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ホタルイカ  作者: 大藪鴻大
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楓12

「ちょっと、どういうことよ。」

 私は十万ドルを一成に手渡しながら、杉山に尋ねる。

「確かに楓はダウトは強い。けど、ボードゲームなら一成に勝てる奴はいねえよ。」

「そうじゃなくて、なんで一成君も来るのよ。というか、なんで杉山も向井も私の家に来たのさ。」

 確かに、一成はサイコロの目をコントロールできるだけのことはあった。絶妙にルーレットの出る目をコントロールし、自分が最も有利になるマスに止まっていた。

 しかし、そんなことはどうでもいい。杉山は何度もうなずきながら一成の持ってきたゼリーにスプーンを入れていた。

「いや、俺らにも集合場所は必要だろ。いやあ、楓はいい所に住んでるなあ。」

「あの屋上でいいじゃない。」

「あの屋上は寒いだろ。見つかるのも時間の問題だし。それに、蛍がもう来るなって言うんだよ。」

 杉山はボードについているルーレットを回す。ルーレットが鈍い音を立てて回りだす。ルーレットが滑らかに止まる。ルーレットを覗きこむ。5と言って駒を進める。

「何でよ?あそこは君の場所じゃないでしょ。公共の場でしょ?」

 私は向井を睨みつける。君のわがままのせいで、私のプライベート空間が侵略されているのよ。

「あそこは立ち入り禁止です。」

 向井の代わりに一成が指摘する。風邪をひく、一回休み。俺は風邪をひかねえ。大体、なんでルーレットの目で職業が決まるんだよ。何で俺はフリーターなんだよ。杉山が喚く。

「テレビとかもあった方がいいですし。なにより、人の目を気にしなくて済みます。」

 私が口を開こうとすると、杉山が早く回せと促す。仕方がないので回す。回し方がまずかったのか、一回転もすることなくルーレットが止まる。7。駒を進める。杉山と同じマスに止まる。

「はい、衝突~。罰金三千ドルプラス一回休み~。」

 子供のように手を叩き喜ぶ杉山を思わず睨む。

「大体ね、『烏』なんていないのよ。空想なの。妄想なの。勝手にでっち上げているのよ。」

「『烏』の真偽はともかく、学校に窃盗犯がいることは間違いない。」

 向井が言い終わるやいなや、急に男の子が顔を上げる。何事、と私が思うと男の子の止まったマスに「仕返し」と書いてあった。あのお兄さんから十万ドルもらえばいいのよ、と杉山を指しながら教える。「おまえら、グルだな。卑怯だぞ。」と言いながら、約束手形を手元に置き、十万ドルを男の子に渡す。

「お姉ちゃん。お姉ちゃんの学校に『烏』がいるの?」

 ルーレットを回そうとしていた一成の手が止まる。私と向井は互いに見つめ合う。

「そりゃあいるだろうよ。ゴミのあるところにカラスあり、だ。」

 咄嗟に頭を働かせたのか、自然と口からこぼれたのか、杉山がナイスフォローをする。しかし、そのカラスではないことは色を見れば明らかだった。単なる興味じゃない。男の子はしばらくうつむいていたが、ようやく口を開いた。

「僕、『烏』を見たことがあるよ。」


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