藤4
「で、これからどうするの?」
杉山君がトランプをまとめている。徐々に重なっていくトランプの束を見ながら楓さんがつぶやいたのだ。僕たちを玄関で迎えてくれたときは、不快感を隠しきれないような顔をしていたが、4人でしばらくトランプをしていると、次第に落ちついてきたようだった。
「どうするって、もうダウトはしない。ババ抜きもできねえし、七並べもできない。あれ、どうすればいいんだ?」
「そうじゃなくてさ。まあ、いいや。」
杉山君がトランプを一つの山にすると、腕組をして考え始めた。僕たちが何で楓さんの家に集められたのか、いまだに分からない。杉山君は天井を見つめ、つぶやく。
「GREENな俺らはBEAUTIFUL」
「なによそれ?」
「いや、なんか誰かが言ってたなあ、と思ってさ。誰の言葉だっけな。知ってるか、蛍?」
蛍君はトランプの山に手を伸ばし、シャッフルし始める。「まだするの?」と楓さんがため息混じりにつぶやく。
「知らない。第一、緑色の人間がいたらそれは人間じゃないし、見た目もそんなに綺麗じゃないだろう。」
蛍君はカードを一枚ずつ配り始める。カードが木製の机の上を滑らかにスライドし、僕の目の前で止まる。止まったと思うと、また次のカードが滑ってくる。
「GREENは『緑』じゃないんですよ。『青』なんですよ。『青二才』ですよ。つまり『若い俺たちは美しい』ということですよ。」
「いや、もしかするとそいつらは人間じゃなかったかもしれない。」
杉山君は目の前に配られたカードを手に取りつぶやく。それはつまり、杉山君は緑色のモンスターに遭遇した、ということだろうか。
「で、なにすんの?」
「ダウト。」
「いや、だからダウトはダメだって。楓が絶対勝っちまうだろうが。」
「また最下位になるからでしょ。」
楓さんが人差し指で杉山君を指しながら指摘する。杉山君は「いや、違う。」とあれこれと演説を始めたが、楓さんの口の端は全てを見通しているからか、笑っていた。蛍君が山札のカードを場に出す。
「杉山氏からどうぞ。」
楓さんが促す。杉山君は自分の手札をこれでもかというくらいに顔を近づけ、睨みつけた後、出すかと見せかけて別のカードを裏にして出した。
「ダウト。」
楓さんがそう言うと杉山君は何も言わず、場の二枚のカードを自分の手札に戻す。もうすでにパターン化しつつある。杉山君が手札からカードを出す。ハートの7。僕はとりあえず、ダイヤの3を出す。コールはない。次に楓さんが出す。
「ダウトだ、ダウト。」
楓さんがカードを裏返す。ダイヤの8。杉山君は何も言わず、場のカードを回収する。
「あんた、馬鹿じゃない?」
「いや、おまえは俺の必勝法に気がついていない。俺がおまえの番にダウトし続ければ、おまえが勝つことはまずない。」
「楓。」
楓さんがすぐに訂正する。楓さんは「おまえ」と言われることが好きじゃないらしい。
杉山君の必勝法は、正確には必勝法ではない。なぜなら、楓さんは人の心が読める。勝つためには、全て正直にカードを出さなければいけない。今のところ、楓さんは僕たちに対しては『ダウト』コールを全てにしているわけではないが、もし杉山君が『必勝法』で勝負してくるなら、恐らく怪しいものすべてに『ダウト』コールをしてくるだろう。すると、僕たちの勝つ確率は一気に低下する。恐らく、僕たちが全て正確なカードを出すより、楓さんが全て正確なカードを出すほうが早いだろう。
僕がそう説明すると、杉山君は満面の笑みを浮かべた。嫌な予感がする。
「そこで一成の出番だ。おまえの頭を使えば、終盤には楓が何のカードを待っているか分かるだろう。そこで楓が『ダウト』されざるを得ない状況を作るんだ。」
チーム組むなんてサイテー、と楓さんが言うが、その声には余裕がある。僕の心を読んだのだろう。
「それでも駄目なんですよ。」
「なぜだ?」
杉山君が身を乗り出す。計算結果をいちいち言葉にするのもなかなか大変なので、大雑把に説明することにする。
「いいですか。楓さんは人の心が読めるんですよ。ということは、僕が違う色を出したら、その時点で『ダウト』されるじゃないですか。楓さんが『ダウト』されざるを得ない状況を作ることは困難を極めます。」
「じゃあ、どうすればいい?」
杉山君の声が大きくなる。こんなことは滅多に思わないのだけれど、運を天に任せるしかない。
「もう出していいか。」
僕たちが許可する前に、蛍君は手を動かす。カードを見ずに、手札を山札のようにして、その上からカードを出す。なるほど、考えましたね。
「何のつもりだ、蛍?」
「こうすれば、俺も何を出しているか分からない。心を読んでも仕方がない。」
黒か赤か、確率は二分の一だ、と蛍君がつぶやく。「なるほど、考えたな。」と杉山君が何度もうなずきながらつぶやく。楓さんと目が合うと、意味ありげな笑みを浮かべる。三対一なんてサイテー、とつぶやく表情に違和感があった。
「ダウト。」
楓さんがコールする。場に出ているカードはスペードの10。蛍君がカードを裏返す。ハートの9。蛍君はカードを回収する。杉山君の顔から笑みが消える。笑みの消えたその顔はひきつっていて、楓さんに恐れ慄いているようだった。
「何で分かったんだ?」
楓さんは首を傾け、微笑むだけだった。




