藤6
午後8時。この時間にもなると流石に正門は閉まっている。
しかし、正門だけが入り口ではない。学校には、裏門というものがある。その門だけは午後9時まで空いているらしい。杉山君情報だ。実際、開いていたので、僕らは堂々とそこから入って行った。
「警備員につかまったら、『今、午後8時なんですか?門があいていたから12時間間違えちゃった。』とでも言えばいいんだよ。」と杉山君はさもそれが最も正しい対応だ、といわんばかりに言った。
僕たちは校舎の二階に上り、図書室に向かう。図書室が目に映ったとき、蛍君がつぶやいた。
「校舎は空いていても、図書室は閉まっているんじゃないか?」
その言葉に僕と杉山君は顔を見合わせる。確かに、目の前の図書室は暗い。いや、この校舎には明かりという明かりもない。
昼間は人であふれ、活気もあふれる校舎も夜になると寝静まる。いや、校舎という無機物は人という生命体を体内に取り込むことで、自らも生命を得、有機的な明るさを得るのではないか。
目の前の図書室も、昼間は体育館のような躍動感はないものの、日向ぼっこする大型草食獣のような生命を感じる。それが、夜になると、ただの『本の保管所』である。夜とは、そういう時間帯である。
「あれは閉まっているな。どうするよ?」
「今、何か聞こえませんでしたか?」
蛍君はゆっくりと首を動かし、杉山君はせわしなく同じところを何度も確かめながら、あたりを見渡す。一通り見渡した後、二人は僕を見る。
「異常はないな。」
「今どき、学校の怪談なんて流行らないぞ、一成。」
杉山君はそう言うと、僕の肩を強く一回たたいた。いや、確かに聞こえた。あの金属音は確か―。
「鍵が開きませんでしたか?」
そう、鍵が開く音だ。
「気のせいだって。いいか。昔から幽霊っていうのはな、人の恐怖心から―」
そこまで口にした杉山君も、声を失った。目の前、数メートル先の図書室の扉が開いたのだ。再び閉じようとするのを蛍君が走って近づき、扉を押さえる。僕と杉山君は互いを見る。
「開きましたね。どうします?」
「いやあ、運が良かったなあ。」
杉山君は僕の肩を二、三回軽く叩くと図書室の中に入って行った。声が震えていたのは、寒さのせいだろうか?僕も後に続く。




