ただしイケメンに限る! 1
「う、あぁ……やめ、もう、保たない……」
「だらしないですね。まだまだ……全て吐き出してしまってください」
仮想世界とも思えぬジメっとした典型的なジャングルに、人知れずぽつりと、冗談のような竪穴式住居がひとつ。
中で寄り添う人影がふたつ。
「……とはいえ、一応こう見えても社交ダンスもう10年もやってるわけですからね、それを全部今ここで教えろって言ってもちょっと……」
「問題ありません。詰め込み学習は得意分野です。続きを」
へたり込む小太りの男子を見下す銀髪の美女。なんらかの教育を受けている最中であるのは一見して小太り男子の方ではあったが、実際のところ小太りの男子は社交ダンス業界ではいっとき期待の俊英として知られた「丹後ジン」。彼が社交ダンスのテクニックを伝授する側であり、一方社交ダンス用の5cmハイヒールを履いて姿勢もよく、ファンタジーの国の宮廷魔術師とでもいうようなオーラを放つ女性「ネレイア」は社交ダンス歴1時間。
「しかたがありませんね」
口の端を吊り上げて笑みを浮かべるネレイア。目は笑っていない。
「先生。あなたに360秒の休憩を許可します」
「……ありがたき幸せ」
◇◇◇◇◇
『BEAT/rythmation!』はダンスをテーマにした体感型オンライン対戦ゲームである。
プレイヤーは各自ダンススタイルを持ち、対人戦や対コンピュータ戦(いわゆるMOB狩り)でダンススキルを磨き、そうしてまた対人戦へ臨む。
先月プレイを開始したばかりの丹後ジンも、このゲームにすっかりハマってしまい、時間さえあればログインしてはダンスに没頭した。両親には「ダンスのリハビリ」と説明し、「ようやく本気になってくださったのね」「父さんは知っていた。お前の中の眠れる獅子は今不死鳥となって」などといたく喜ばれたのにはすこし胸が痛まなくはない。うっとうしい両親だが、いろいろ思うところもあるのだ。
それでも、単純にこの楽しさはやめられない。友人と呼べるようなものもできた。社交ダンスを教える相手も。それに、仮想空間とはいえ毎日のようにダンスを踊っているせいか、どことなく足の調子もよくなってきているような気がする。
誰にとってもいいことづくしじゃないか。
それが、丹後ジンにとっての『BEAT/rythmation!』。
◇◇◇◇◇
「HeyなにやってんDadadaジーン!」バーン!「……と扉を開けた俺バーニンたかし特派員がWatchOut! 見たものはおっとWatchUp!」
「薄暗い室内、男女二人 in Night、聞こえるかいそうCryCryCry……」(コーラス)
「男女二人ひとつ屋根ですることったらひとつしかない! 2つもあるか? いや3つだってあるさ! ココロピュアにすりゃさ! Hey、1、2、3、 Ho!」
「La―La―La―Wooo――♪ La―La―La―Wooo――♪ アーオッ アッサンバッサンバッサンバッサンバッ バッ」
「変態だ……」
この奇人とバックコーラスのみなさまはバーニンたかしとそのチーム、『灼熱バーニンクルーズ』。このゲームの先行プレイヤーにして初めて因縁をつけられた相手で、
「No HENTAI! 俺タチの連帯そんなもんだったのかいHey Hold me tight!」
「変態だ!」
ジンにとってはこっちで初めての友人といえる相手でもある。




