表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

たったコップ1杯

作者: あの人

水が飲みたくてたまらん、喉がカラッカラだわ。

目の前がぼやけてきて、だんだん見えんなってく……。


おれは、竹山たけやま 晴彦はれひこ

父ちゃん、母ちゃん、おれ、妹の4人家族だったんだて。


うちは裕福とは言えんけど、困っとるほどでもなくて、まぁそれなりに幸せに暮らしとった。


でも、父ちゃんが兵隊で呼ばれてってから、つらい毎日が始まったんだわ。

おれは、その時、何で父ちゃんが行かんならんのか分からんかったけど、戦争だってのは、あとから聞いた話だわ。


母ちゃんは、それからずっと、おれと妹のために必死に頑張っとった。

たまに顔が腫れとったこともあったけど……きっと、なんか盗ってきたんだらぁな。


だからこそ、おれは残さず食べて、母ちゃんに「ありがと」って気持ち伝えたかったんだて。


そのうち、母ちゃんが倒れてまった。

代わりに、おれが学校やめて働きに出たんだわ。

仕事は兵隊さんの荷物運んだり、重たいもんかついだり、そんな毎日だった。


でも戦争が激しくなってきたのか、うちのあたりにも爆弾がよう落ちてくるようになったんだわ。

びびりながらも、病気の母ちゃんと、帰りを待ってくれとる妹のために、死ぬ気で働いとった。


そんなある日、父ちゃんが戦死したって知らされた。


母ちゃんはそれ聞いて、病気が悪化して、ほとんど起きれんようになってまった。

妹は、まだ小さくてよう分からんかったのか、ずっと父ちゃんのこと聞いてきた。


おれも受け入れられんかった。つい、妹に怒鳴ってまった。


「もう、あっち行っとって!」って。


妹はびっくりした顔して、母ちゃんのとこ行っちゃった。


その日も、朝早くから仕事で家を空けとった。

それが間違いだったんだわ。


母ちゃんと妹、二人とも死んでまった。


いつも通りの空襲警報だった。

でも、まさか落ちるなんて思っとらんかった。


いや、思いたくなかっただけかもしれん。


家の近くに爆弾が落ちて、母ちゃんは寝たきりだったもんで逃げれんかった。

妹も、まだ子どもで何も分からんかったんだわ。


おれが帰ってきたときには、もう火の海だった。

家族も、家も、何もかも、全部、無くなってまった。


そっから仕事もせんようになって、何もやる気が起きんようになってな。

でも、金なんてあるわけないで、身体は痩せ細って、骨ばっかになっとった。


それでも腹は減る。

たまたま見かけた人から、ご飯盗ったんだわ。


必死で逃げたけど、大人の足は速かった。

すぐ捕まって、殴られて終わりだったけど……腹は減ったままだった。


もう一回、母ちゃんのご飯が食べたい、って思った。

でも、もう力も入らんし、喉が乾いて仕方ない。


ふと、上から何かポタポタ落ちとる。

目も見えんけど、水やと思って、それを口に入れた。

一口、また一口……。


それでも、喉の渇きは消えんかった。


だんだん、辺りが暗うなってきた。

まだ昼やと思っとったけど、どうやら夜だったみたいや。


寝るとこ探そうと立ち上がろうとしたけど、力が入らん。

それどころか、目の前がどんどん暗くなってく。

もう、ほとんど何も見えん。


おれ、どうなってまったんだろか――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ