楓11
「あー駄目だ、駄目だ。どうしても勝てねえよ。」
私たちは4人でトランプの山を囲っていた。向井がゲームと言ったとき、むやみやたらと相手を殴り合うテレビゲームを想像していたが、杉山が「トランプか何かないのか?」と言い出したため、トランプをすることになった。男の子もゲームには興味があるのか、黙りながらも配られた手札を受け取っていた。
「第一、ダウトなんて楓が勝つに決まってんだろ。誰だよ、ダウトするって言った奴。」
「おまえが『ダウトをしよう。』と言って、自分が勝てないからやり続けているんだろ。」
「あのな、だっておかしいだろ。一番じゃないのは分かるけどよ、なんで何度やっても俺が最下位なんだよ。4位じゃ、メダルも貰えねえよ。」
杉山がトランプをかき集め、整える。表と裏のカードが混ざり合っていることに気がつき、再びバラバラにしカードを一枚一枚裏返していく。ふと男の子と視線が合い、微笑む。
ダウトは、山札から場に置いたカードの上に順番に手札からカードを裏返しにして出していくゲームだ。自分の前に出した人のカードが最初のカードと同じ色あるいは同じ数字じゃないと思ったとき、「ダウト」とコールする。もし、同じ色あるいは同じ数字だった場合、場に出ているカードは「ダウト」をコールした人の手札になり、違った場合はそのカードを場に出した人が場のカードを手札に加える。手札がなくなったら、山札の一番上からカードを出す。山札がなくなり、手札がなくなった人が勝ち。
つまり、人の心を読める私は有利なのだ。ちなみに、杉山が勝てないのは、私が向井と男の子のダウトをいくつか見逃しても、杉山のダウトは全てコールしているからだ。
「あークソ。どうすれば、勝てるのかなあ。なんとしてもこの敗北のスパイラルから逃れてやる。」
「ダウトだから勝てないんじゃないか。なんだか俺たちは、強大な力にコントロールされている気がする。」
向井は私を一瞥する。私は首を傾け、微笑む。
「負けた人は、自分の秘密を教えるんだったよね。」
そうだよねー、と私は隣の男の子に確認するふりをする。男の子は、うなずく。大分、明るくなってきた気がする。
「いや、それもおかしいんじゃないか?そのルールさ、さりげなくこの少年のこと知るために作ったルールだろ?それなのに、俺らはまだこいつの名前すら知らないぞ。俺の情報が外に漏れていくだけだ。」
プライバシーの侵害だ、と杉山は声高に主張した。確かに、杉山は大方のことは暴露していた。好きな芸能人、スポーツ、趣味、つき合った人数、その人たちの名前、そして要求していないのに別れた理由など、もうこれ以上言うことないでしょ、というくらい話し尽していた。
私が杉山にここまでしたのには理由がある。向井の二重人格についてだ。私はしばらく向井の側で観察していたのだが、どうやら私の前では「向井蛍」は「向井」でしかないらしい。相性というものがあるのか、なかなか「蛍君」にはならない。
「向井」に秘密を暴露させていくということもできたのだろうが、それよりもずっと側にいる杉山に聞いた方が早い気がした。実際、秘密を暴露するとき、棚を開けると見えそうになる大人の本を隠すような色が見えていた。
どうするかなあ、秘密秘密、と杉山はシャッフルした山札を置き、腕組をして悩み始めた。向井に視線を送る。言ってもいいのかなあ、と確認するようでもある。一方の向井は、勝手にしろ、と半ば投げやりな表情を見せる。
そのとき、またインターホンが鳴った。
「お客さんか?」と杉山が解放感のようなものを滲ませて尋ねてきた。
「迎えに来たんじゃない?」と私はわずかな望みと知りながら、男の子を覗き込む。
「お客さんだろうな。」と向井が全てを見通した口調で応える。
私は立ち上がり、インターホンの受話器を取る。
「はい。」
「杉山君にお届けものです。」
言いたいことはたくさんあった。私は一度受話器から顔を離し、杉山を見る。すると、杉山は立ち上がり、玄関に向かって歩いていった。
「ちょっと、勝手に出ないでよ。」
私は、受話器を元の位置に戻すと、杉山の後を追いかけた。
「ようこそ、一成。まあ上がれよ。」
そこに立っていたのは、無秩序にはねている髪に不格好な眼鏡をした青年だった。手には傘ぐらいの長さの細長いものと、紙袋が握られていた。
「楓さん、おじゃまします。」




