楓8
曲がり角を曲がったところで私は膝に手を置き、肩で息をしていた。念のため、後ろを確認するが、杉山はついてきていないようだった。
前に向き直ると大きなため息とともに再び膝に手を置いた。2、3回深呼吸したあと、私は背筋を伸ばし、目の前に見える自宅に向かって歩きだす。
そこには男の子がいた。私が自宅に近づくにつれ、小さくうずくまる男の子の幼さと小ささがより一層はっきりしてきた。
すすり泣きの声が聞こえる。迷子だろうか。見知らぬふりをすることもできたかもしれないけれど、玄関の前にうずくまられていては流石に声をかけざるを得ない。
「どうしたの?私の家に何か用?」
男の子は顔を上げずに泣き続ける。私はしゃがみ込み、男の子の顔を覗き込むようにしてもう一度尋ねる。
「もしかして、迷子?」
ようやく、男の子は顔を上げる。しかし、顔は両手で覆ったままだ。
「助けて、お姉ちゃん。」
男の子はしゃっくりを交えながら、何とか言葉を発した。真っ暗な森の中に放り出され、どこまで歩いても同じような風景しか見えない、そんな感じの色だ。
「どうしたの?何かあったの?」
私は男の子の頭をさすりながら尋ねた。すると、男の子は再び顔を膝にうずめ泣き続けた。
えっと、こんなときどうすればいいんだっけ。私は頭の中にある引き出しをひっくり返し、マニュアルを何とか見つけ出し、目次で検索する。しかし、そこにあったのは「やさしく接しなさい」という曖昧なアドバイスだった。それでも、私はやさしく接することにする。
「えっと、もしよかったら家に上がる?」
それはいい考えだ、と我ながらに思った。落ち着けば何か話してくれるかもしれないし、もしかしたら自己解決して家に帰ってくれるかもしれない。男の子は顔を両手で覆いながら立ちあがった。
私はカバンから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。差し込んだ後、指先に手ごたえを感じながら鍵を回す。家に男子を入れるのは今日が初めてだな、とくだらないことを思いながら扉を開ける。




