蛍6
窓の外を見る。空に薄く伸びる雲。その雲が夕焼けの空に影を作る。俺は屋上に続く階段を上る。杉山は校舎をパトロールしろ、と言っていたが、もはやその必要はない。
思えばこの一ヵ月、いろんなことが起きた。
学校で窃盗事件が起きた。
『烏』という存在を知った。
数学の個人教師をし、分厚い本で顔を殴られた。あれは痛かった。
楓があの屋上に桜の香りを運んできてくれた。
武藤が俺をいじめ、俺が武藤を懲らしめた。
楓の家に押し入り、見知らぬ男の子とゲームをした。
ドッペルゲンガ―が現れ、本が図書室を飛び回った。
サイコロゲームで一成に勝った。
『登校時間見直し運動』に強制参加させられた。
この一ヵ月は非日常の連続だった。いや、これは傍から見れば日常に一ページにすぎないのかもしれない。だが、俺にとっては特別だった。それが、日常の裏に流れる非日常を見つけ出すこと。俺のいうところの人生だ。
俺は屋上のドアを開ける。ドアがきしむ音が校舎に響く。光が差し込む。俺は目を細め、その先を見る。人の影が見える。影が振り返る。振りかえるだけで、言葉は発しない。沈黙が続く。
「話があるんだが。」
杉山は何も言わない。竹刀を左手に持ち、その場に立ち尽くしている。別人のようだが、こいつは杉山涼太だ。何度瞬きしようが目をこすろうが、変わらない。今までこいつに何回会い、会話を交わしただろうか。
俺は震える右手を伸ばし、杉山を指さす。
「おまえが窃盗犯だ。」




