ただしイケメンに限る! 3
「最近調子よさそうだね、アルチン」
「そろそろ小学生でもあるまいし、アルチンはやめて欲しいんですけどね、むらけー?」
翌朝。一時限目が終わり次第、ジンはクラスメイトの上村圭、通称むらけーに声をかけられる。数少ない、昔から続いている友人で、ジンが大怪我をしたときに も、「俺はお前の内面と友達になったんだ、外傷があろうがなかろうが、そんなもん関係ない!」といってくれていたく感動し友情を深めあったのだが、あとでそれがとあるラノベのセリフのコピペときいて大いに落胆したものだった。
「ところでですね、ちょっと相談があるんですけど」
「おう! いいよ! この現代に生きる陰陽師、上村圭が魑魅魍魎の類、悪鬼羅刹の輩、恋愛成就のお悩みまでなんでもこの神器・落星垂天光陣でもって」
といって五芒星のペンダントを制服の胸元から取り出す。神器ってそれ京都の晴明神社で1000円くらいで買ったやつだろ。中三の修学旅行で一緒に行ったから知ってる。
「いやいやそういうのはいいから。今回は、むらけー殿のゲーマーとしての力をお借りしたい」
「時は平安、ナントカの帝の世。都に聞こえし陰陽師・安倍晴明の二件隣に住んでいたご先祖様が」
「なんか設定増えてますね」
「いやさ、足に地のついてない厨二病設定も、そろそろ卒業しないとな、と思ってさ……。重厚な設定作りならまずは歴史考証からだろ」
「そうかーまーそれはどうでもいいです。実はですね」
ジンは昨夜バーニンたかしから聞いた話をかいつまんでむらけーに伝える。彼は大変アレだがゲームに関してはストイックであるので、何かアドバイスが貰えるのではないかと思ったのだ。
「それ、単純にプレイヤーのスペック差ってことは? その判定が正しいとすると最初っから全然能力値的に勝負になってないということもあるだろ」
「それはないと思いますね。その友人はそれなりにレベルも高いし、相手の方がレベル的には下だと」
「裏ワザはないの?」
「さあ、まだそこまで詳しいわけでは」
「そっかー」
五芒星のペンダントをいじくりながら、もう片手で小型携帯端末をなにやら操作していたむらけーだったが、
「ちょっと考えとくけど、ルール上有効な組織票かー。でもそれって、ゲームで脳を、いや、でもそのそもそのゲームがなー……」
「ねねねーねー? なんのはなし? ゲーム脳? 脳ゲーム?」
「うるせーミソニー! 男同士の大事な話だ」
「佐波さん、おはよう」
佐波アミさん。相変わらず立てばひまわり座れば奇矯、歩く姿はまあ大変アレなひとであり、むらけー家が自宅で経営するステーキハウスとは昔からのお隣さん同士だ。
「なんでもねーって。最近アルチン、足が調子よさそうだなーって」
「あ! そうだよねー! なになにいよいよ社交ダンス再開したのかい? かいのかい?」
「いえいえ、MMOダンスゲームの中だけの話だけどね」
「へー! じゃあバーチャルダンサー丹後ジンだね! ふぉぉバーチャルとつくとなんか全部かっこいく見えるの法則! バーチャル豆腐! バーチャルがんもどき! しまったバーチャルともどきで意味がかぶってしまった……のか?」
「まーなんでもいいけど、仮想世界だからってあんまり過信しすぎんなよ」
バーチャル大造じいさんVSがんもどき仮想王決定戦! いやー始まりました世紀の一戦。鉄砲で撃ったりしてさ! 食ったりしてさ! ヌハハバカめお前が食べたのはがんもどきではないバーチャルがんもどきだ! とか言いながらあっちの世界にいってしまったアミさんをいつものようにスルー。携帯端末を閉じ、ポケットにしまうむらけー。いつになく真面目な表情に、ジンは違和感を感じたが、
「うん、ありがとう。まあ、踊りの型を思い出す役には立ってるかな」
「ゲーム内で踊ってるのが、足にとってもいい影響になってるのかもな。そもそも俺達陰陽師にとっては……」
まだその設定で押すのか。
「本物そっくりに作られた仮想の存在、いわゆる藁人形のようなヒトガタであるとか、祭壇であるとか。そういった複製物に対して害を与えると少なからず本体に影響を与えたり、逆に本体の被害を複製物に逃したり、複製物を修理することで本体にいい影響を与えたりすることがあるとされている。それを我々は専門用語でこう呼ぶ……」
バ! バ! と指で複雑な印を組む。
「離!」 バババッ
「破!」 バッバババ
「備!」 バッ……バババ
「里!」 バァン
「……とな――」
「それ横文字だー!」
アミさんのショートボディアッパーツッコミが突き刺さり、むらけーは「なん、だと、守護、結界が」とかなんとかいいながら「く」の字になり、教室の床に崩れ落ちた。