小さな君を守る大きな嘘
その生徒に対してどう対処すべきか。
私達は皆で何度も話し合った。
特に生徒のご両親とは入念に。
「私達の我が儘を聞いていただけないでしょうか」
そしてご両親が深々と下げた頭を見て私達は決めたのだ。
皆で支え、秘密を守っていこうと。
その甲斐もあり、あの生徒は普通の子供達と同じように過ごせていた。
つまり学校に来て学び、遊び、時には悪戯をして叱られる。
そして放課後になれば自宅に帰ってご両親と共に温かい食事やお風呂を堪能して眠る。
どこにでもある子供として生きていけた。
だからこそ、私達は卒業式の日に驚いた。
「お父さん、お母さん。そして先生、生徒の皆、ありがとう。僕を人間として扱ってくれて」
呆然とする私達の前であの生徒は一枚の新聞を取り出す。
一人の男の子が死んでしまった交通事故の記事が載った新聞を。
「僕はあの時に死んでいました。僕自身それをよく知っていました」
息を飲む大人と子供の前であの子は告げた。
「だけど認めたくなくて僕は嘘をつきました。バレバレの嘘を。それでも皆、騙されてくれました」
あの子は深々と頭を下げる。
あの子のご両親と同じように綺麗な姿勢で。
「だけどもう卒業します。いえ。卒業出来ます。皆と同じ日に、皆と同じように」
その言葉と共にその子は壇上を降りた。
幽霊であるなんて誰も信じられないほどに自然な様子で。
固まる私達を揶揄うように。
卒業式は滞りなく進行した。
まるで彼の告白などなかったかのように。
だからこそ、何時の間にかあの子が居なくなった事に誰も気づかなかった。
皆であの子を騙していたはずなのに、気づけば皆があの子に騙されていたような、そんな不思議な気分だった。
そして今、誰一人欠けることなく映っている集合写真は私の机の上に飾られている。