晴れのち僕と彼女⑦
『晴れのち僕と彼女』
僕が次に目を覚ましたのは、大嫌いな病院の病室だった。
僕は目を覚ましても、全く動こうと思わなかった。
ただ、白い天井を見上げた。そうしてないと、また涙が溢れそうだった。
「彼女にまた・・・会えなかったな・・・・」
しばらくそうしていると、誰かが部屋に入って来た。
僕は父さんが入ってきたのだと思った。しかし、入ってきたもののベッドのカーテンをなかなか開けない。
「父さん・・・?」
僕は不振に思って声をかけた。
「はずれ」
カーテンが静かに開けられた。
ボクは目の前に居る人を見た。
「え・・・なんで?」
ボクの目の前には彼女が居た。
彼女は微笑んで僕を見ていた。
死んだと思っていた彼女が目の前で笑ってる。
車椅子には乗っているけど足も付いている。
「もう・・・2日も高熱で全然意識もなかったから・・・」
僕は訳が分からず、ボーっと彼女を見ていた。
「なんでここに?」
「え?お見舞い」
「手術は?」
「無事成功。足だってちゃんとあるでしょ」
それはさっき確認した・・・。
「じゃ・・・僕が見たのは・・・」
「どうしたの?」
彼女は僕の顔を覗き込む。
「川原から病院に着いて・・・手術室の前で・・・医者が・・・・」
「もしかして・・・!!」
彼女は僕の言葉をさえぎって言った。
「君!!お医者さんの話を聞いてすぐに走っていった?」
「は・・・はい」
「やっぱり・・・」
彼女はそう言ってため息をついた。
僕は未だに訳が分からない。
「手術室間違いだね・・・」
「え?」
「私が手術したのは、その隣の隣」
「へ?」
「君は行く手術室を間違えたんだよ」
なんだそれ・・・・。
「私と仲良くしてくれてる看護婦さんが言ってたんだ」
「手術中に亡くなったおじいさんのお孫さんらしき人が走って出て行っちゃったって。けど後からそのおじいさんにはお孫さんが居ないことが分かって」
「は・・・ははは」
笑うしかない。僕は勘違いをしてこんなに風邪を引いて、また大嫌いな病院に入院して・・・。
「僕の涙はムダだったのか」
僕は思わず口に出してしまった。
「泣いてたの?」
「え!!いや、その・・・あの・・・・ハイ」
僕はなんとかごまかそうとするが、無理だった。
なんて情けないやつだと思われたんだろう・・・。
僕はゆっくり顔を上げようとした。
「顔あげちゃだめ!!」
彼女は僕の頭を布団に押し付けた。
「うぐっ!!」
な・・・なんで・・・・
「あ!!ごめ!!」
彼女は謝りながらも僕の頭の上に押し付けている手は避けようとしなかった。
「あの・・・・」
「も、もう少し・・・待って!」
彼女の声が少し震えている気がした。
「泣いてるんですか?」
今度は僕が彼女に聞いた。
「な、泣いてなんか・・・ただ少しあくびが・・・」
彼女はなかなか意地っ張りらしい。僕は自分で彼女の手を避けて顔を上げた。
「まだ待って!!」
彼女は急いで顔を隠す。やっぱり泣いていた。
「あくびだからね!!」
「はい」
本当に意地っ張りだ。
僕は彼女を見た。
もう会えないと思っていた彼女が僕の目の前にいる。あくびだと言い張って顔を隠して、うつむいている。
僕は彼女の髪に触った。相変わらず、黒くてきれいな髪だった。
「もう少しして・・・・二人とも体が良くなったら・・・」
彼女は少し顔を上げる。目の周りが少し赤くなっていた。
「また・・・川原に行きましょうね」
彼女はまた目に涙をためていた。
彼女はまた俯いて、そして本当に小さい声で言った。
「・・・うん」
これは五月の特に珍しくない日に始まった、気の弱くて、人をあまり信じなかった僕と、意地っ張りで、気が強いけど人一倍寂しがり屋な彼女の物語。