第8話 王女と公爵令嬢の異常なパワーレベリング。地下迷宮のボスは二人が美味しくいただきました
王立魔法学園の敷地の地下深くには、建国以前から存在するとされる広大な『古代迷宮』が広がっている。
学園はこの迷宮の浅層部分を安全な実習場として管理し、生徒たちの実戦経験を積ませるための場として利用していた。
そして今日、僕たちSクラスの生徒に課せられたのは、この地下迷宮での魔物討伐およびマッピングの特別実習である。
「当然ですが、私共はアレン様と同じパーティですわね」
「ええ、私たち四人で組めば、どんな課題も恐れるに足りませんわ」
迷宮の入り口となる巨大な鉄扉の前で、シャルロット王女とベアトリス公爵令嬢が僕の左右にぴったりと寄り添ってきた。
僕の背中には、正妻の余裕を見せるリズが張り付いている。
四人一組というルールの発表と同時に、息をするようにこのハーレムパーティが結成されてしまったのだ。
周囲の男子生徒たちからは血の涙を流すような視線が向けられているが、先日の決闘での僕の圧倒的な力(と残虐性)を見せつけられた彼らは、もはや文句を言う勇気すら持ち合わせていないようだった。
「今回の実習は地下三階までのマッピングと、指定されたゴブリンの討伐だ」
引率の教師が厳しい声で説明を続ける。
「決して地下四階以降へは足を踏み入れないように。あそこから先は未踏破エリアも多く、Cランク以上の凶悪な魔物が徘徊している。君たちの実力では命に関わるぞ」
教師の警告に、生徒たちが緊張した面持ちで頷いた。
実習の合図と共に、各パーティが次々と薄暗い迷宮の階段を下りていく。
僕たち四人も、備え付けの魔石ランプを片手に迷宮の探索を開始した。
地下一階から三階までは、教師の言う通り安全に管理されたエリアだった。
時折現れるゴブリンやスライム程度の魔物は、シャルロットの小さな火球や、ベアトリスの氷の矢で簡単に片付いてしまう。
「アレン様、いかがでしたか、私の今の魔法のコントロールは」
「詠唱の短縮も魔力の燃費も完璧ですわよね、アレン様」
魔物を倒すたびに、二人が僕の方を振り向いて褒めてほしそうに頬を染める。
僕は苦笑いしながら二人の頭を撫でてやった。
「二人ともすごく筋がいいよ。でも、魔力の放出に少し無駄がある。もっとターゲットの急所一点にエネルギーを収束させるイメージを持つといい」
前世の理系知識をベースにした僕のアドバイスは、この世界のどんな優れた魔導書よりも的確で効率的だ。
僕の指摘を受けた二人は、目を輝かせて何度も頷いた。
そうしてあっという間に地下三階の最奥、下層へと続く階段の前に到着してしまった。
課題の討伐数もマッピングも、開始からわずか一時間で完了してしまったのである。
「つまらないですわね」
シャルロットが階段の奥へと続く暗闇を見つめながら、不満そうに唇を尖らせた。
「ええ、アレン様からせっかく素晴らしいご指導をいただいているのに、これでは実力試しの相手にもなりませんわ」
ベアトリスもまた、退屈そうに自分の杖を弄っている。
二人の瞳には、明確な好奇心と闘争心が宿っていた。
「ねえアレン様。私たち、行けるところまで行ってみたいですわ」
「教師の許可など事後承諾で構いません。私共の権力でもみ消せますわ」
「……本気で言ってるのか」
僕が呆れたように問うと、リズが僕の肩をポンと叩いてウインクをした。
「いいんじゃない?私が前に立って全部守るからさ。アレンがいれば絶対に安全だし、二人の魔法の特訓にもなるよ」
「……はあ。分かったよ、君たちがそう言うなら」
僕は大きな溜息を吐きながら、左腕のリストバンドを起動した。
視界の端に青白いホログラム画面が展開される。
【天界の端末を起動します】
【索敵・指揮アプリをバックグラウンドで実行中】
【半径一キロメートル以内の生体反応をマッピングします】
僕の視界には、壁の向こう側に潜む魔物の位置や種類、さらには弱点属性までがすべて可視化されたARマップが表示されていた。
これさえあれば、不意打ちを受けることも、勝ち目のない敵と遭遇することもない。
こうして僕たちは、教師の忠告を完全に無視して地下四階以降の未踏破エリアへと足を踏み入れたのである。
「前方十メートルの曲がり角の先、ストーンゴーレムが二体。シャルロットは右の個体の関節部分を炎で熱してくれ。ベアトリスは左の個体の足元を凍らせて動きを止めろ」
僕の的確な指示が飛ぶ。
未踏破エリアの魔物は確かに強力だったが、僕の【指揮アプリ】によるリアルタイムの戦術指南と、二人の魔法の才能が合わさることで、戦闘は完全に一方的な蹂躙へと変わっていた。
「はいっ!エクスプロージョン!」
「凍てつけ!アイシクルピアス!」
シャルロットの放った極小の爆炎がゴーレムの膝関節を破壊し、ベアトリスの放った氷の槍がもう一体の頭部を貫く。
もし敵が魔法を耐え凌いで距離を詰めてきても、そこには最強の物理防壁であるリズが立ちはだかっていた。
「甘いよ!そこはお呼びじゃないから!」
リズが剣の峰でゴーレムの巨体を軽く弾き飛ばす。
彼女は決して敵を倒し切らず、あくまでシャルロットとベアトリスの魔法の的になるようにヘイトを管理し、絶妙な手加減で立ち回っていた。
「素晴らしい連携だ。二人とも、さっきより魔法の威力が上がってるぞ」
僕が後方から褒めると、二人の令嬢は汗を拭いながらも満面の笑みを浮かべた。
僕のアドバイスと、実戦でのギリギリの攻防。
これが彼女たちの潜在能力を限界まで引き出し、異常なまでの速度でパワーレベリングを進行させていた。
最初は魔力切れを恐れていた二人だが、僕がこっそりと【魔力譲渡アプリ】を使って空中の魔素を彼女たちの体内に流し込んでいるため、彼女たちは自分たちが無限の魔力を持っていると錯覚して魔法を撃ちまくっていた。
地下五階、地下六階。
僕たちは休むことなく迷宮を突き進んだ。
CランクやBランクの魔物たちが、王女の炎と公爵令嬢の氷によって次々と塵に変わっていく。
そして数時間後、僕たちは地下七階の最奥にある、巨大な両開きの扉の前に到達していた。
【警告:扉の向こうに巨大な高密度の魔力反応を検知】
【対象:迷宮の守護者・ミノタウロスロード(Aランク相当)】
ホログラム画面の警告を見て、僕は足を止めた。
さすがにAランクの魔物となれば、学生の手に負えるレベルではない。
「ここまでだな。この奥には迷宮のボスがいる。実習の範囲を遥かに超えているし、ここで引き返そう」
僕が提案すると、扉の装飾を見つめていたシャルロットとベアトリスが、顔を見合わせて不敵に微笑んだ。
「アレン様。私たち、戦ってみたいです」
「ええ。今の私たちなら、アレン様のご指導とリズ様のお力添えがあれば、絶対に勝てる気がするのです」
二人の瞳に恐怖はなかった。
あるのは、自分たちの成長に対する絶対の自信と、大好きな僕に「最高の自分たち」を見てほしいという純粋な乙女心だけだ。
僕は少しだけ迷ったが、リズが「私が絶対に二人を死なせないから」と力強く頷くのを見て、腹を括ることにした。
「分かった。でも条件がある。僕とリズはあくまでサポートに回る。とどめは君たち二人の力だけで刺すんだ」
「はいっ!」
二人の元気な返事と共に、巨大な扉が重々しい音を立てて開いた。
ドーム状の広大な空間の中央に、筋骨隆々の巨体に漆黒の斧を持った牛頭の怪物、ミノタウロスロードが鎮座していた。
「ブルルルルォォォォォォッ!!」
侵入者を感知したボスが、空気を震わせる咆哮を上げて突進してくる。
その圧倒的な圧力に、普通の学生なら腰を抜かしていただろう。
しかし、シャルロットとベアトリスは一歩も引かなかった。
「私から行きますわ!ベアトリス、合わせて!」
シャルロットが杖を掲げ、全魔力を込めた極大の炎球を生み出す。
それを見たベアトリスもまた、シャルロットの炎を包み込むように絶対零度の氷の渦を発生させた。
炎と氷。
相反するはずの二つの魔法が、僕が事前に教えた「熱力学の法則」による気圧変化を利用して、ひとつの巨大な熱嵐へと融合していく。
(よし、ここだ)
僕はミノタウロスロードが斧を振り下ろそうとした瞬間に、スマートウォッチの【重力操作アプリ】をほんの一瞬だけ起動し、怪物の足元の重力を十倍に引き上げた。
「ブゴッ!?」
目に見えない重力の鎖に足を引っ張られ、ミノタウロスロードの体勢が大きく崩れる。
そこへ、リズが音速の踏み込みで怪物の懐に潜り込み、剣の腹で強烈なアッパーカットを見舞った。
完全に空中に浮き上がり、無防備になった巨体。
そこへ、王女と公爵令嬢の放った融合魔法が直撃した。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!
迷宮全体が崩落するかのような大爆発が巻き起こった。
超高温の炎と極低温の氷が同時に叩きつけられたことにより、ミノタウロスロードの頑強な肉体は限界を超えて熱収縮と膨張を繰り返し、内部から完全に粉砕された。
黒煙が晴れると、そこには魔石だけを残して消滅したボスの痕跡だけがあった。
「やった……やりましたわ、アレン様!」
「私たち、Aランクの魔物を、自分たちの力で討伐できましたのよ!」
シャルロットとベアトリスが歓喜の声を上げ、僕の胸に飛び込んできた。
僕は左右から抱きついてくる柔らかい感触に戸惑いながらも、二人を優しく受け止めた。
「よくやった。二人とも、最高の魔法だったよ」
「ふふん、私のサポートも完璧だったでしょ?」
リズも僕の背中に抱きつき、四人で勝利の余韻に浸りながら笑い合った。
過酷な戦闘を共に乗り越えたことで、僕たち四人の間には、もはや誰にも入り込めない強固な絆が結ばれていた。
しかし、この行動が学園側にどれほどの衝撃を与えるか、僕たちはまだ理解していなかった。
◇
数時間後、迷宮の浅層で実習を終えていた教師陣は、僕たちが地下七階のボス討伐の証である「巨大な魔石」を涼しい顔で持ち帰ってきたのを見て、文字通り泡を吹いて気絶することになる。
「彼ら四人だけで……ひとつの小国が滅ぼせるぞ……」
学園長室で報告を聞いた教師たちが絶望的な声で戦慄する中、僕たちはそんなことなど露知らず、四人で王都の美味しいクレープ屋の列に並んで平和な放課後を満喫していたのである。
僕の不本意なハーレムは、こうして名実ともに学園最強のパーティとして、その名を王国中に轟かせることになった。




