、しゃがれてはいるがはっきりとした声で鳴く。


 まぎれもなくそれはカラスだった。


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