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ホタルイカ  作者: 大藪鴻大
48/65

藤3

「あれ?蛍君と杉山君はどうしたんですか?」

 分かってはいるが、一応聞いておく。

「今日は集まらないんだってよ。」

「では、何で楓さんはここに来たんですか?」

 楓さんは僕のそばまで歩いてくると、座り込んだ。無機質の風が桜の香りを運ぶ。

「何となく、かな?」

 僕はそれ以上言及することはやめた。楓さんもそれ以上は何も言わなかった。曇っているせいか、せっかく温かくなってきた風も冷たい。

 楓さんが口を開いたのは10分後だった。

「問題です。カラスの盗賊団の名前は?」

「『烏』の盗賊団?それ最強じゃないですか!絶対捕まりませんよ。」

「なぞなぞだよ。」

 楓さんが僕の方を向く。笑顔がさみしい。そんな顔すると、せっかくの美人な顔が台無しですよ。僕は答えが分からないので、首をひねることにする。

「烏賊だってさ。杉山が言ってた。」

「ふーん。考えましたね。じゃあ、次、僕からです。カラスが恐れているものは何でしょう?」

 楓さんは空を見上げ、考えるふりをする。小学生が大学の講義を聴くような顔をしていたから、考えていないことはすぐに分かった。心、ここにあらず。

「分かんない。」

「案山子ですよ。ほら、scarecrowですよ。『カラスを怖がらせる。』だから、案山子です。」

 楓さんがふーん、とつぶやく。また、沈黙が始まった。その沈黙が頭を刺激したのか、すごいことに気がつく。

「『蛍』と『烏賊』でホタルイカじゃないですか。」

 そうね、と楓さんがつぶやく。楓さんは雲に覆われた空を見続ける。

「知ってますか?ホタルイカの漁には明かりを使うんですけど、その明かりは宇宙からでも見えるらしいですよ。」

 そうなんだ、と楓さんは関心なさそうにつぶやく。

「でも、こんな曇り空じゃ、きっと見えないわね。」

 ホタルイカ。蛍も烏も賊になれば蛍烏賊という別の生き物になる。僕はこの発見に一人笑う。楓さんが訝しげに僕を見る。

「杉山君は何を探しているんでしたっけ?」

「窃盗犯でしょ?」

「蛍君は何を探しているんですかね?」

「知らないわよ。手帳じゃない?」

 それは、この間までの僕です。

「蛍君、なにか隠してませんか?」

「二重人格?」

「何ですかそれ?もっと重大なことですよ。」

 楓さんが視線を曇り空に戻す。

「何だろう?分かんないや。」

 いや、僕の計算が正しければ、あなたは気が付いているはずです。『烏』が誰なのかを。誰であるべきなのかを。そして、あなたがそのことに気が付くことによって―

 

 僕は『烏』に会える。


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