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ただしイケメンに限る! 5

「BEAT/rythmation。それはダンスを題材としたMMORPGである。各プレイヤーは自らの身体能力によって自らのダンスを――」


 ジンたちがベースキャンプとしている竪穴式住居の片隅で顔面を壁に密着させ、なにやらぶつぶつ言っているネレイアは放っておく。


「さあ反省会ですがまずはバーニンたかしさん。一般的に岡目八目といいますが、端から見てなにか気がつくところはありましたか?」


 歴史的大敗の後、そのまま恒例のたまり場となった町外れ、安全地帯のボロ屋に集合する。チャリ、と身につけたチェーンアクセサリ類の音も湿気のせいか鈍く、バーニンたかし始めとするバーニンクルーズメンバーは思い思いに剥き出しの土に腰を下ろして車座となる。無理もない、まさかこれほどの大差がつこうとは――。


「まさかかえでちゃんのヤロウが男だったとは――」

「そこですか」


 まったくだぜ……オゥホーリィシット。バーニンクルーズメンバーのむさ苦しい嘆きがじめじめした室内に籠もってうっとうしいことこの上ない。


「それはさておき! はいはい! 対策を練りましょう! ほらネレイアさんもこっちきて! まずはバーニンたかしさんから!」

「お、おう。そうだな。ま、わかっちゃいたことだが、ダンス自体は大したこたぁねえ」

「大したことはない、っていうのは言い過ぎですが。そもそも、フリースタイルというのはああいうジャンルなんですか?」


 そもフリースタイルとは、と口を開きかけたネレイアの前に身を乗り出すバーニンたかし。


「あんなもんは器用貧乏! Hey yo poor? ってなもんだぜ! 一つのジャンルに絞ると下手がバレリin’ night with テメーのジャンル背負うことから逃げてやがんだ!」

「たかしさん、まずストリートダンスに関して赤子も同然であるジンに説明するという主目的からすると、いささかフリースタイルの辞書的意味からかけ離れすぎています。まず一般的にフリースタイルとは……」


 ネレイアの解説によれば。フリースタイルとはひとつのジャンルにとらわれず、複数のダンスジャンルを組み合わせて踊るスタイルのことだという。ジャズとヒップホップ。ハウスとソウルとブレイキン。そうすることでそれぞれのジャンルの長所を取り入れ、相乗効果が生み出されるのだという。


「複数のダンスジャンルを学ばなければならないため、一概にスキル一本伸ばしより楽だとはいえないでしょうね。むしろどのスキルも未熟になってしまえば全体として中途半端な完成度となるリスクもある」

「DA・KA・RA・NE! オレはあんなチュートハンピングなやつぁ認めねーっつってんだ!」

「認めないのはいいんですけどねたかしさん」

「たかしって言うんじゃねー」

「失礼バーニン。じゃあ実際どうやって勝つんですか?」

「それに関しては私にいささか有益と考えられる提案があります」


 挙手するネレイア。相変わらずの無表情ながら、ぴっとまっすぐに伸びた指先が力強い。ノースリーブの脇も大変綺麗でついと視線を逸らすジン。紳士である。


「イササカユースフルなんざヌルいこといってんじゃねー。絶対勝つ! そのバーニンソウルがねえアイデアはノットインカミングだぜ」

「では訂正しましょう。このマーキュリー・スフィアのワールドボス。これを倒せばレア舞器をドロップするとの情報を入手しました」

「Oops、でやがったなレアハンター」

「その舞器の装備エフェクトは、『対戦中、敵味方全てのインプレッション評価判定を減らす』効果があるということなのです」 


 おおっ、とどよめくバーニンクルージーズ。勝ったも同然だぜ! ヒャホー! にわかに活気づく。


「というと、どういうことですか?」

「なんだ鈍いぜジン! そいつさえありゃあ、かえでちゃんヤロウの得意ポインツを減らしンツアタッキンツできるってことだろうがよ!」

「あんまりピンときませんが、こちらのインプレッションポイントも減るなら、あまり変わらないのでは?」

「なにいってんDadadaジーン! オレらはインプレッションヘッティンSo不利でもないが、インプレッション頼りNightsなかえでちゃんヤロウにとっちゃあ致命傷なはずだぜ!」

「ジン、例えば180ポイントのインプレッションが3割減するとマイナス54ポイント。我々のインプレッションを仮に80ポイントとすると同率で減少して24ポイントの減です。その差、30ポイントがそのまま、通常状態で戦うよりこちらが有利となる点数となります。ですから、他の分野で我々が上回ってさえいれば、インプレッションによる点差をかなり縮めることができるといえるでしょう」

「うーん、数学は苦手なんですが……ただちょっと」


 腕を組み、ジンは首をかしげる。


「ともかく! こうなりゃ、そのレア舞器はy’know? オレたち灼熱! バーニンクルーズがいただくっつーの!」

「愚かな。あなた方に入手できるものなら既に誰かに入手されていてもおかしくはないでしょう。本件は、私が確保した舞器をあなたがたに一時的な復讐目的のためだけに貸し出して差し上げても構わない、という提案です」

「Are’n? おバカさんってんじゃねー! オレ達はただ単に、ちょっち情報収集が苦手なだけだっつーの! そうだよなお前ら!」


 ヒャホゥゥゥゥ そうだぜー! オレ達! 燃える口下手のバーニンクルーズ! Yeah!



「こーんにちわー! ジン、いる?」

「ででででででやがったぁー!」


 竪穴式住居の入り口を覆っていたすだれ一枚がぱらっとめくれ、おぼこい顔がにゅっと突き出される。


「わ! ネレイアも、バーニンたかしもいるんだ! こういうの秘密基地っていうんだよね! いいなー」

「いらっしゃい凸村さん」

「Ohテメーかえでヤロウメーン、どの面下げてノコノコノッキンオンザオレ達のアジトズドアーだあ!?」


 両手足をばたばたさせて切り株いすからひっくり返るバーニンたかし、このことを予期していたかのようにその椅子をとりあげてかえでちゃんに勧めるネレイア。わあいいなこれ! といってかえでちゃんは臆する様子もなく、ぱぱっと椅子に座ったかとおもうと、ごめんごめん、といって玄関先に戻り、カーキ色のカーゴパンツの尻や裾についた泥のようなものをぱたぱたとはたいてからもう一度椅子に座った。


「お友達のみんなもはいってもいいよね! みんなもおいでよー!」


 わらわらと大勢のプレイヤーで玄関が埋め尽くされる。お嬢さん風、ストリートファッション風、様々な男女が続々と室内に詰めかけ、30人を越えてもまだ人の列が止まる様子がない。入ってくるなり室内をきょろきょろと興味深げに物色する者、かえでちゃんファンクラブもこういうの一軒作ろうよ! とかえでちゃんにまとわりつくもの、さっそくバーニンクルージーズと小競り合いを起こす者。

 見かねてジンがパーンパーンと手拍子をうつ。


「はいストップストップ! そこまで! はーい注目! いっぺん外にでますよ!」


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