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ただしイケメンに限る! 6

「先ほどは完敗でした、凸村かえでさん」


 狭い竪穴式住居を離れ、総勢50名ほどの一団はぞろぞろとジャングルの小径を抜け、中心市街地へ向かう。


「ううん、ジンもいいダンスだったよ! ミスがなかったらどうなってたか! あとかえでちゃんって呼んで!」

「承知しましたかえでちゃんさん。で、どうしてここが?」

「ネレイアにメッセージ送ったら教えてくれたよ?」


 しれっとした顔で先頭を歩くネレイアを捕まえる。作戦会議だっていったでしょう、どうしてそのターゲット本人を呼ぶんですか、と詰問するが、まるで留守宅に残していった室内犬が「勝手に植木鉢が倒れてましたよ! ボクはただの目撃者です!」とでもいいたげな時の顔をして、「不明点があれば本人に確認するのが最も効率的でしょう」、と言った。

 あまり細かいことをちくちく追求するのも紳士らしくはない。極力ポジティブな紳士に変わろうと決めたばかりだ、せっかくだから本人からいろいろと情報収集するのもいいだろう。なれなれしいのは気にかかるが、ジンにとってはそれほど不快ではない。


「仕方ないですね。じゃあ、いくつか気になっていたことを質問させていただいてよろしいですか? 僕たちは、打倒かえでちゃんさんというテーマで少々ミーティングをしていたんです」

「えーっ!? そんなー。ボクそんなに大したことないよー。ちゃんとした人とあたったらたぶんすぐ負けちゃうとおもうよー」


 一応自分もちゃんとしたダンサーのつもりだったんですが、とジン。いやいやネガティブ禁止! 足の故障からのブランクがあったしパートナーとの練習時間も足りていなかった。素人同然扱いもやむなしというところとせねばと自らを戒め、小リスのようなまなざしでジンを見上げるかえでちゃんにさらなる質問を投げかける。


「ところで、かえでちゃん、というのは本名ですか?」

「ジン。それが本当に攻略に必要な情報なのですか」


 ネレイアの生ゴミと資源ゴミを分別するような視線を受け、ジンの背筋はぶるっと震える。とはいえいつもこんな表情だったような気もするので深くは考えない。ポジティブ!


「本名はかえでだけど、プレイヤーネーム設定でかえでちゃんにしたんだー」

「はっきり申し上げて、少々変ですよ?」


 目を大きく丸くして驚くかえでちゃん。いちいちリアクションが大きい。


「でもでも、前にも言ったけど、こうしとくと、ほかのプレイヤーさんから呼び捨てにされにくいから! たかしさんだって乱暴だけど、テメーコラかえでちゃんって呼んでくれたらなんかちょっとフレンドリーな気分になるよね!」

「オレをたかしって呼ぶんじゃねーかえでボーイ! かえデコヤロウ!」

「ごめんごめん、バーニンたかしさん? ほら、ボクもちゃんと呼ぶから、バーニンさんもかえでちゃん、って呼んでね?」


 にっこり。金髪に近い色素の薄い髪が、それ自体光を発しているわけでもないだろうに、バーニンたかしはうっ、とまぶしげに顔をしかめ、よろけてメンバーに体を支えられる。


「う、うるせー。いいか、オレは、オレだきゃーぜってーにテメーとは馴れ合わねえ! いくぜ、ヤロウども! お友達ゴッコはここまでだ」


 メンバーを集めて街道マップを外れていこうとするバーニンたかし。ジンからすれば、たかしがなぜそこまで依怙地になっているのかわからない。違うダンススタイルだろうと、勝ち負けにこだわらず、お互い技術交流していけばいいのではないか。


「おい、たかし。いいじゃないか別に一時の勝ち負けにこだわらなくても。負けて得るものだってあるし、かえでちゃんさんのいいところも取り入れて、また再戦を申し込めば」


 なにも負けたからって、かえでちゃんさんがモテるからといって、バーニンクルーズがむさ苦しい男ばかりだからといって。ジンはバーニンたかしに負けて学ぶところはたくさんあったし、ダンスに対する感情も変わった。バーニンたかしだってかえでちゃんさんに負けて、感じるところがあったのではないか? ステップアップするチャンスなのではないか? ジンはたかしを追って声をかける。だが、


「ジン、テメーはなんにもわかっちゃいねえ。それから、何度もいうが、オレをたかしって呼ぶな。いいな?」


 初めて出会ったときのように。

 バーニンたかしたちは街道をはずれ、ジャングルへ飛び込んでゆく。ジンはその後ろ姿になんと声をかけていいかわからず、決まり悪げにあたまをかく。


「ではジン。COMに到着後、ダンスレッスンの続きをお願いできますか? 本日は当初予定のカリキュラムを消化していません」

「え、ええ……」


 まるで空気を読まないネレイアが、邪魔者がいなくなって好都合とばかりにジンを急かす。

 

「いや、今日は……帰ります。すいませんが」

「なにかご予定が?」

「ええ、まあ。いろいろあって、時間も使ってしまいましたから、そろそろ帰らないと」

「そうですか」


 いつも能面のように無表情なネレイアの顔に、心なしか不満そうな表情が浮かんだような気がして。また明日必ず、今日の文の埋め合わせも含めて、と、ついしなくてもいい割り増しの約束をして、ジンはBEAT/rythmationをログアウトした。



 翌朝、メッセージボックスを開いたジンの元に、ネレイアから一通のメッセージが届いた。それは、あの後バーニンクルーズが見事ワールドボスを発見したということ、あっけなく惨敗してしまったということ。そして、そのままログアウトして以降、ボス情報を聞きたいと願うフレンド、次のアタック予定を確認しようとするバーニンクルーズメンバー、誰のメッセージにも返事を寄越さず、連絡が取れなくなってしまった、という知らせだった。


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