藤3
「あれ?蛍君と杉山君はどうしたんですか?」
分かってはいるが、一応聞いておく。
「今日は集まらないんだってよ。」
「では、何で楓さんはここに来たんですか?」
楓さんは僕のそばまで歩いてくると、座り込んだ。無機質の風が桜の香りを運ぶ。
「何となく、かな?」
僕はそれ以上言及することはやめた。楓さんもそれ以上は何も言わなかった。曇っているせいか、せっかく温かくなってきた風も冷たい。
楓さんが口を開いたのは10分後だった。
「問題です。カラスの盗賊団の名前は?」
「『烏』の盗賊団?それ最強じゃないですか!絶対捕まりませんよ。」
「なぞなぞだよ。」
楓さんが僕の方を向く。笑顔がさみしい。そんな顔すると、せっかくの美人な顔が台無しですよ。僕は答えが分からないので、首をひねることにする。
「烏賊だってさ。杉山が言ってた。」
「ふーん。考えましたね。じゃあ、次、僕からです。カラスが恐れているものは何でしょう?」
楓さんは空を見上げ、考えるふりをする。小学生が大学の講義を聴くような顔をしていたから、考えていないことはすぐに分かった。心、ここにあらず。
「分かんない。」
「案山子ですよ。ほら、scarecrowですよ。『カラスを怖がらせる。』だから、案山子です。」
楓さんがふーん、とつぶやく。また、沈黙が始まった。その沈黙が頭を刺激したのか、すごいことに気がつく。
「『蛍』と『烏賊』でホタルイカじゃないですか。」
そうね、と楓さんがつぶやく。楓さんは雲に覆われた空を見続ける。
「知ってますか?ホタルイカの漁には明かりを使うんですけど、その明かりは宇宙からでも見えるらしいですよ。」
そうなんだ、と楓さんは関心なさそうにつぶやく。
「でも、こんな曇り空じゃ、きっと見えないわね。」
ホタルイカ。蛍も烏も賊になれば蛍烏賊という別の生き物になる。僕はこの発見に一人笑う。楓さんが訝しげに僕を見る。
「杉山君は何を探しているんでしたっけ?」
「窃盗犯でしょ?」
「蛍君は何を探しているんですかね?」
「知らないわよ。手帳じゃない?」
それは、この間までの僕です。
「蛍君、なにか隠してませんか?」
「二重人格?」
「何ですかそれ?もっと重大なことですよ。」
楓さんが視線を曇り空に戻す。
「何だろう?分かんないや。」
いや、僕の計算が正しければ、あなたは気が付いているはずです。『烏』が誰なのかを。誰であるべきなのかを。そして、あなたがそのことに気が付くことによって―
僕は『烏』に会える。




