藤11
「俺、参上。」
杉山君が竹刀を肩にかけ、ポーズを決める。アニメか何かのポーズだろうか。格好つくどころか、格好悪いのではないだろうか。
突然の登場に呆気にとられていた人々も、その姿を確認すると、笑ったり、呆れたり、それぞれの反応を示した。
「誰かと思えば、あのときのビビリやろーじゃねえか。これは傑作だ。」
杉山君は笑われているのを気にする様子も見せない。竹刀を僕の方に向ける。
「おまえら、誰?何やってんの?俺も混ぜてくれよ。小学生の遊びは中学生以来だからなあ。」
その言葉が気に障ったのか、僕の後ろにいた二人のうちの一人が杉山君に向かっていく。
ああ、ダメですよ。やられちゃいますよ。案の定、飛び出した男は左手で腹部に打撃を加えられ、その場に倒れた。
「おいおい。いきなり飛び出すなよ。殴っちまったよ。まあ、交差点じゃなくてよかったな。」
今度は楓さんを抑えていた二人が飛びかかる。杉山君は瞬時に竹刀を構えると一人に面を喰らわせ、空振りしたもう一人に後ろから面を喰らわせる。
「はい、二人死亡。あと一人な。」
しかし、面を喰らった二人は振り向くと杉山君に殴りかかる。杉山君は大きく飛びのくと長い髪の毛をかき乱した。
「だから死んだって言っただろ。なんでだよ。おまえらゾンビか。まあ、ポルターガイストだったみたいだけどな。」
そんなことはお構いなく飛びかかる。杉山君は横に避け、竹刀で足をひっかける。見事に決まり、二人とも派手に転ぶ。その上に杉山君が素早く乗っかる。
「もういいだろ。おまえらは死んでるの。俺には勝てないの。」
すると、杉山君は後ろから蹴られる。短い叫び声が聞こえる。しかし、杉山君はそこから動かなかった。ゆっくりと後ろを振り返る。
「俺はこんなんじゃ死なねえよ。」
杉山君は勢いをつけて振り向き、拳の裏で顔面を打つ。男はその場に倒れこむ。杉山君の下敷きになっている二人は、恐怖のあまり自由のきかない身体を無理やり動かしなんとか這い出すと、出口に向かう。
「おい、待て。まだ必殺技出してないぞ。」
その声が静かになった屋上に響く。倒れていた二人も退場し、屋上にはいつものメンバーと美夜さんが残っていた。
杉山君が美夜さんに近づく。美夜さんは杉山君を睨んでいる。
「なによ、あんた何なのよ。」
「俺か?俺は正義の味方だよ。それより、おまえこの学校の生徒だったんだな。この間は悪かったな。っていうか、蛍に何か用か?あ、もしかして告白か?」
「こいつが私を襲ったのよ。」
美夜さんが蛍君を震えた指で指さす。杉山君は、うずくまっている蛍君を暫く見下ろすと口を開いた。
「蛍が女を襲うわけないだろ。こいつ、女に興味ないんだから。いや、ホモって意味じゃないぞ。ていうか、知ってるか?Homoって『同じ』って意味があるらしいぞ。」
美夜さんが怪訝そうな顔をする。杉山君は一聞けば十しゃべる。おまけに、その大半の内容が話の趣旨と無関係だ。しかも、その知識は、いつか蛍君が言っていたものだ。
「あんた訳分かんない。」
「それはおまえが分かろうとしないからだ。なあ、そうだろ一成。」
杉山君は僕の方を向く。突然の指名にどうすればいいか分からなかったけど、とにかく近づくことにする。
「俺はこいつのことを知っている。こいつは俺のことを知っている。だからおまえは見事にここに立っているんだろうが。気がつかなかっただろう?自分で選択してきた人生の一部は俺らがコントロールさせてもらったわけだ。」
「まさか、また計算したの?」
楓さんがいつの間にか近寄ってきて尋ねてきた。
「すいません、黙っていて。」
楓さんは少し顔を歪めるとそのまま背けた。人にコントロールされるのはいい気がしないのだろう。しかも、楓さんはこれで二回目だ。風で長めの髪がなびく。桜の香りが漂う。
「で、おまえ何しに来たの?」
杉山君がそう尋ねると美夜さんはそのまま屋上から去って行った。杉山君は長めの髪をかき乱すと、しゃがみ込み、蛍君を覗き込む。
「蛍、最近よく泣くなあ。思春期か?」
杉山君が笑いながら言う。蛍君は顔を上げなかった。




