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第13話 深夜の電撃戦。物理演算ハッキングと四人の乙女による、魔将討伐カチコミツアー

「アレン様、本当に私たち四人だけで突入するおつもりですか?」


ヴァンルージュ公爵邸の図書室で、ベアトリスが少しだけ緊張した面持ちで尋ねてきた。


「ああ。騎士団を動かせば、伯爵邸の結界に阻まれて時間がかかる。その間に証拠を隠滅されるか、最悪の場合、あの魔族が王都に被害を及ぼすかもしれない」


僕は左腕の【天界の端末】を操作しながら答えた。


「だからこそ、僕たちだけの奇襲(電撃戦)で一気に片を付ける。すでに結界の脆弱性はハッキング済みだ。僕の【空間転移アプリ】を使えば、伯爵邸の地下室にダイレクトで転移できる」

「空間転移まで……。アレン様の魔法は、本当に神の領域ですわね」


シャルロットが杖を握り締め、覚悟を決めたように力強く頷いた。

リズはすでに愛用の長剣を抜き放ち、いつでも飛び出せるように低い姿勢を取っている。


最強の剣聖と、王国の至宝たる二人の魔法使い、そして物理法則を書き換える僕。

これ以上ない、最高で最凶のパーティだ。


「よし、行くぞ。ターゲットはバルバトス伯爵と、正体不明の魔族。僕たちの平穏な学園生活を脅かす害虫の駆除だ」


僕がホログラム画面の【ENTER】キーを叩いた瞬間。

図書室の空間が青白い光と共に歪み、僕たちの体は一瞬にして王都の夜をすり抜けた。


視界が切り替わった先は、ドローンが映像を送ってきていたバルバトス伯爵邸の地下隠し部屋だ。


「なっ!?き、貴様ら、どこから侵入した!」


突然空間から現れた僕たちを見て、バルバトス伯爵が椅子から転げ落ちて悲鳴を上げた。


「こんばんは、伯爵。そして、初めまして魔族さん。夜分遅くに不法侵入して申し訳ないが、あなたたちには今から死んでもらう」


僕が冷たく宣告すると、伯爵の背後に漂っていた『黒い靄』が、蠢くように形を変え、巨大な悪魔のようなシルエットを形成した。


『小賢しい人間のガキ共が。我が結界をすり抜けてくるとは褒めてやるが、自ら死地に飛び込むとは愚かな』


魔将と名乗ったその怪物が、部屋の空気を凍りつかせるような凄まじい殺気を放った。

高濃度の魔力にあてられ、普通の人間なら呼吸すらできなくなるほどのプレッシャーだ。


しかし、僕の隣に立つ三人の少女は、一歩も引かなかった。


「愚かなのは貴方たちですわ!王国の民を脅かし、アレン様を狙うなど、万死に値します!」


シャルロットが叫ぶと同時に、彼女の杖から太陽のように眩い極大の炎球が放たれた。


「ベアトリス、合わせて!」

「ええ、シャルロット様!絶対零度の檻に閉じ込めますわ!」


ベアトリスが即座に氷の魔方陣を展開する。

迷宮実習の時よりも遥かに洗練された、炎と氷の融合魔法。

魔将が放とうとした闇の障壁は、急激な温度変化による熱膨張と収縮によっていとも容易くガラスのように粉砕された。


『チィッ!人間の小娘風情が!』


防御を破られた魔将が、苛立ちと共に鋭い爪を振り下ろそうとした、その瞬間。


「よそ見してる暇、あるの?」


リズの姿が掻き消えた。

音速を超える踏み込み。

魔将が反応するよりも早く、リズの剣が黒い靄の腕を根元から綺麗に切断していた。


『グガァァァァッ!?な、なんだこの女の速度は!?』


「アレンの作ってくれたシャンプーのおかげで、髪の毛と一緒に剣のキレも良くなってるんだよね」


リズが軽口を叩きながら、さらに二撃、三撃と魔将の巨体を切り刻んでいく。

物理的な肉体を持たないはずの魔族が、剣聖の圧倒的な剣気によって形を維持できなくなり、ボロボロと崩れ落ちていく。


「ひぃぃっ!ま、魔将閣下が、ただの子供たちに……!」


部屋の隅で震えていたバルバトス伯爵が、恐怖に顔を引き攣らせて逃げ出そうとした。


「逃がしませんわ。大人しく法の裁きを受けなさい」


ベアトリスの放った氷の鎖が、伯爵の四肢を壁に縫い付けた。

これで人間の裏切り者は無力化完了だ。

残るは、部屋の中央で再生を試みている魔将だけである。


『オノレ……!ニンゲンゴトキガァァァ!』


魔将が残された全魔力を暴走させ、周囲の空間ごと自爆しようと周囲に黒いエネルギーを圧縮し始めた。

これほどの魔力が爆発すれば、伯爵邸どころか王都の北区画が丸ごと消し飛んでしまう。


「アレン様、自爆しますわ!」


シャルロットが悲鳴を上げるが、僕は一切焦ることなく、左腕のスマートウォッチを操作した。


「慌てるな。あんな非効率なエネルギーの圧縮、僕の計算速度の前では止まっているも同然だ」


僕は事前にセットアップしておいた【戦術核相当・空間切断魔法】のアプリを起動した。

周囲の被害をゼロにするため、攻撃範囲レンジを『魔将の核』のみに極限まで絞り込む。


「悪いね。僕たちは君たちみたいなのと長々と戦う趣味はないんだ。明日も学園の授業があるんでね」


僕が指先でホログラム画面をスワイプした瞬間。

青白い、髪の毛ほどの細さの光の線が、僕の指先から魔将の眉間へと音もなく真っ直ぐに伸びた。


『……ガ?』


魔将が間抜けな声を漏らした。

次の瞬間、空間そのものが「ズレた」。


魔将の圧縮していた黒いエネルギーも、その忌まわしい肉体も、すべてが物理法則の枠外へと切断され、何事もなかったかのようにプツンと消滅したのだ。


爆発音も、閃光もない。


ただ、ゴミ箱のファイルを削除デリートしたかのように、魔族という存在そのものがこの世界から消し去られたのである。


「……終わったよ。みんな、怪我はない?」


僕が端末をスタンバイモードに戻して振り返ると、三人のヒロインは呆然とした顔で僕を見つめていた。


「アレン様……今のは、一体……?」

「空間の座標を少しだけ書き換えて、あいつの存在を次元の彼方に隔離しただけだよ。ほら、証拠の録画データも完璧だ。これで王国の危機は去った」


僕が笑って言うと、リズが大きなため息をついて剣を鞘に収めた。


「もう。私たちが頑張って削ったのに、最後のアレンの魔法がデタラメすぎて、全部持っていかれちゃったじゃない」

「本当ですわ。アレン様の前では、私たちの努力すら可愛らしく見えてしまいますわね」


ベアトリスも苦笑いしながら肩をすくめた。

シャルロットは目を輝かせ、僕の手を両手でギュッと握りしめた。


「さすがは私の英雄様ですわ!これで、お兄様の嫌疑も晴れますし、王国は救われました!アレン様、愛しておりますわ!」


シャルロットのストレートな愛情表現に、僕は顔を赤くして視線を逸らすしかなかった。

こうして、王国の転覆を狙った魔族の暗躍は、僕たち四人の深夜の電撃戦によって、誰にも知られることなくたったの五分で解決してしまったのである。



翌朝。

王城の謁見の間に、ヴァンルージュ公爵を通じてバルバトス伯爵が引きずり出された。


僕が提出した【天界の端末】のクリアな録画データと音声データを見せられた国王は、激怒のあまり玉座を叩き割らんばかりの勢いで伯爵を断罪した。

伯爵家の取り潰しと、関係者の徹底的な粛清が即座に決定された。


「アレン・ログレー。そしてリズ嬢、ベアトリス、我が娘シャルロットよ。そなたらの働き、まさに王国の救世主である!この功績に報いるため、どのような褒美でもとらすぞ!」


国王が興奮冷めやらぬ様子で僕たちに宣言する。

ここで下手に領地や爵位をもらえば、いよいよ王都から逃げられなくなってしまう。

僕は必死に頭を回転させ、最も無難で、かつ平和な提案を口にした。


「陛下。僕たちが望むのは、王国の平穏と、学生としての身分を全うすることだけです。ですから褒美は結構です。ただ……来週に迫った学園祭を、どうかお忍びで楽しみにいらしてください」


僕の謙虚すぎる回答に、国王は涙を流して感動し、深く頷いた。

こうして、魔族の影という巨大なシリアス展開をあっさりと粉砕した僕は、本来の目的である「平穏な学園生活(という名の内政チート)」へと戻ることができたのである。


しかし、僕が学園祭で提供しようとしている現代の『ジャンクフード』が、魔族以上の衝撃を王都に与え、国王を巻き込んだ新たな大騒動を引き起こすことになるとは、この時の僕は知る由もなかった。

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