第52話 雪山サバイバルと極限状態のかまくら密室。吊り橋効果で血迷う乙女たちのエロサスペンス
王立魔法学園の三学期には、生徒たちの限界とサバイバル能力を試す過酷な行事がある。
『北の雪山・魔獣討伐実習』である。
王都から遠く離れた極寒の雪山に放り込まれ、班ごとに協力して雪中行軍と魔獣討伐を行うという、実に体育会系な実習だ。
僕たちは完璧な防寒具を身に纏い、順調に雪山を登っていた。
しかし、山の天気は変わりやすいという言葉の通り、事態は急転直下した。
ビュォォォォォォォォッ!!
突如として、視界が完全に真っ白に染まるほどの猛吹雪、いわゆるホワイトアウトが発生したのだ。
「きゃあっ!風が、風が強すぎますわ!」
「アレン!前が全然見えないよ!」
強烈な風雪に煽られ、シャルロットとリズの声が風の音にかき消されそうになる。
「みんな、はぐれないようにお互いの手をしっかり握って!」
僕が叫び、隣にいたサクラとベアトリスの手を掴む。
しかし、引率の教師や他の班の生徒たちの姿は、すでに猛烈な吹雪の向こう側へと完全に消え去っていた。
極寒の雪山で、僕たち五人だけの完全なる『遭難』である。
「このままでは、魔獣に襲われる前に凍死してしまいますわ!」
ベアトリスが普段の冷静さを失い、焦燥に駆られた声を上げる。
「うむ……!ヤマトの冬も厳しいが、これほどの吹雪は経験がないぞ……!体が芯から冷えていく……」
サクラもガタガタと震え、刀を握る手すら覚束ない様子だった。
「大丈夫、パニックにならないで。僕に任せて」
僕は左腕の【天界の端末】を起動し、即座に安全地帯の構築に取り掛かった。
「【重力操作アプリ】で周囲の雪を極限まで圧縮し、【物質合成アプリ】で強度と断熱性を付与。巨大かまくら型・超快適シェルターを錬成!」
ズゴゴゴゴゴッ!!
僕の号令と共に、猛吹雪の中で周囲の雪が竜巻のように舞い上がり、瞬く間に直径十メートルほどの巨大なドーム状の『かまくら』が形成された。
「みんな、早く中へ!」
僕が入口を開け、四人をかまくらの内部へと押し込む。
全員が中に入ったことを確認し、僕は入り口を分厚い雪の壁で完全に密閉した。
ヒューゥゥゥゥッ……という外の恐ろしい風の音が、分厚い雪の壁によって遠くのノイズのように遮断された。
「ふぅ、これで一安心だ。かまくらの中は外気よりずっと暖かいし、断熱性も完璧にしている」
僕はさらに【物質合成アプリ】を使って、かまくらの中央に安全な薪と『暖炉』を錬成し、火を灯した。
パチパチという心地よい薪の爆ぜる音が響き、かまくら内部はすぐにポカポカとした快適な温度で満たされた。
「床にはふかふかの絨毯を敷いておいたよ。暖かいスープもすぐに錬成するから、少し休もう」
僕が完璧なサバイバル対応をこなして微笑むと、四人のヒロインたちは暖炉の火を囲むように座り込み、ホッと安堵の息を吐いた。
「さすがはアレン様ですわ……。あのような地獄の吹雪の中で、これほど快適な空間を作り出してしまうなんて」
シャルロットが凍えた手を暖炉の火にかざし、頬を緩める。
「本当に死ぬかと思ったよ……。アレンがいなかったら、私たち今頃雪だるまになってたね」
リズも毛布に包まりながら、僕に感謝の視線を向けてくる。
ここまでは良かった。
僕の現代科学チートによる、完璧でスマートな雪山サバイバルのはずだった。
しかし、問題はこの後だった。
外では猛烈な吹雪が吹き荒れ、一歩も外に出られない完全な『密室状態』。
いつ救助が来るかもわからないという不安。
そして、死の恐怖を間近で感じた直後という、極限状態による精神のバグ、いわゆる『吊り橋効果』が、四人の乙女たちの脳内でおかしな化学反応を起こし始めてしまったのだ。
「……でも、外の吹雪は一向に弱まる気配がありませんわね」
ベアトリスが毛布を肩から羽織りながら、どこか虚ろな目で宙を見つめた。
「私たちがここで生き延びたとしても、明日の朝までこのかまくらが保つ保証はどこにもありませんわ。もし、このまま誰にも見つからず、深い雪に埋もれてしまったら……」
ベアトリスのネガティブな発言が、密室の空気を急速にサスペンスじみたものへと変えていく。
「そ、そんな……!某はまだ、ヤマト国の母上に孫の顔も見せておらぬというのに!」
サクラが悲観的な想像に囚われ、涙目になってパニックを起こし始める。
「嫌ですわ!私、こんな冷たい雪の中で、誰にも知られずに一生を終えるなんて……!」
シャルロットもすっかり絶望の淵に立たされたヒロインのような顔になり、両手で顔を覆った。
「みんな、落ち着いて!僕のかまくらは絶対に崩れないし、明日の朝には吹雪も止むから!」
僕が慌てて論理的な説明で安心させようとするが、極限状態(と勘違いしている)彼女たちの耳には全く届いていなかった。
「……ねえ、アレン」
リズが、不意に立ち上がり、熱を帯びた潤んだ瞳で僕を見つめてきた。
「どうせこのまま死んじゃうかもしれないなら……私、最後にせめて、アレンの全部を感じたい」
「は?」
僕が間抜けな声を上げた瞬間、リズが自らの防寒着のジッパーに手をかけ、それを一気に引き下げたのだ。
バサッ。
分厚いコートが床に落ち、リズは薄着のインナー姿になって僕にすがりついてきた。
「ちょ、リズ!?何脱いでるの!ここ暖かいから風邪は引かないと思うけど、そういう問題じゃなくて!」
「私もですわ!どうせ死ぬなら、せめてアレン様に抱かれて、女としての幸せの絶頂の中で死にたいですわ!」
シャルロットも血迷ったことを叫びながら、防寒着を脱ぎ捨てて僕の右腕に抱きついてきた。
「公爵令嬢として、悔いの残る人生は耐えられません!アレン様、私のすべてを今ここで受け取ってくださいませ!」
ベアトリスが扇子を放り投げ、胸元のボタンを外しにかかる。
「主君よ!某も、ヤマト撫子として、最後にこの身を貴殿に捧げる覚悟ができたぞォォッ!」
サクラまでもが袴の紐に手をかけ、真っ赤な顔で僕に突撃してきた。
「待って!ストップ!服を着て!死なないから!僕たち絶対に死なないから!!」
僕は半狂乱になって叫びながら、薄着になって迫りくる四人の絶世の美少女たちを必死に押し留めようとした。
外はマイナス数十度の猛吹雪。
しかし、かまくらの中は暖炉の熱と、ヒロインたちの狂気じみた情念によって、サウナのような熱気に包まれていた。
「アレン様ぁ……私を、強く抱きしめてくださいませ……」
「アレンの熱で、私を溶かして……」
「某の初めてを、どうか……!」
「アレン様、もう我慢の限界ですわ……」
四人から前後左右を完全に包囲され、柔らかな肌と甘い吐息が容赦なく僕の理性を削り取りにくる。
極限状態のエロサスペンスは、密室のかまくらの中で完全に制御不能のラブコメディへと変貌していた。
「お願いだから冷静になって!僕のチートを信じてよ!明日には絶対助かるからぁぁっ!!」
僕は悲痛な叫びを上げながら、迫りくる四人の妻(予定)たちの誘惑に対し、自らの精神力と理性のストッパーを総動員して、朝まで地獄の防衛戦を繰り広げる羽目になったのである。
◇
そして、翌朝。
ピヨピヨという小鳥の囀りと共に、外の猛吹雪は嘘のように晴れ渡っていた。
ザクッ、ザクッという雪を踏む足音が近づき、かまくらの入り口の雪壁が外からスコップで崩された。
「おーい、アレンたち!無事かー!」
引率の教師と救助隊が、かまくらの中を覗き込んだ。
そこには。
完全な徹夜で目の下に濃いクマを作り、ゲッソリとやつれ果てた僕と。
なぜか全員薄着で身を寄せ合い、顔を真っ赤にして僕に抱きついたまま眠りこけている、四人のヒロインたちの姿があった。
「……お前ら、こんな遭難の最中に、かまくらの中で何をやっているんだ」
教師が呆れ返ったような、そして哀れむような目で僕を見た。
「違います……誤解です……僕の理性は、守り抜かれました……」
僕は真っ白になった頭でそれだけを呟き、ガクリと意識を手放した。
雪山の猛吹雪よりも恐ろしい、密室での乙女たちの暴走。
波乱の三学期のエロサスペンス実習は、僕の精神力を限界まで削り取り、学園に新たなる不名誉な伝説を刻み込んで幕を閉じたのである。




