楓2
「どうだ?海東先生はカイトウか?」
「そうに決まってるじゃない!」
職員室を出るやいやな、杉山が尋ねてきた。なに!そうなのか!と必要以上に驚く杉山に腹が立つ。
「まさか、こんなことのためだけに私を呼んだわけじゃないよね?」
「文句を言うなら蛍に言ってくれ。蛍がどうしても確認しないからこんなことになったんだ。」
「俺はずっと海東先生はカイトウだ、って言っていたと思う。」
「だいたいね、海東先生が仮に窃盗犯だったとしても、『カイトウさんですか?』って質問だったら、『はい、そうです。』って答えればいいじゃない。海東先生はどのみちカイトウさんなんだから。」
ああ、なるほど、と妙に納得している。本当に今、気がついたらしい。何なのよ、もう。
「で、今日も集まるの?」
「いや、今日はいい。」
廊下の蛍光灯がやけに眩しい、と思っていたら今日は曇りだった。窓の向こうの空には今にも雨が降り出しそうな黒い雲が空を覆っていた。向井の色が何となく暗いのはそのせいだろうか。
「そういえば、この近くでまた『烏』が出たらしいよ。」
「調べるか?」
「いや、いいだろう。今行ってもしょうがないだろう。後の祭りってやつだ。」
杉山にしては消極的だ。向井は図書室の前で別れ、杉山はそのまま帰宅した。杉山を見送ると私は屋上を目指し、階段を上る。上っているうちに、今朝見た夢が頭の中に浮かんできた。
―ねえ。どうしてそんなに悲しい色をしているの?―
私は顔を上げる。目の前には小学生くらいの小さな女の子が立っていた。髪が長く、顔の半分を隠している。私よりずいぶん小さいはずなのに、視線が同じ高さにあった。
私は縮んでいた。いや、どうやらこれは昔の記憶のようだ。
「悲しくなんかないわよ。」
周りでは女の子たちが楽しそうに会話をしたり、絵を書いたりしている。
「あなたは一人なの?」
―私は、一人が好きだから―
女の子は微笑む。なんだかぎこちない笑顔だった。
―楓ちゃん、遊ぼうよ―
今度は後ろから声が聞こえる。走ってこっちに向かってくる。目の前の女の子は必死に笑顔をつくる。悲しみに浸り、涙をこらえた笑顔だ。私は腕をつかまれ、引っ張られる。
―こんな暗い子、気にしなくていいよ。気持ち悪い。―
私は引きずられ、どんどん女の子との距離が離れていく。手を伸ばそうとしても、手が伸びない。掴まれているわけでもないのに。
後ろから、生意気なのよ、根暗、ブサイク、という声が次々と女の子に浴びせられる。口元が震え、体が震えている。目が涙でうるんでいる。
―大丈夫。私は、一人が好きだから―
私はつかまれた腕を振り切る。後ろにいる女の子たちを睨むと、私は走り出した。
そこにはもう、誰もいなかった。
風が顔を打つ。上を見上げる。屋上に続く階段。私は一体何人の人を見捨ててきたのかなあ、と思う。そして、そう思う度に自分の力を恨みたくなる。




